第19話 異能の入り口



 どれくらいの時間がたったのだろう。

自分の力を使いこなす、今までは、時計のおかげだと思い込んでた。

それは違った。己の意思で力を発動する、それが少し心地よく、そして興奮した・・・

程なくして力の発動はすんなり行けるところまできたが、力を治めるのが難しかった。


意識を抜く。脳につないだコンセントを抜くようなイメージをしてみろと言われ、試みることしばらくして、ようやくオンとオフが自力でできるようになってきた。


「これでようやく入口に立てたな。」


「ありがとうございます。」


異能の力は己が望めばどんどん強くできるが、力の使い過ぎには気を付けろと言われた。過大すぎる力は脳への負担が大きくなるため体に変調をきたす時があるという。

力を使うときは冷静にとのことだった、力任せに使うと時に暴走して自滅するものもいるという。


「あまり詰めすぎるなよ、程々にな。」

「わかりました。」


入口のベンチでじっちゃんが穏やかな笑みを浮かべこちらを見ていた。

俺はじっちゃんの横に行き座った。


「積もる話もあるだろうから、俺は先に入っておく。」


俺は少し照れくさそうにしてガイさんに頭を下げた。

聞きたいことは山ほどあるが、どれから聞いていいのかわからない・・・

今はじっちゃんが横にいるというこの事実だけで満足だった。

もともと空手の達人だったじっちゃんの拳は大きい。

でも一度もじっちゃんから空手をやれと言われたことはない。

空手を教えてというと、少しだけなと言って、空手ごっこはよくした。

一度だけ真剣に空手を習いたいといったことがあった。

(お前はもともと強いから必要ない・・・)

そういってはぐらかされた事があってからは、教えを乞うことはなかった。

なぜなんだろうなと今でも思う。


「翔よ、大きな力にはその責任と、その力に比例した危険が付きまとう。」


そういうことか、じっちゃんが俺に空手をやらせようとしなかったのは、そういう事なんだろうな。

昔から寡黙なじっちゃんで、あまり多くを語らない

必要最小限のその時々で俺が分かるだろう言葉を告げる。


「その力を敵視する者、その力を取り込もうとする者。己の眼で見極めよ。」


これもそういう事か、この組織にはいるも入らぬも己で見極めよという事だろう。

今日はじっちゃんがよくしゃべる。十年ぶりに会ったんだ、そうでなくては困るが・・・


「今日はよくしゃべるね」

そういってお互いの眼があった、二人とも昔のように微笑んだ。

あーこの笑顔が好きだったんだ。少しまた涙がでそうになる。

本当にじっちゃんが生きてたんだ。


「あの日・・・もう少し語らっておけばよかったと思ってのぅ・・・」


そう言ってじっちゃんは遠くを眺めながら少し寂しそうな表情を見せた。


「母さんが死んだのは、じっちゃんのせいではないよ・・・・最後は安らかな顔してた・・・」


じっちゃんは少し微笑んで黙って聞いてた。

じっちゃんだってずっとそばにいたかったはず、何よりもじっちゃんが一番一緒に居たかっただろう。


「あの日からの母さんの口癖しっとる?、じっちゃんが見ようけんね!事あるごとにそればっか言って卑怯やったよ。」


じっちゃんは微笑みながらも涙を浮かべていた・・・

「母さん今頃、こっちにじっちゃんおらんやんって言いよるかもね。」


二人は笑った。そして往時を懐かしむようにしばし思いに耽っていた・・・




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