第16話 【白夜】のマスター



 俺はこの組織に入る決心をした。

この狂った世界じゃ何があるか分からないし、一歩間違えれば死があるということも自覚してるし、ヤケになってる訳でもなく自分を信じてこの力を試したい。

そして覚悟を決めて言った。


「マスターに合わせて下さい。」

「覚悟を決めたということだね?」

「はい、ただし入る時期については今すぐじゃないけど、今の状況にケリをつけてからにしたいんです。」

「ふむ、何か今問題でもあるのかね?」


少し言おうか迷ったがこれは俺自身の問題で組織とは関係の無い事なので、言わないでおこうと思慮してる時だった。


「あちし知ってるよ、翔ちゃんが揉めてる相手、あちし達がぶっ潰してやろうか?」

「いえ、これは俺自身の問題なんで、俺自身の力でケリつけたいんです。」

「翔ちゃんは、漢って事だね」

「ふむ、俺らとしては大切な仲間になるものをつまらない事で失いたくは無いが、とりあえずマスターにあってもらって、マスターの判断に任せよう。」


「少しいいですか?、マスターとはどのような人物ですか?」


そしてガイはマスターの人物像について語り始めた。

いわゆる昔気質の漢を体現してるような人物だと。常に漢とはこうあるべきというような事が口癖になってるような、一本筋の通った人だという。ガイ本人もその漢気に触れて組織の一員になったという。


なんかどこかでそんな人がすぐ近い身内にいたなーと翔矢は懐かしく思い出していた。


「まー君とマスターとは気が合うと思うぞ・・・。」

「そうですね、俺も早く会ってみたくなりました。」


「ミシェル、マスターに声掛けてきて貰えるか覚悟が決まったようだと」

「りょうか~い」


とうとう俺は異能集団を纏める組織のボスと会う覚悟を決めその時を待った。


この狂った世界に来てから信じれる人は誰もいなかった・・・


この狂った世界で頼れる人も誰もいなかった・・・


それでも泣き言も言わず、普通の人なら泣き叫び狂ったかもしれない・・・


でも俺は冷静に落ち着かせ、いつも背中を見続けてきたあの人の生きざまを思い出し

強く漢らしくを信条に。内心では不安で押しつぶされそうだったかもしれない・・・


助言を乞う相手もいない、ならば己の力のみで生き抜く。そう決心したあの日から・・・


今までこの世界に来てから涙はこぼしたことがないのが己の誇りだった・・・


だがしかし・・・・


暖かな大きく強いオーラが近づいてくるのを感じる・・・


なぜだか心が震える・・・

心のダムが決壊しそうだった・・・

感じる強大な漢の気配・・・


頬になぜだか温かいものが流れ落ちるのがわかる

心が今一番欲しているそれが・・・・

止まらない己の意思ではなく、心が止まらない・・・

流れ落ちる涙が止まらない・・・



そしてその人は大きくて暖かいオーラを従えて入ってきた・・・



忘れようがないその気配と佇まい・・・




「・・・・じっ・・・ちゃん・・・」



「久しぶりじゃな翔・・・」



この狂った世界でも、駆け引き無しに信じれる漢・・・

もし会えるなら一番会いたかった漢が目の前にいた。

この時だけは己の矜持が霧散していくのがわかる、今まで己一人でこの狂った世界に順応し頑張ってきたのだ、今だけは許してもらおう。

止めたくても心のダムが決壊して止めようがない・・・


「今までよぅー堪えたな、それでこそわしの孫じゃ」


「・・・・なんで・・・いるなら・・・なんで・・・」


この狂った世界で唯一無二ともいえる、信じれる漢との再会だった・・・


「話せば長くなるが、何処から話そうかのぅ・・・」


大きくて懐かしくて、たくましいその手が翔矢の肩にやさしく乗せられた。







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