第7話 オンとオフに使えるなこれ。
翔矢はシャワーを浴びながら時計をはめたり外したりして確認した。すると腕時計を外すとシャワーの水が前まで居た現実世界の様に自然に体に流れてくるのである。腕時計を付けるといつものようにこの世界のコマ送り再生の様にゆっくりと流れ落ち体に当たると同時に普通に流れて行く。
(やはりこの腕時計を付けてる間は、俺の周りだけは現実世界の時間の流れの中にいるから、周りが5倍遅く見えるんだ。)
しかし、腕時計を脱着しながら翔矢が思ったのは、もっと簡単に脱着できないかなと言う事だった。今のままの普通のバンド式では脱着に時間がかかるのだ。
外してると確かに現実世界と何ら変わらないので、かなり気楽に生活できるが、いざと言う時にこのバンド式では時間が掛かりすぎるのだ。
これだとボディーガードとして瞬時に動くことはできないので、結局は付けたまま過ごさざるを得ない。
一人で生活するには誰もいないときは普通に過ごせばいいし、問題なかったのであるがこれから一緒に食事するときもあるだろうから、その時は腕時計を外さないとまともに食べることが出来ない。
(暫くは部屋に居る時くらいしか外せないな・・・)
そう、ここは修羅の国である、ボディーガードで無くても、いきなり殺される可能性もある世界で有ると言う事を認識しなければならない。
昼間ぶっ飛ばした親父から背後から刺される可能性もあるのだ。それを考えると外で腕時計を外すのは危険すぎると判断したのである。
(しかし、あきなの声も普通に聞いたら可愛かったな)
スロー再生が楽しめなくなるのはちょっと惜しいが、普通におしゃべりできるのは、翔矢にとってこの上なく助かる事だった。
実際こわれたレコード再生を翻訳するのは時に吹き出しそうになるのである。
(今度時計屋に行って簡単な脱着ベルトが無いか探すことにしよう・・・)
そうして、とりあえずシャワーから出る事にした。取り合えず、腕時計は今はスウェットのポケットに入れて置くことにした、やはりポケットに入れてるだけでは、スローな世界ははじまらなかったのを確認した。
「シャワー使わせてもらったよー、しかもスウェットの寛ぎモードだけど。」
「全然大丈夫ですよ、洗濯物はカゴに入れといてもらえれば洗濯しますよ。」
「いや流石に洗濯は自分でやるよ。」
そうして、暫くリビングでたわいもない会話をして過ごした。
(こうして話してると銀座でホステスやってる子には、全く見えないよな・・・)
「そろそろ私お仕事の準備しますね。」
「あぁ、そうだったね。」
そう思ったらご出勤の準備との事で俺は自室にて待機することにした。
「んじゃ俺はあっちの部屋にいるねー」
「ここにいてもいいですけど・・・?」
「まだ・・・なんていうか気になるでしょ?」
「そう・・ですね、まだ・・初日ですから・・・」
「まぁ本でも読んでますから。」
「すみません、お気遣い頂き。」
「んじゃ準備できたら声かけてください。」
そう言ってしばらく玄関横の与えられた自室で待機することにした。
腕時計をしてる時のこの世界の一日は長い、その長い時間を利用して翔矢は本を読む趣味を見つけた。本を一人で読むのは、時間が遅いこの世界でもなんら支障ないからである。
TVなんかは全くダメだった、喋りが遅すぎて全然面白くなかったのである。
しかしこれからは映画やTV等も前に居た現実世界となんら変わらず楽しむことが出来ると思うと、翔矢はこの世界の楽しみが増えたと少し気が楽になったのである。
現在翔矢が読んで本護身術の本だった、その無限ともいえる時間を利用して独学で本を読みながら護身術の基本を身に着けようとしてたのだ。なんせこの世界は殺人が許可された狂った世界なのである、自分の身を守る方法を身に着けようとするのはごく自然な事であろう。じぃちゃんは空手の達人だったが、本格的には教わってない。お前はやらなくても良いと言って教えてはくれなかったがいつもの影から覗いてたので基本はしってる。
いつもひっそり一人で練習していた。
そしていつもの様にカラテの練習を始めた。
(まずは基本の回し受けっと・・・左手で受け流して、右手で相手の後頭部を抑え込みそのまま抑え込む)
そうやって敵を仮想して反復練習して体に覚えこませる。
あいにく時間だけはたっぷりあるのだ、そして頭で考えなくても動ける様になってくると段々面白くなってくる。
そうやって無心で反復練習をやってると何時間たっただろうか、あきなから呼ぶ声がした。
リビングに行ってみると、そこにはすっかり夜の女に変身したあきながいた。
髪もアップにまとめて少し色っぽく、そして少しキリっとした顔立ちにメイクされたあきなは昼間とは、別人の様だった。
(女の人ってメイクでこんなに変わるんだな・・・)
少しの間見とれてたかも知れない、あきなが少し恥ずかしそうな顔をしながら翔矢に言った。
「変ですか・・・?」
慌てて翔矢は腕時計を外しながら、
「いや、昼間と印象がガラッと変わって素敵だなって見とれてた。」
「お上手ですね。」
にっこりと微笑みながら少し照れたように言った。
もう少ししたら出ると言うので俺もあきなが買ってくれたシックな感じの服に着替えることにした。
「どうかなこれ。」
「うん、背の高い水城さんによく似合ってます。」
「そうかな。」
暫くして出勤の時間になったので、家を出ることにした。
そこで俺はあきなにあらかじめ断っておいた。
外ではあまりなれなれしく喋らないようにすると言う事。
何故かって聞かれたが、本当の事は言えないので、あきなの仕事上恋人と思われたら困るだろうと答えといた、本当はスローで喋る事が出来ないからであるが・・・
地下鉄に乗り新宿に向かった。
外では腕時計を外さないようにしようと決めた、決してビビってる訳ではないがボディーガードとして咄嗟の事態に対応できるようにだ。この世界はぱっと見は普通だが狂った世界と言う事を忘れないためにも・・・
そして店に着く前に事件が起こりそうだった・・・
昼間見たおやじが居たのだ。
まだしつこく狙ってるのか、一度徹底的に叩いといたがいいのかと思ったが、俺を見るなり舌打ちをしてあきなに一言だけ言ってきた。
「今日は藤代様がくるからな、返事はその時に。」
「・・・・・」
それを聞いたあきなの様子が明らかに不自然に変わったので、何かあるなとは思ったがその時は喋るのめんどくさいし、敢えて聞かなかった。
その後俺はあきなの隠してる秘密を知ることになるのだが、それはもう少し先の事だった・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
―とある場所
「水城 翔矢見つけましたけどどうします?」
「今どういう状況だ?」
「特に差し迫った危険は無さそうですけど?」
「そうか、あやつが何を思いどう動くかしばし静観といくかのぅ。」
「了解。」
どこか翔矢が知り得ぬ所で動きがある様だが、これは翔矢を悪の道に引きずり込む手か、はたまた救いの手になるのか、この段階では翔矢はその様な者達が居ることすら想像だにしていなかった。
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