『最近、原因不明のレベルアップに悩まされている。』(だぶんぐる版)【自主企画作品・3】
だぶんぐる
だぶんぐる版・『最近、原因不明のレベルアップに悩まされている。』
【前書き】
本作は、自主企画『あなたの作品を原作で書かせてもらえませんか?』の応募作。
『@netauth01』様の『最近、原因不明のレベルアップに悩まされている。』を原案にだぶんぐる改変で書かせていただいております。
また、原作連載中の為、敢えて方向性をズラさせていただいております。違いを楽しんで頂けると嬉しいです。
ご提供ありがとうございます。是非、原作もお読みください。
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『レベルが上がりました』
レベルアップ。ゲームが好きな人間であれば知っているだろうその言葉。
格とか段というべきか、経験値の高さ、ランクといってもいい。とにかくレベルが高ければ高いほどすごい。強くなったり、魔法が使えるようになったり、はたまた移動手段が増えるなんてのもある。ゲームの数多ある数値、ステータスの中でレベルとは何よりすごさが明確になるものだ。
なので、ゲーム好きである俺にとっては、レベルアップとは達成感に満ち溢れた喜び。
……のはずなのだが、最近悩まされていることがある。
『レベルが上がりました』
最近、こんな声が聞こえるようになってきた。やかましいレベルアップの音楽と共に。
天瞳凜
種族:人間(日本人)
レベル:17歳(高校2年生)
学力:C
運動:C
容姿:Cプラス
センス:C
ゲーム:B
部活:無所属
趣味:寝ること
スキル:寝床不問(ネドコトワズ)=どこでも寝られること
バイト:飲食店接客
もし、今の俺にステータスがあるならこんな感じだろうか。
まあ、都内に住むごく普通の高校2年生。
自慢できるのは、容姿A、学力A、運動Aの妹と、優しさSSSの母親がいることくらい。
それ以外はありふれたステータスのただネルノダイスキー。
なんのドラマもスキルアップも出来そうにないバイトを終え、それでもわずかな時給という充実感に満たされて眠る。
俺の素晴らしくも気が滅入りそうな日常。
……を邪魔する者。
そいつは現世に囚われた不器用貧乏(物理)である俺の唯一の楽しみを奪おうとしていた。
『レベルが上がりました』
俺の自称スキル【寝床不問(ネドコトワズ)】はあらゆる敵を倒してきた。工事の騒音も、暴走族の『こんな世界ぶっ壊れちまえ! ヒャッハー!』という奇声も、酔っぱらいの『こんな世界ぶっ壊れちまえ! ヒャッハー!』という叫び声も、ホームルームの担任の『こんな世界ぶっ壊れちまえ! ヒャッハー!』という怒声も!
……いや、最後のは違うかもしれない。夢の中で聞いてたからそもそも全部違うかもしれない。たとえ火の中水の中、草生えた中、草生えすぎてもはや木、木生えすぎてもはや森の中、あの子のスカートの中、なかなかスカートの中は大変だけど、必ず睡眠をゲットする自信がある! スイミンマスターにも睡眠王にもなれる俺は神も唸るほどだろう(自称)。
『レベルが上がりました』
だが、これはそういうレベルではない。
フルダイブゲームのナイーブなギアを脳内に直接挿し込まれた感じで脳内に響いてくる。耳栓もあえて音楽を流したヘッドホンも効果はいまいちだ。
一度母に真面目に相談した。
「ゲームのやりすぎでおかしくなってるのよ。ゲームから離れなさい」
真面目に返された。
確かに俺はゲームが大好きだ。特にソシャゲは大好きで一時『〇マ娘プリディーダービー、ガシャン!』とゲート音までが毎日のように聞こえるようになっていた。まあ、毎日やっていたからだけど。
なので、母の真面目な忠告を真面目に受け止めた俺はゲームを控えた。
『レベルが上がりました』
なのになぁああ!
夜、レムかノンレムか知らないがすっごくいい感じのところでコイツが鳴り響く。
「くそう! 許せねえ!」
こんなにレベルアップが疎ましいと感じる日が来るなんて思っていなかった。
俺は、日課になり始めた筋トレを始める。ソシャゲを辞めた俺が出来ることなんて筋トレくらいだ。
勉強? なにそれおいしいの?
