第8話 暗雲
あきなの勤めるクラブMに着いた。
そこは会員制のクラブで会員の紹介がないと店に入ることは出来ないとの事で、それなりにお客さんは信用できる人と言う事らしい。
まずはママに紹介したいと言う事で、事務所の待合室で待っててくれと言う事だった。
最初は俺が店に入ることは出来ないから、どっかで時間潰してこようかと提案したが、他の女の子もボディガード付けてる子はいるらしく、この店ではボディーガードは出入り自由との事だった。
まぁこの狂った世界の夜働く女の子からしてみればそうだよなと納得はしたが、こういう所に来た事ない俺は、そわそわしていたが、とりあえず腕時計を外して待つことにした。
暫くするとあきながママらしき人を連れて来た。年齢は40代だろうか流石に銀座のママらしくキリっとした目元に大和なでしこを装った着物でその佇まいには品があった。
「初めまして、クラブMの
「初めまして、本田あきなさんのボディガードの
「わぁ、すごい背が高いんですね、それにガッチリしてるわね。」
ママは印象とは裏腹にとてもフランクに話しかけてきて、一気に俺の緊張も緩んだ。
ママはあきなにどこで見つけて来たの、うちの黒服として雇いたいくらいだといってあきなに問い詰めて困らせていた。
そこで初めて知ったのだが、あきなはここでは彩という源氏名で働いていると言う事を知った。
まぁ普通は源氏名で働く事くらいは常識なので、驚きはしなかったが、あきながそういえば言ってなかったと慌ててたので、べつにどうと言う事は無いと宥めた。
ママからとりあえずこの事務所内までは出入り自由だけど店の表には絶対入らないでくださいと注意された。接客中は店が必ず守るとの事。
そりゃそうだ、こんなボディーガードがじっと眼を光らせてる女の子相手に客が寛げる訳がない。
「それでは、水城さんどうか彩の事をよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「じゃ、彩ちゃんまた後でね。」
そう言ってママは待合室を後にした。
俺はその出て行ったドアの方をしばらく名残惜しそうに見てたのだろうか、あきなが眼を細めながら俺に言ってきた。
「ママ綺麗だったでしょ・・・」
あきなの冷ややかな視線を感じつつ、下手に否定するとそれこそ変に思われるので俺はわざと落ち着いた雰囲気であきなのを見て答えた。
「そうだね、でもあきなちゃんも綺麗だよ。」
あきなは少し照れた様子で恥ずかしさを紛らわすように、その小さな手で俺の肩をパチンと叩いてきた。
自分で言っといてなんだが、俺ってもしかしてホストの素質あるんじゃないかと少しその分野も検討しようかと思った。
あきなはこの後お店の女の子にも紹介したいからと言って部屋を出た。
そして二人の女の子を連れて来た。
「美咲です。」「唯です」
「
「「背が高い!」」「「それにマッチョ!」」
二人の反応がハモってて少し笑った。
美咲さんは綺麗系のスレンダーな女性で唯ちゃんはちょっとギャルっぽい女の子だったが、二人とも俺の両サイドにくっついてきて腕をなでなでしてくるので、どうぞと言わんばかりに両腕を上に構えてマッスルポーズ取ると二人ともぶら下がって来た。
引っ越しで鍛えてる俺にとって女の子が腕にぶら下がるくらい余裕だった。
「「すごーい!」」
(あのーおもいっきり当たってるんですけど、いい感触が・・・)
見かねたあきなが二人に注意してきた。
(やばいあきなの視線が痛い、ちょっと調子に乗りすぎたか・・・)
「ちょっと、二人ともくっつきすぎ」
「いいなー私も水城さんみたいなボディガードほしー」
「ハイハイ、二人ともお仕事の準備。」
そういってあきなは、二人を部屋から追い出すように背中を押した。
現実世界では全く女っ気の無かった俺がこっちの世界じゃモテモテじゃないか、この狂った世界じゃなかったらもうここで暮らしちゃおうかなーって少しニンマリしてると、黒服のチーフの斎藤さんを紹介された。
ここの警備責任者とマネージメント全般を務めると言う優秀な黒服さんとの事。
「斎藤です、あきなさんがこの店にいる間は我々がしっかり守るのでご安心を」
「水城です、よろしくお願いします。」
斎藤さんは40代くらいでどことなく気が利きそうで、それでいてがっちりした体形で頼れそうな雰囲気を醸し出していた。
まぁそうでないとここではやっていけないか、女の事に対する気遣いと女の子のスタフィング管理とか大変そうだな・・・そういうのは俺にはむりだな。
紹介が終わるとあきなは、仕事が終わるまではどこかで時間潰しててもいいと言って部屋を後にした。
(なんかあきなちょっと焼きもちか?・・・といってもこんな世界の銀座なんかうろつく気しないしな・・・)
こういう暇つぶしの時間のためにゆっくり読む小説も携帯するようになった、今日はこれを読もう。
『すべての力を奪われた暴勇バベル』これ面白いんだよねぇ・・・
ちょうどこの店の入り口が見える斜め向かいに喫茶店が有ったので、そこで時間潰しながら本でも読んでることにした。
ちょうどそこの2Fのテラス側から店の入り口が見える席が有ったので、そこで入る客のチェックでもしながらゆっくり待つことにした。
中に入って行く客を見てると、やはりと言うか、それなりにお金持ってそうな客ばかりだった。特にあきなが危惧するような客はいないなっとゆっくり本を読みながら時間を潰してる時だった。
一台の黒塗りのロールスロイスが店の前に止まる。ハイハイお金持ちの定番ねーっと見てたら一見堅気の人の様に見せた、やばそうな雰囲気を漂わせた男が車から降りて来た。
なにがやばいかって、その前後を車で挟んでる警戒っぷりに警護と思われる男達の数とその風格が長年引っ越し屋で接客してる俺の感が警告を出してる・・・
(あーあれはパンピーじゃないな・・・)
まー引っ越しを7年もやってればそれなりにそっち系の人の引っ越しもやらざるを得ないわけで、一見は普通の人に見えて家具が見たこともないような螺鈿細工の黒塗りの家具で統一されてたりと、ハイハイ。そーですかという場面に何度も遭遇して、そういうのはなんとなく見分けがつくのだ。
その俺の感はこの後的中する事になるのだが、改めてこの世界の怖さを思い知らされることになるとは。そしてあきなが言ってなかった秘密が明らかになる。
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