第2話

 王城の広大な庭には、モニカの知らない場所、行っていない場所はたくさんある。

 モニカだけではない。

 王族の誰も何があるのか分からない、厳重に閉じられた扉ももちろんある。


 そこはしかし、何があるか誰もが知っている。

 災厄である。

 その扉の奥、地下深くにそれは眠るという。

 パンドラの箱とも密やかにうわさされる。


 王国は魔界と呼ばれる、荒涼な北の大地に住む者たちと千年に及ぶ戦いを繰り広げていた。

 およそ百年前、その大戦力である、白き大魔獣ケルベロスを人間たちはようやく捕らえることに成功した。

 だが、命を奪うことまでは出来なかった。

 魔界を守る門番と恐れられたケルベロスの魔力は封じられても、雷も炎も通じない毛皮を貫くことも、山とも例えられた巨体を傷付けることも、それを可能にする神の武器を人間は持たなかったのである。


 長き協議の末、捕らえた魔獣は城の地下に封じられた。

 いまや伝説だけが残るのだが、時折、城の地下から地獄の底からのうめき声のようなものが聞こえてくることがある。王城が揺れることさえあった。それが伝説を真実と裏付けていた。


 魔獣は牢の開放を求めているのだ。

 地下牢を破り、再び太陽を拝もうと今でもあがいているに違いない。

 

 人々は恐れていた。


 魔獣が再び人間の敵となれば、この百年、大戦力を失ったからであろうか、おとなしくしている魔界側もきっと勢い込む。いや、それ以前に、王城の地下から奴が目覚めれば、王都すべてが間違いなく阿鼻叫喚の地獄と化すであろう。


 何故、かつての人々は魔獣を城の地下に封じたのか。

 文献は何も語ってくれない。

 王城の人々は、うめき声を聞くたび、地が震えるたび、神に無事を祈るばかりであった。

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