あと、普通に筋トレして疲れたら多少寝れる。
「ふ……! ふ……! ふ……!」
レベルが上がったのが関係あるのか分からないけれどどんどん出来るようになってきてぶっちゃけ達成感はある。
汗も出てきていい感じにパワー! を感じ始め落ち着いてくると、視線が。
「雷華」
「ひゃい!」
戸の隙間から俺を見る美少女。ちょっと赤みがかった茶色の髪のショートも大きな瞳も通った鼻筋も可愛らしい口もすらりと伸びる手足も実に美しい、神の造形物、自慢の妹雷華だ。
「今日もタオルと水持ってきてくれたのか? 夜中にいいのに」
「あ、あはは……いや、別に私がしたいだけだから、ね?」
そう言って雷華は汗だくの俺にタオルと、水道水の入ったコップをくれる。
雷華が入れてくれれば水道水もエリクサーと化す。
雷華の大きな瞳の視線を感じながら俺はごくごくと水を飲み干す。喉を通る水が汗だくで疲れた身体の隅々までいきわたっていく感覚が気持ちいい。
「ぷはぁ……いや、雷華のくれた水は最高だな。って、雷華?」
「お兄ちゃんの身体に私が入れた水が入っていく。これはもはや……」
ちょっと雷華が何言ってるか分からない。学年が違えば知力のレベルも違いすぎる。
きっとそういうことだ。
「あ、ご、ごめん。ちょっと妄そ……考え事をしてた。じゃあ、汗かいた服預かるわ。洗濯機に入れておく」
「いや、いいって。それくらい自分で」
「あずかるわ」
圧。
俺と一緒に洗濯されるのが嫌なのだろうか。確かに、俺は雷華の父親代わりのつもりではあるが。世の中のパパ、辛いな……分かるよ。
渋々服を脱ぐ俺。早く着替えないと雷華に怒られる。まあ、裸を見るのは平気なようなので、世の中のパパよりマシか。悪いな、パパ。あ、安心してください履いてますよ。
「パンツも」
安心してください。流石に断りました。
『レベルが上がりました』
ベッドに入った途端聞こえる音楽と声。
だが、筋トレと妹とのコミュニケーションに疲れ切った俺には、おやすみなさいにしか聞こえなかった。
まあ、3時間しか寝れんけど。
「ふあぁああ。眠い」
レベルアップ音が毎晩鳴りやまない俺の欠伸は止まない。
毎日9時間睡眠を心がけてた俺にとって、とぎれとぎれの睡眠はキツすぎる。
「天瞳君、君ってやつは。いつも欠伸をしているじゃないか! どうしていつも寝ているのにそんなに欠伸がでるのかボクはキミの事が不思議でたまらないよ」
「一ノ瀬か……いや、これには事情があってな……」
低身長でボクっ娘。
一ノ瀬芽衣は可憐な少女で分け隔てなく優しい生まれつきの委員長だが、いつも眠気が収まらない様子の俺に不満なのかつっかかってくる。いや、これもまた委員著の性か。
「言い訳はしない! いい? キミには誇り高き聖華学園としての自覚が……」
委員長の声はキーが高い。高いのだがめちゃくちゃかわいい声で癒される。ああ、眠気がすごい……いいな……この声、好きだな……委員長ボイスで眠りたい。
「委員長の……好きだな……委員長の声聞きながら、ベッド……」
そしたらめっちゃ寝れそう……いや、今も……
『レベルが上がりました』
いや、お前の声は聴きたくないんじゃい!
がばりと起き上がると委員長はいなくなっていた。
激しい物音が聞こえ廊下を見ると委員長が廊下をめっちゃダッシュしてた。
何か慌てることがあったのだろうか。
でも、委員長。廊下は走っちゃダメなんだZE☆
「しかし、今日はなんかヤバいな……眠い空気だ……」
そんな空気があるかは知らないけど、マジで空気が甘ったるいというか濃いというか、深呼吸するだけでなんか気持ちいい。え? この学校なんか変な薬撒かれてる?
