第9話 暗雲到来


 とりあえず俺は時間まで本でも読んで暇を潰すことにしながら、どうもさっきの入って行った客と店に入る前にあきなに囁いたおやじの事が気になって仕方なかった。

(なんて言ったっけかな・・・藤城さんって言ってたかな・・・そんなのが来るって囁いてたと思うけど、さっきの男の事かな。いったいどういう関係なんだ・・・そもそもあのおやじにしつこく誘われてたんじゃ無かったのか。)

いろいろと妄想を広げてるとある事を思い出した。

そうだこの辺時計屋無いかな・・・

ワンタッチで脱着できるようなバンドが欲しいのだ。それさえあれば時間の流れの切り替えが容易くできるのでぜひとも手に入れたいのだが。


時間はたっぷりあるので俺は、喫茶店を出て時計屋を探してみることにした。とりあえず何があるか分からないから時計は付けたままにしとこう。


 そして俺はこの世界の皆に合わせたスローな動きに合わせてパントマイムで移動開始した。

この世界の時間の流れで過ごしてきた俺のパントマイムの練習時間は腐る程あった。またこの世界で俺だけがパントマイムで行動してると考えたら急に笑いがこみ上げてくるので、なるべく考えないようにこれが普通なんだと言い聞かせて生活していた。


 自分でも気が長い方だとは思うけど、これ短気な人なら発狂するんじゃないかな・・・気が付いたら一人になった時もパントマイムやってて思わず噴き出した事もあったな。一人でトイレに入ってゆっくりズボンを下ろしててハッと我に返った時は耐えれなかったな・・・


クッ・・クク・・・


いかんいかんそんなの思い出したらまた笑ってしまう、時計屋探そう。


 そんな事考えながら時計屋探してたら街中で喧嘩してる奴らに遭遇してしまった・・・

しかも二人ともナイフを片手に握りしめているが、二人とも少しびびってんじゃないかと思うくらい戦う気配がない。なにやら二人で言い合ってる様だった。


「いいのかテメー俺はまだ今月ヤレルんだぜ!」

「俺もだよ!」


 なにやらそんな言葉の掛け合いが続いてる様だった。

周りの人も全然驚く気配がない、ここの日常はこんなもんなのか・・・慣れって怖いな・・・絶対気付いてるはずなのにわざと眼を合わさないように避けてササっと立ち去っている。


 こんな喧嘩で命落すのも馬鹿らしいが、巻き込まれて殺されるのもまっぴらごめんて事か。そうして何やら二人は捨て台詞吐いて反対方向に分かれて行った、無事でなによりだ。


 まぁ普通に考えて刺し合えばお互い無事じゃ済まんしな、最悪共倒れだ、馬鹿らしい。

一旦始まってしまえは後には引けなくなり本当の殺し合いだ、それがこの世界では分かってるからこそ余計に始まらないのかもしれない。


 そうこうしてると時計屋を発見、ラッキーと思って店に入る。しばらく店内を見て回って替えのバンドが置いてあるところを見てみるが、それらしいのが見当たらないので定員に聞いてみると幾つか持ってきてくれたので、その中から耐久性と一番脱着が簡単そうなのを選ぶ。

取り付けしましょうかと言われたが、この時計見られたらまためんどくさいので自分でやる事にした。

今のベルト式の脱着よりはダイブ簡単に出来そうなので期待して購入。


 街中をうろついてトラブルに巻き込まれるのはごめんなので、また喫茶店に戻ることにした。

戻る途中喫茶店の営業時間が気になったが、銀座だから夜遅くまでやってるんだろうなと呑気に戻ってると他の喫茶店はやはり閉まってるので少し不安になったが、空いてる様だった。

営業時間を見てみると平日は4時まで開いてるから


 終わるまでは余裕だなってことで早速入店しあの場所へ着席しコーヒーを注文する。

しかし今まではあまり待つことが無かったからいいがこの長い時間待つのは少しきついな・・・なので喫茶店の中ならいいかと言う事で時計を外すことにする。

(あーなんか小さなドライバーのセット買って来れば良かったな・・・)


 ダメ元で店員に聞いてみたら小さなドライバーセットあった・・・早速時計のベルトの取り換えを試みてみた。子供のころラジコン作ったりいじったりするのが好きでこういうのは得意だった。 早速試してみるとかなりいい感じだ。これなら咄嗟に外したり付けたりできるなっと、その感触を確かめていた。


 この頃はまだ、翔矢はについて殆ど理解出来ていなかった事を後で知ることになるが、それはまだ少し先の話だ。


 そうして小説を読んで時間を潰してるとあっという間にあきなの勤務時間の一時間前になったので、店の事務所の待合室に向かうことにした。


 やはりというか、こういう所に来た事ない翔矢にとって店の中は居心地が悪く、そわそわしてしまう。

とりあえず寛いでる振りを装って小説の続きを読んで時間を潰してると、あきながやって来た。

「お疲れ様」

「お待たせしました、もう終わるからあと少し待っててくださいね。」


 一瞬中に入って来たあきなの表情が暗かったように見えたが、声かけたら何時ものあきなに戻ったので気のせいかと思案していた。

(しかしあきなの営業中のドレス姿は少しドキッとしたな・・・流石は高そうなクラブだけはあるな)

しばらくしてあきなは着替えて出て来た。


「帰りましょうか」

「んじゃ警護します。」


 そう言って二人は微笑んだ。さっき感じた、あきなの不安そうな表情は気のせいだったか。

俺は念のため腕時計を装着し警戒しながら帰ることにした。


 しばらく歩いていると、ひじの内側にあきなの手がゆっくり伸びてきて俺は敢えて気付かないふりで、その手が添えられるまで待った。


そしてゆっくりとあきなを見て微笑んだ、あきなもまた微笑んだ。俺は慎重にあきなを観察する、やはりどことなく不安そうな気配がする。

そっと腕に手を添えて来たのもその表れでは無いか・・・

だがあきなが話さないのであれば、俺は話してくれるまで待つことにした。


 帰りにあきながファミレスに寄って行こうと言うので、俺も腹が減ってたので親指を立てた。

そして席に座って料理を注文してる間に腕時計を外し、あきなにそれとなく聞いてみた。

「今日は忙しかった?」

「普通かな・・・」

「そっか」


そこからあきなは特に喋る気配はなかった、やはり明らかにおかしい・・・仕事の事について喋りたがらないだけかもしれないし取り越し苦労の可能性もあると思い敢えて何も聞かなかった。


 やはりというか会話も弾まず、すぐに食事を終え時計をはめて店を後にした。電車にのり最寄りの駅で降りる間も特に話す事はなかった。


 しかしその駅から自宅まで歩いていく途中の公園で、俺の感は当たった・・・


 またあの時のおやじが待ち伏せしてるのである、とうとう家まで嗅ぎ付けたのか。

あきなの方に向ってきたのでその男に向って手をかざし制止させるとあきなが俺の後ろに隠れる様に下がる。

男は俺をみるなり舌打ちして、あきなに呼び掛けてる

「手荒な真似させる前に大人しくついて来い!」


あきなは震えながら俺の背中を掴んでなにも喋らななかった、そして続けて男は言った。


「おい兄ちゃんは関係ないからすっこんでた方が身のためだぞ!」


 俺は敢えて黙ってあきなの前に立ちふさがってると、男は後ろを振り返り手を上げて出てこいという合図を送ると、今度は体格のいい若い男が二人出て来た・・・


三対一か・・・さてどうする・・・・







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