第二章 設置、破壊、計画

第五話 現代のイフリート(前編)


 大型ホテル兼、秘匿施設ベンケイの機関職員用フロア。

 その一室で、俺は目を覚ます。


 普通の和室然とした部屋だが、壁に白い受話器が設けられている点が北海道支部の収容セルと似ている。

 この世界に転生してきてから、ずっと過ごしてきた機関職員用の収容セル。

 これに似た受話器を使って、食事や衣類……そして装備品が送り届けられていた。


 何気なく見つめた壁の受話器から、音がなる。

 こういうケースも北海道で何度も経験した。


 こちらから連絡するのとは逆に、カラオケの延長確認をするかのごとく壁から呼び出し音が聞こえてくる時。


『もしもし、金谷管理官。出撃だ』

「杉山陸佐か、そんな気はした。階層は?」


 収容物が……現れた!


『Tier.B 炎の怪異アノマリー



『機関呼称 平泉事案

 定期合同任務フトアシ討伐の目的で岩手県██市へ移動中の北海道支部職員が二〇██年█月██日████、██県███郡平泉町██で遭遇した四種の特殊実体及び、それらによって発生が予想される災害の総称。(別図一)


 キュウビ 脅威判定プロトコル・リスク・階層ティアー 測定不能アンノウン指定クラス

 国内正式呼称 九つの狐の尾を持つ人型実体

 四種の特殊実体のうち、平泉甲と認定。

 機関・中華人民共和国支部が保有する民間非公開の地理書███に残る記述において、██世紀から██世紀にかけ近似した実体の記録を確認。

 複数のキネト災害を使用。詳細調査中。(別図二)


 ハワタリ 脅威判定プロトコル・リスク・階層ティアー 特異シンギュラー指定クラス

 国内正式呼称 長き刃を備える不死身の男性型実体

 略称は平泉甲の発言から採用。平泉乙と認定。

 短距離の空間転移及び、腕から精製するブレード状の物質を用いた近接格闘攻撃を使用する。

 終了もしくは封じ込めに特殊な措置が必要。

 [編集済み]で情報を持つ金谷謙一管理官による協力のもと、特別収容設備を[編集済み]に建造中。


 シンリン 脅威判定プロトコル・リスク・階層ティアー 高等アドバンスド指定クラス

 国内正式呼称 肥大化した土塊に根付く森林巨人

 略称は平泉甲の発言から採用。平泉丙と認定。

 単体としての能力や生態は二〇一█年█月██日████、██道██市で初の事例が観測されたシラカバに類似した個体であると推測される。

 樹木や植物で構成された体内にガラス製の昆虫型実体を多数保有する姿が観測され、それにより脅威判定階層の更新が検討されている。(別図三)


 モエウシ 脅威判定プロトコル・リスク・階層ティアー 基本ベーシック指定クラス

 国内正式呼称 燃え盛る体躯と二本の角を持つ亜人種

 略称は平泉甲の発言から採用。平泉丁と認定。

 現在確認されている情報では二〇██年██月██日████金谷謙一管理官らの手により終了措置を施されたネジキリと類似した攻撃行動が記録されている。

 その他攻撃、生態、発話能力、意思疎通手段は現在調査中。(別図四)


 備考

 令和█年度フトアシ討伐任務の準備期間中、個体数の増加や例年存在しなかった新種個体が多数観測される。

 フトアシ生態変化と特殊実体の同時多発的な出現の因果関係、関連性についてのレポートは別途資料を参照』



 北海道支部と同型のワゴン車を走らせ北東に向かう。

 平泉四種のうち一体とおぼしき怪異が、山林で出没し移動しているらしい。

 

「謙一先輩ー長いです、事案ログパネルの情報ー」

「わかるっすよカナっち。んで、どうするんすかね」

「カナヤ君、対策は?」

「結論から言うとモエウシ以外の三つが来たらアウトだ」


 北海道の頃とは規格が違う。

 前世の知識を活かしきれない。

 大勢の、職員の協力を必要とする。


 だが、職員達の膨大な戦力が加わった結果として相対的に脅威判定階層が引き下げられた。

 俺達四人だけで挑むならモエウシもまた高等エークラス特異エスクラス、あるいはそれ以上の敵となる。

 

「アウトって、逃げるってことです?」

「ハワタリなんかは見た感じ準備? ができてなさそっすもんね」

「シンリンの体内にいる蝶……」

「ああ……佐原が懸念する蝶への対策として空爆か、お座敷様の能力使用が検討されているらしい」


 お座敷様とやらの能力。

 以前聞いた話だと、運命や因果律に干渉して富や幸運を増やす力。

 だからこそ、俺は前世でよく知る座敷童と結びつけていた。

 蝶への対処にどう関わってくるのだろうか。

 攻撃力を有する異能とは思えない。


「空爆……嫌なこと思い出しますね」

「あ、ネジキリ事案の時っすか」

「あの時と同じ。撃たせちゃダメ」

「沿岸部にはまた、原子力空母が待機している」


「謙一先輩……キュウビは、喋れるならワンチャン話し合いで解決しませんかねー?」

「確かに! カナっちそれもそっすね!」

「そうね、高度な知性があるなら……」

「賢くても対話できても分かり合えない、そんな奴らをもう何度も見てきただろ」


 三者三様に過去の戦いを思い出し、顔付きが暗くなる。

 ネジキリ、ウズシオ、カルロ公爵、連中はそこらの犯罪者を凌駕するほど強い悪意を持つ殺戮者だった。


「ところで沙苗、仕上がりは?」


 重要な項目だ。

 今回に限っては沙苗次第で戦況が大きく左右される。

 

「イメージトレーニング中っす! いけそっすよ!」

「サナっち、出てくるのモエウシだと良いですね!」

「情報更新!カナヤ君、高温エネルギー反応……数は一つ! これは……」



 最悪の自体、ガラス蝶の市街地侵入や準備不足でのハワタリ遭遇は免れた!


 

「ああ、おそらく今回の敵はモエウシ一体だけだ!」


 

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