でも、みんなは普通の様子で過ごしている。
「俺だけが変なのか? けど、なんか……おなかいっぱいで眠い……」
俺は快眠の予感を感じ、誰にも知られていない安眠スポットで眠りにつくことにした。
安心してください。親友にうまく誤魔化しといてねとメモで頼んでおきましたよ。
そして、俺は眠りについた。
深い眠りに。
だから、気づかなった。
何が起きたかなんて。
「……いや、どういうことよ?」
目が覚めると、そこは夢のような非現実的な世界が広がっていた。
まず、学校には誰もいなかった。いや、いなくなっていた。グッチャグチャ。
壁はひび割れ、物は散乱。僅かだけど血の跡。火災報知器が鳴り、スプリンクラーも動いてびしょびしょ。
そして、そのボロボロの学校から見える外の景色。
いつもの穏やかな街並みではなく、サイレンの音がせわしなく鳴り響き、ヘリの音、行きかう人々、大渋滞でなり続けるクラクション、そして……
「なんだよ、これ……?」
視界を半分以上遮る場違いなピラミッドみたいな何か。ファンタジー世界から落っこちてきたような何か。
妙に心臓の鼓動を速める何か。
それが……校庭に在った。
「ダン、ジョン……?」
何故か口をついて出た言葉。
「いやいやいやいやいや、嘘だろ。なんでだよ、これはゲームじゃねえんだぞ……映画の撮影? なわけねえだろ。普通映画ってのはちゃんと事前に連絡があるんだよ。じゃあ……コレは……なんだよ……」
俺は、ダンジョンと呼んでしまったそれを見て確信する。
コレが俺達の日常を変える。
俺が呑気に寝ている間に日常を壊され始めていた。
みんなは逃げたんだろうか。校内には誰もいない様子だ。ダンジョンでおなじみのモンスターが出てきたわけではなさそうだから、避難っぽい。
「はあはあはあ……らいか……! 雷華! 母さん!」
俺は慌てて駆け出した。もう学校は色んなメディアやらなんやらが囲み始めていた。
俺と数人しか知らない裏にあるアーチェリー部の練習場の奥にある金網に空いた穴。
そこから俺は這いずり出てダンジョンを背に俺は走り続けた。
少しでも俺の日常が無事であることを祈りながら。
『ステータスを取得しました』
「うるせえええええ! それどころじゃねえんだよ! 黙ってろ!」
俺は振り返らなかった。脳に響く声がやたらムカついた。
「母さん! 雷華!」
「凜!」
「おにいちゃん! 助けて!」
ウチの前で母さんと雷華がおっさん共に囲まれていた。
「くそ! こういう時本当に人間なにしでかすかわかんねえな!」
ダンジョンが出来た時に大地震が起きたらしい。通り抜けたボロボロの街を見て青ざめた。
こういう時、悔しいが犯罪者の動きが一番早いって聞いてた。
母さんも美人、雷華も芸能人レベル。警戒すべきだ。どこか避難所に行ってればいいのに。
「俺のせいだ……!」
俺が寝てたせいで二人は……!
「くそくそくそくそくそくそおおお!」
身体中がかっと熱くなるのを感じ、その熱のまま俺は足に力を込め地面を蹴る。
その瞬間、突風。
物凄い風が俺を押し返そうとしてくる。なんだこの風……!
「どけよ……」
俺は足が地面につくその瞬間、息を吸う。
『レベルが上がりました』
頭に響く音と声がうるさい!
「どけえええええええええええええ! ……って、え?」
気付けば俺は、母さんと雷華の前に立っていた。
多分、2歩で。
「凜、あなた……!」
普段驚くことのない冷静な母さんが目を丸くしている。
いや、俺も驚きだよ! なにこれぇえええ!?
っと、今はそんなこと考えてる場合じゃない!
