第17話 遠い過去



 ~~~10年前~~~


 その日は凄い大雨だった。

翔矢はびしょ濡れで学校から自転車で帰ってきた。

嵐のような風も吹いてる中、何やら慌ただしい雰囲気を家の中に感じた。

母が慌ただしくどこかに電話してるようだった。


びしょ濡れだったので翔矢はとりあえず脱衣所で服を脱ぎ、着替えて居間に行くと母が青い顔をして放心状態になってた・・・


ただ事ならぬ雰囲気に翔矢は声をかけるのを戸惑った。間違いなくこの先に、母の口から何か不吉なことが発せられであろうことが見て取れたのである・・・


「何かあったの?・・・」


「おじいちゃんが・・・船で出たまま戻らないんだって・・・」


「・・・じっちゃんならきっと大丈夫だよ・・・」


「・・・そうね・・・でも・・・普段ならこうなる前に絶対帰ってくるはずなのに・・・」


 そう、漁師は天候の変化に敏感でベテランの漁師ほど

天候の変化もいち早く読んで嵐になる前には帰ってくる・・・

同じ漁師組合の人によると沖で見かけて嵐が来る前に帰れって声かけたときは手を挙げて返してたというのを最後に、その後見かけた人は誰もいなかった・・・


次の日から捜索願を出し、多くの人が捜索に参加してくれた。

そして一向に行方の掴めぬまま捜索が打ち切られようとした時、いつもの沖合より120kmも離れた岩礁で、持ち主不明の難破船が見つかったと、警察より報告があり母と俺は確認のため警察とその難破船のある所へ向かった。


 それは遠目からでもすぐわかった、何度もじっちゃんと一緒に乗った船の変わり果てた姿だった・・・

当時の事はあまり覚えてないが、急に大声をあげて泣き叫んでたらしい


「あれは、絶対じっちゃんの船じゃない、じっちゃんのであるわけがない!」


母は何も言わずただ涙を流して俯いたらしい、母の静寂がすべてを語っていた・・・

その船には誰も乗っておらず、結局じっちゃんの遺体は見つからなかったが

その嵐の状況と船の損傷具合により認定死亡が宣告された・・・


俺はしばらくじっちゃんの死が受け入れられなかった・・・

いつかきっとにっこり微笑んで笑いながら帰ってくるような気がしてた・・・

けれども遂に帰ってくることもなく。長く待った時間が決して戻らぬことをそっと告げた・・・




  ~~~~~~


「すまんかったのぅ・・・」

「生きてるなら・・・こっちで俺を見つけたならもっとはやく・・・」

「そうじゃのぅ、でも大きくたくましく成長した姿をみたら、どうするか見てみたくなってのぅ」


本当はすぐに目の前に現れようとしてた事。

すぐにでも組織で匿う準備をしてた事をガイさんから聞いた。

しかし、じっちゃんは俺自身の決断で組織に入るよう委ねたという。

俺の知ってるじっちゃんで間違いない・・・そういう人だった


「さやかは元気にしてたか?・・・」


「母さんは2年前に死んだよ・・・」


「・・・そうか・・・苦労かけたのぅ・・・」


そう言って背を向けたじっちゃんの背中が小さく震えたのを見逃さなかった・・・

じっちゃんがいなくなってからは、母は女手一つで俺を育ててくれた。


苦労も掛けたと思う。もともと体が強くなかった母はそれでも泣き言一つ漏らしたことが無く、俺を高校に通わせ、大学進学するよう何度も進めたが、勉強なんて大嫌いなんだと嘘をついて高校でたら、母にも楽してもらうよう働いた・・・

それがいけなかったのか、母の張りつめた気が切れたのか・・・

体調を崩しがちになった母は入退院を繰り返し、最後は安らかな顔で逝った・・・

だから決してじっちゃんのせいではない・・・


小さいころじっちゃんの後ろを必死について走り回ってた頃。

転んでもすぐには手を差し伸べず。

微笑んだまま起きてくるのをじっと待ってくれていた。

俺が起き上がってじっちゃんに抱き着くと、その大きくてたくましい手が

俺の頭をそっと優しく撫でてくれた。



 その手の感触だけは何故か今も覚えている・・・














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