スピリットキャットボックスー拾った猫が幽霊になって帰ってきた
ばんがい
第1話
「おはようございまーす」
テスト勉強で二週間休んでいたバイト先に少し緊張しつつも、ユキは明るい笑顔で喫茶店の扉を開けた
ユキの声に反応して、のんびりしたマスターの声が聞こえてくる。
「やぁ、ゆきちゃん。久しぶり。テストの結果はどうだった?」
「おかげさまで、悪くはないんじゃないですかね。さぁ、今日からまた頑張りますよー」
「はーい、今日からまたよろしくね」
マスターは、いつもと同じ、のんびりとした声を返した。
その時、店の中から猫の鳴き声が聞こえてきた。
「ン?マスター、なんだか猫の鳴き声がしませんでした。」
ユキは不思議そうにマスターに視線を向けた。
マスターは少し唸った。
「あぁ、それなんだけどね。」
マスターにしては、珍しく目を逸らせながら口をもごもごしている。
マスターがユキにどう説明しようかと思案しているうちに、再び猫の声が聞こえてきた。
猫の声がした方に目をやると、そこには少し汚れた段ボールが置いてある。
おそらく猫の鳴き声はそこから聞こえてきたのだろう。
「やっぱり猫だ。あれ?もしかして私が嫌がるかもって心配してます?大丈夫ですよ。私動物好きですよ。まぁ確かに、喫茶店に動物ってどうなの?って嫌がるお客さんもいるかもしれませんけど。どうしたんですか?誰かから預かってるとか?」
マスターはモゴモゴをやめて、言葉を選びながら、ゆっくりと静かに話し始めた。
「いやぁ、心配しているのはそっちじゃないんだけどね。そうだね、話すよ。実はね、ユキちゃんが来てない間に店の前で猫を拾ったんだよ。
最初は店の前に段ボールが置いてあって、なんだろう?と思ったんだけど、猫の鳴き声が聞こえてきてさ、慌てて中に入れて段ボールを開いてみたら、小さな猫が入ってたんだよ。
酷いことするよね。すごく弱ってるみたいだったから慌てて病院に連れて行ったんだ。かなり危険な状態だったみたいで、病院の方も精一杯頑張ってくれたみたいだけど。どうやら手遅れだったみたい。その猫、病院でそのまま死んじゃったんだよね。」
悲しそうな顔で説明するマスターの話を聞いて、ユキはゾワりと背中に嫌な感覚が走った。
「え?猫が死んだって言いました?だってさっき猫の鳴き声が、その段ボール箱から聞こえてきたじゃないですか。」
マスターはうーんと腕組みをして話を続ける
「そうなんだ、説明しなきゃいけないのはここからで、実はその猫さ、帰ってきたみたいなんだよ。猫が入ってたこの段ボールに。ほら、こうやって開いてる時は何も起きないんだ。だけどね、こうやって閉じるとね、中から猫の鳴き声が聞こえるんだよ。」
マスターが段ボール箱を開くと、中にはタオルが一枚入っているだけだった。
ユキに箱の中にないもないことを見せた後、マスターがもう一度箱を閉じた。
「にゃーん」
すると、猫の鳴き声が確かにその箱から聞こえてきた。
これが手品やドッキリでないことを理解したユキは鳥肌をたてて叫んだ。
「えー!それってつまり、呪われてるってことじゃないですか。やめてくださいよ。私嫌なんですよ。ホラーとかオカルトとかそういうの!」
しかし、マスターは首を横に振って言った。
「いやいや、呪われてるって大げさな。そんなんじゃないよ。これはね、猫が自分の住処に帰ってきただけ。」
「そんなのわかんないじゃないですか!」
ユキの困惑した表情を意に介さず、マスターは落ち着いた調子で話を続けた。
「んー、私には、わかるんだよ昔、猫飼ってたことあるし。」
「猫を飼ったことがあっても、お化けの猫はないでしょ!」
マスターは軽く肩をすくめて言った。
「まぁそうだけど、逆に考えればトイレとかの問題も考えなくていいし、幽霊の猫の方が喫茶店向きじゃない?」
「そんな問題じゃない!」
「じゃぁ、ユキちゃんはこの子をもう一度捨てろっていうのかい?」
マスターにそう聞かれて、ユキは言葉に詰まった。
オカルトやホラーが苦手なユキだが、動物に冷たいわけじゃない。
例え幽霊とはいえ、捨てられて死んでしまった猫に、冷酷な態度が取れるかというとそういうわけではないのだ。
「じゃぁ、成仏させるっていうのならどうです?ほら、猫ちゃんだって、早く成仏した方が幸せかもしれないし」
「んー、まぁ猫自身が決めるなら、私も別にいいと思うよ。別にずっと居てくれてもいいけどね」
冗談ではない。早くこの幽霊猫を成仏させる方法を見つけなければ、ユキはそう決心して、冷や汗と共に拳を握った。
こうして、幽霊猫を飼い続けようとするマスターと、早く成仏させたいユキ、我関せずと段ボール箱の中に居続ける幽霊猫による騒動が始まったのです。
スピリットキャットボックスー拾った猫が幽霊になって帰ってきた ばんがい @denims
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