♰Chapter 7:朝凪祭に向けて
教室に担任が入ってくる。
朝のHRに引き続き、今日の一限目は彼女が担当している。
「新入生の君たちも凪ヶ丘高校での生活にはそろそろ慣れてきたかな?」
「もうバッチシですよ、先生!」
代表して答えたのは学級委員の錦だ。
こういう時に進んで反応するのだから、教師受けもいいだろう。
「うんうん。いい返事だね! さて、このクラスの中にもこれをメインに志望理由を書き上げた生徒がいたはずだと思う! 六月下旬の学校行事・体育祭――通称”
黒板に真っ白なチョークで朝凪祭の文字が書かれる。
それからプロジェクターが起動され、黒板横のスクリーンに朝凪祭の詳細が表示される。
大まかにまとめるならこんなところだろう。
凪ヶ丘高校では六月下旬ごろに通称”朝凪祭”と呼ばれる運動の祭典がある。
クラスや学年、あるいは個人で色分けされた自チームの点数を加点していくシステム。
色は赤、青、黄、緑の四ブロックだ。
俗にいうマンモス校のような巨大規模の学校であるため、第一グラウンドと第二グラウンドの二つを使って、同時並行的に競技を行う。
ブロック最優秀賞のほかに各種目ごとに最優秀賞があり、クラス内で必要な物が買える”学級費”なる賞金が設けられている。
もちろん私的利用は厳禁だが、これから来たる文化祭等のクラス予算に転用することが可能だ。
競争意欲を高めつつ、不真面目に取り組もうとする人間を抑制するシステムだ。
「六月に入った今、本日から朝凪祭の競技演目の開示と練習、諸々の決めごとを行ってもらう。一限目はまず朝凪祭実行委員の選出とそれが終わり次第、各自各種目の確認、選抜メンバーのみで出場する競技についてはその参加者も決めてもらうよ」
それから担任は錦と笹原を指名する。
「錦くんと笹原さんは朝凪祭実行委員の選出までの指揮とサポートをお願いね。諸々の書類はプリントしてあるから。わたしは少し寝……るぅ……」
自由奔放な女教師は手近な椅子を引き寄せると目を閉じた。
言葉がしりすぼみに小さくなって、すっかり眠ってしまったようだ。
先程までテンション高く話していたのだが、まるでジェットコースターだ。
クラスから漏れる苦笑や微笑ましいものを見る視線。
担当科目や生徒の悩みには積極的に向き合うため、信用は厚い。
一方で自分が手を貸さずに物事を進められるなら全てを任せる一種の放任主義ではあるのだが。
……オレ的には私立とはいえ、教師が取っていい態度には思えないが。
「まあ先生が寝るのはいつも通りだ。俺たちもやることやって朝凪祭を楽しむぞ!!」
「「「「「おお~!」」」」」
錦が号令をかけるとクラスは纏まった。
「じゃあまずは朝凪祭実行委員から。男女一人ずつだね! ええと……このプリントによると仕事内容はこれ以降の朝凪祭の種目決め、練習のときの先導、先生や他クラス・他学年の人との打ち合わせなどなど。やりたい人はいる?」
笹原が教室を見渡す。
誰も手を挙げないことに痺れを切らした一人のクラスメイトから提案が出る。
「誰もいないなら運動のできる奴に任せてもいいんじゃないかな。朝凪祭って文化祭の予算とかに追加できる賞金があるんだろう? 本気で勝ちに行くならそのほうが良いんじゃないかな?」
クラス内からも賛成の声が多く上がる。
「それならそうするか。もちろん嫌だったら拒否してくれていいからな」
錦はプリントを数枚捲る。
ご丁寧に五月に行った身体能力測定の結果がリストアップされているらしい。
「まず男子だが……身体能力測定だと
久留米と名指しされた男はあまり興味がなさそうだった。
「まあ、錦が言うならやるぜ。あんまりこういうまとめ役は得意じゃないけどな」
「そこは任せろって! 俺もできる範囲でサポートするからよ!」
「ならやらせてくれ」
男子はすんなりと決まった。
「次に女子だが……お、水瀬さんが一番だな」
基本的に身体能力測定は時間内に全部周れていれば良しとするもの。
オレは一人で全部周ったため、必然的に水瀬とはバラバラだった。
どうやらクラスで一番運動ができる女子だったらしい。
「ええと、私……?」
困惑したような表情の水瀬。
まさか自分がそんなに運動ができるとは思っていなかったのだろう。
魔法を使わずとも文武両道な才女というわけか。
「水瀬さん、やってみない?」
「ええと……」
視線でオレに訴えかけてくる。
とても前向きとは思えないが、どうしようもない。
無慈悲にもオレは窓の外を見た。
「……分かったわ。引き受ける」
観念したような水瀬に悪いな、と心のなかで謝罪する。
恨むべくは身体能力測定を馬鹿正直に全力でこなした自分だろう。
程々にこなし、程々に結果を残す。
それがもっとも穏やかな学生生活を送るために必要なことだ。
水瀬は教壇に立つと早速仕切りを交代する。
この後は順当に種目決めが行われ、オレは上手いこと全体種目だけの参加に終わる。
水瀬と錦と笹原と。
ジト目で見られたが何食わぬ顔で無視することにした。
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