「母さん! 雷華! こいつらから離れ……え?」
振り返ると、犯罪者共は吹っ飛んだみたいに倒れて気絶していた。
「凜、あなたの飛び込んできた衝撃でみんな吹っ飛んだわよ。雷華も気絶しちゃって……」
「雷華! ごめん! でも、なんで、かあ……さ」
あ、やばい……なんか、すごい眠気が……。
「常田先生のところで身体に異常がないか視てもらわないと……」
母さんの優しい声が聞こえる。ああ、常田先生ね……あのせんせい、なら……。
そして、俺は眠りについた。
『レベルが上がりました』
あまりに疲れたせいかレベルアップの音も声も心地よかった。
一年後。
世界は一変した。
ダンジョンが現れ、その中にはやっぱり魔物という恐ろしい奴らがいて、人間にも超人みたいな人たちが現れ、ステータスやスキルという概念が当たり前になっていった。
ダンジョンで発見された魔石と呼ばれる天然資源が高値で取引されるようになったが、魔物がいるという危険性から及び腰になった政府は、民間に託すことで責任を放棄した。
と、ネットニュースに書いてあった。
魔石、そして、魔物の体内にある魔石の何倍も濃縮されたエネルギーを持つ魔核を手に入れるため、人々はダンジョンに潜った。
人呼んで、ダンジョンドリーム。今年の流行語大賞候補だと俺は思っている。
世は大ダンジョン時代。ダンジョン王に俺はなると冒険者と呼ばれる者たちがダンジョンへと飛び出していった。
俺もまたダンジョンへと潜る。
母さんを楽させるためにも一番これが早いと思ったから。
それに……
『レベルが上がりました』
いつもの音楽と共にレベルアップアナウンス。
「ふわあ、やべ、寝てた」
立ったままうつらうつらしていたらしい。
身体は無事だし、周りは死んでる。よかった、大丈夫だ。
「ギシャアアアアア!」
「ああ、悪い悪い。こればっかりは仕方ないだろ。勘弁してくれ、よっ……!」
俺が寝ながら戦っていたせいかいきり立った人狼が両手を振り回しながら襲い掛かってくる。しかも、仲間と三方からの一斉攻撃。
「やれやれ……【陽炎渡】」
恐ろしいほどの緩急の差をつけた足捌きによって残像を生み出す歩行スキル【陽炎渡】で人狼達はギッと睨んでいた目を丸くさせる。
「……っと」
脳と身体をフル回転させる上級スキル【陽炎渡】。上級冒険者でも切り札にしか使わないそのスキルは身体への負担が大きい。人狼達を躱して部屋の入口までやってきたところで足が止まる。それをチャンスと見たのか人狼は再び俺めがけて飛び掛かろうとする。
「おーおー、気合入ってるなあ……ふう」
俺は人狼達が来るのを待ち構える。すると、
『レベルが上がりました』
「うっせえわぁあああああああああああ! ちょっと足休めただけだろうがぁあああ!」
俺は脳内に響く声を怒鳴りつける。
その勢いでスキル【竜咆】が発動し、人狼の一匹が吹っ飛んでいく。
「ああ、しまった! 俺の運動相手が!」
俺のこの謎の声が鳴り響く理由。
その理由は分かった。
俺のユニークスキル【怠惰】が原因らしい。
ユニークスキル【怠惰】
何もせずにレベルが上がる。また、眷属を作り経験値の1割を納めさせられる。
うん、めっちゃすごいスキル。
だが、逆に考えるんだ。
『何もしないと』レベルが上がるんだ。
『レベルが上がりました』
うるっせええええええ! ぱぱぱぱっぱっぱっぱーんじゃねえんだよ!
いつものレベルアップ音に合わせてレベルアップアナウンス、略して、レベアナが脳に響き渡る。
マ ジ で う る さ い
寝てたらレベルが上がり続けることが判明。めっちゃ大音量で。
ちなみに、なんか音量設定とかできるかステータス画面にコンフィグとか叫んでみたりとか色々してみたけどダメだった。
その上、【怠惰】さんは、足を止めてちょっとゆっくりした時間さえも怠惰と認識しレベルを上げる。
まるで俺にはやるべきことがあると言わんばかりに。
おかしくない?
怠惰なのに、怠惰になれないなんておかしくない!?
「くそがぁああああああああああああああ!」
俺は、闇属性の魔力の玉を大量に生み出し続ける。ぶっちゃけヤケ。でも、マジでみんなちょっと足を止めた瞬間に声聞こえてみ? マジでうるせえから!
「ふははははは! どうだ! 怠惰め! これなら休んでないだろう! ふぅっ」
『レベルが上がりました』
「一気にしゃべったから一息ついたってだけでレベル上げてんじゃねえよお!」
スキル【怠惰】によってレベルが上がりすぎた俺はもはや人外の領域。
自己治癒能力が高まりすぎて、息を吸えば完全回復。つまりは休憩ととらえられてしまう!
「ふぅーはぁーふぅーはぁー、落ち着け~落ち着け~俺~」
『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』
心を落ち着かせようとした深呼吸。繰り返すたびにレベアナが鳴り響く。深呼吸によってダンジョン内の魔素を吸い、魔力が完全回復するうえに、精神異常を含む状態異常を治療してしまう。つまりは、休憩、らしい。
「すぅーはぁー『レベルが上がりました』……すぅーはぁー『レベルが上がりました』……すすすすすす『レレレレレベルが上がりました』ぅはぁああああああ『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』すうううううううう『レベルが上がりました』うっ……せええわぁああああああああああ!」
怒りの咆哮。ただ叫んだだけだが人類最強レベルとなった俺の咆哮は、獣王の最強スキルの一つ【獣叫】と変わらない魔力が乗った声となり、ダンジョンそのものを揺らし、近くにいた残りの人狼は声の振動に脳を揺らされくらくらと倒れ込んでいく。
「俺はただ……ゆっくり寝たいだけなんだよお!」
「ならば、我が貴様に永遠の眠りをくれてやろう」
その声はレベアナと同じく芯に響くような声だった。
振り返ると、真っ黒で蝙蝠のような翼を生やした男が真っ赤な歯を見せて嗤っていた。
「我が名は魔人ゾラ。貴様が不眠不休(ネムラズヤスマズ)のダンジョンジャンキーか」
魔人ゾラは名乗りを上げると、すぐさま、緑の魔力を圧縮させた風球を生み出し嵐を放ってきた。
「うおおおおおおおおおおお!?」
俺は吹き飛ばされながらもなんとか態勢を変えて連続で放たれる『風球』を躱し続ける。
風球は時に嵐の渦に、時に風の刃に形を変えながら俺を追いかける。
「ひゃっはっは! 強いといっても所詮人間! 人間如きではこのレベル510のゾラ様に勝てまい!」
「レベルッ!? 510!? 残念だったな……人類最強と言われている勇者は、レベル720だぞっ!」
「ひゃは! お前らのレベルは人族のレベル。我のレベルは魔族レベルだ。そうだなあ、大体1000倍と考えろ。我のレベルは、つまり……人レベル、51万だ」
ゾラが再び真っ赤な歯を見せつけて風球を10個同時に放ってくる。
流石に避けきれない!
「ぐあああああああああああああ!」
壁に叩きつけられ身体がめり込む。
「人類最強の勇者が人レベル720か……貴様は、我に負けているという事だな」
「ひゅー、ひゅー……あ、ああ……そうだな……負けてる……お前みたいな魔人は、まだ、いるのか?」
「我は上級魔人。上級は13人しかおらぬ。その上に魔王様。お前は……この前現れた魔人が最強と思っていたか? 残念、アレは最下級魔人。魔族レベル1の雑魚だ。死んだとは聞いたがどうせ束になって漸くであろう。さあ、どうする!? 千人最強を集めてくるか!?」
『……した』
「うるせえよ」
「なに?」
ゾラが怪訝な顔をしている。ああ、悪いことをしたな。
「ごめんごめん、お前にじゃないよ。ふう……」
『……りました』
さっきからずっとこいつがうるさい。
『……上がりました』
脳内で。
『……ルが上がりました』
「だから、うるさいってんだろうが!」
「うるさいのは貴様だぁあああああ! 【嵐撃】!」
ゾラが風の魔力を込めた拳を俺にぶつけてくる。だが、もう……
『レベルが上がりました』
「もう、お前のレベルは越えた」
俺はゾラの一撃を受け止め、押し返す。そして、【陽炎渡】とは真逆【蒼月跳】で一瞬で間合いを詰め、【黒撃】でゾラを殴り飛ばす。
ゾラはさっきの俺と同じく向こうの壁に叩きつけられ、めり込む。
「ば、バカな! 何故さっきまでのお前とは別人ではないか!」
『レベルが上がりました』
そりゃそうだ。俺はもうレベルアップしてしまった。
「俺の身体はな、レベルアップしすぎてレベルアップのスピードそのものさえ上がっている。昔は6時間に一回だったのが、5時間に一回、4時間に3時間に……そして、もはや10秒何もしないだけでレベルが上がる。つまり、何もしなければ俺は一分でレベルが6上がり、一時間で360上がり、24時間で8640上がる」
「は?」
レベルアップの早ささえもレベルアップのせいでレベルアップした。
何いってるかわからねーと思うが起こったことをありのままに話しているだけだぜ、俺。
『レベルが上がりました』
震えるゾラに俺は出来るだけ優しく話しかける。
「だが、安心しろ……俺はこれ以上レベルアップしたくないんだ。レベルアップアナウンスがうるさすぎて一時間しか眠れない。だから、俺は動き続けているんだ。すると、発見があったんだ。なんだと思う? 一生懸命動いて疲れたら眠れるんだ。特に頑張ったなと実感できる労働の後の睡眠は最高だ。ただ、今の俺では強すぎてそれが難しい。だから、俺は今、ずっとオートモードで街をずっとパトロールさせている。その中途半端な疲れが少しずつ回復してレベルアップしまくっているわけだ」
「ま、待て! お前! 今レベルいくつだ……?」
「あん? ステータスオープン」
※※※※※※※※
名前:リン・テンドウ
レベル:541001
耐性:騒音・窒息・毒・麻痺・呪い
攻撃:282028202820
生命:282028202820
魔力:282028202820
※※※※※※※※
「俺のレベルはぁ……今、541001だよ……!」
『レベルが上がりました』
「541002だ……! 魔族と人間の種族レベルの差が1000倍だっけ? お前は今、魔族レベル540だったよな。今魔族レベルなら541だ……! いいよなあ、戦ったらさぞかし疲れるだろうなあ」
そう、俺が睡眠をむさぼる為には、眠くなるまで働き続けるか、強敵と戦うしかない!
ハンデまであげたのにこの前の魔人は弱すぎてあんま気持ちよく眠れなかった!
「さあ、俺を最高の眠りへいざなってくれ! 魔人!」
「ば、バケモノがぁあああああ!」
俺は、久々に全力を出せる相手を見つけて喜びに満ち溢れていた。ああ、全力を出せるってなんて素晴らしいことだろう! 人類最強君でさえ相手にならず『バケモノ』と呼ばれたからな! 誰が人外じゃぼけえええええ!
「いい攻撃だ! こりゃあ疲れるぜ! もっともっと戦おうぜ! ヒール!」
『レベルが上がりました』
「は、はなれろお!」
「おっとっと……ふう」
『レベルが上がりました』
「離れたらまたレベルあがるだろうがあああ!」
「なんで上がるのをいやがる!?」
死にたくはないから回復はさせる。だが、無用なレベルアップは避けたい。
何より、あの無機質なAI音声みたいなやつ聞き続けると頭がおかしくなる。
いや、もうおかしくなってる!
「こんな世界ぶっ壊れちまえ! ヒャッハー!」
俺の最終目標はダンジョン全てを破壊し、全部なかったことにしてこのレベルアップを殺すこと! そして、ちゃんと寝ること! その為に!
「シねぇええええええええええええ!」
「や、やぁあああああああああああああああ!」
魔族がちいさくてかわいい感じになってんじゃねえよ!
その日、俺はよく眠れた。
『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』
多分、起きたら4000くらい上がってる。
だが、今眠れるならそれでいい。
レベルアップに悩まされないこの数時間をかみしめて眠るだけだ。
※※※※※※※※
あとがき
原作は、まずタイトルから素晴らしく、物語がすっきりしていてどんどん読み進めたくなるバランス感覚が素晴らしく勉強させていただきました。雷華ちゃんのビジュアルはだぶんぐるイメージです。
本作は、連載中の作品の邪魔にならぬよう敢えて方向性を変えるためにだぶんぐる流で暴走気味に書かせていただきました。ありがとうございました。
原作は、今ものすごい勢いあって人気作なので、是非そちらをお楽しみください。
『最近、原因不明のレベルアップに悩まされている。』(だぶんぐる版)【自主企画作品・3】 だぶんぐる @drugon444
★で称える
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カクヨムを、もっと楽しもう
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