第5話 異世界バンザイ
俺はあきなに連れてこられて鼻の下を伸ばしながら、いや親身に話を聞きながら家の前までやって来た。そしてあきなが家の前で少しだけ待ってくださいねと言うので家の前で待つことにした。
別に女の人の部屋に入るのが初めてじゃないし引っ越しではいくらでも入ったことはあるはずなのだが、この瞬間だけは、なぜだかドキドキしてる翔矢であった。気を紛らわせるように、その間少し周りの状況を確認することにした。
(少しボディガードらしくしてみるか・・・なんてな)
管理人は常駐ではないな、オートロックはあるな、カメラもあるな、3階なら窓からの侵入はそうそうないか、階段の位置は少し遠いな、エレベータから3部屋目か。
(3階ってことは侵入は無いが、いざって時窓から逃げれないか・・・)
3階から見下ろしてみる距離にして10mってとこか。
そんな、なんちゃってボディガードごっこしてたら、あきなの声がした。
「すみません、お待たせしました。」
ニコッと笑顔で返し右手を顔の前に出しお邪魔しますのポーズだけとって見せる。
(銀座のホステスやってる割には、質素な部屋だな、仕送りは嘘じゃなさそうだな)
部屋の間取りは2LDKかな。
あきなもさすがにどことなく緊張してる様子でリビングに案内された。
「言っときますけど、この部屋に男の人入れるのは初めてですから・・・」
(あきなは、簡単に男を入れるような軽い女じゃないって言いたいんだろうな、こういう時何て言えば、いいんだ、考えろ時間はある・・・)
翔矢の経験値ではうまい言葉が見つからなかったから思ったことを素直に書くことにした。
『大丈夫です、軽い女だなんて思ってませんよ』
あきなは顔を少し赤めて照れたようにニコッと微笑んだ。
(今の反応は良かったって事か?こんなことならなんかそう言う系の雑誌で勉強しとくんだった・・・)
とりあえず翔矢も微笑みかえした。
(ってかボディガードって何やればいいんだ、全然わかんね・・・誰かおしえてー)
「あ、そうだ水城さんは、こっちの部屋片づけたので使ってくださいね。」
と玄関入ってすぐ横の部屋を案内された。
『ありがとう。』
「いえいえボディガードさんですから、頼りにしてますよ。」
これからこんな可愛い子と同棲するなんて、異世界バンザイと叫びたい翔矢であった。
すでにここが現実世界からみたら修羅の国のような環境にあると言う事も忘れ去っていた。
翔矢よ、あまり浮かれるな、ここは修羅の国じゃてって。おじいさんに出て来てもらったがいいんでは、なかろうか。
(あー筆談って間が持たないな、もうこの子なら正直に正体ばらしてみようかな・・・・んーまだ早いか少し様子見よう。)
とりあえず筆談でがんばってみるとして。断りとしてボディガード経験は無いことを先に言っておこうと思った。
『断っておきますが、ボディーガード経験は無いんですが、何すればいいんでしょ?』
「んー私も初めてなのでよくわかりません。」そう言ってあきなは微笑んだ。
『とりあえずは、あきなさんの周りの人の環境が良く分からないのでできるだけ行動を共にしますね』
「わかりました、お願いします」
『寝るときも一緒に寝ますね』
「えっ!ええ!そ・それは・・」
『冗談です、いいリアクションありがとうございます』
「びっくりしました、水城さんって面白い人ですね。アハハハ。」
そうやって二人は軽やかに笑った。
「そういえば、あの時水城さんは何してたんですか?」
『近くの建築現場の作業員として働いてました。』
「ええええ、来てよかったんですか!?」
『あの状況で一人で帰せないし、たった今ボディーガードに転職しました。』
「ほんとに、お優しい・・・」
その後、あきなは、すみませんと連呼してたが、これも何かの縁でしょうと宥めた。
それから報酬どうしましょって言ってきたので、部屋借りてるしお金は要らないと言ったけど1週間20万払うと言ってきたが、高すぎると言ったらこれでもたぶん相場より安いと言ってきかなかった。
仕方ないので作業員の日当一万でこれ以上なら受けないと言ったら、それは困るとしぶしぶ納得してくれた。俺的にはこれでもなんか申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
(こんな可愛い子と同棲して金貰えるって異世界バンザイ!)
その時じっちゃんが頭に手をあてて翔矢の事を憂いていることに気が付くのは、もう少し先の事だった。
そして、あきなは、翔矢がほとんど荷物もなく洋服もバックに詰め込んである分しかないことを知ると洋服を買ってあげるから出かけようと誘った。
最初は遠慮して断ったが、半ば強引に連れ出された。
翔矢にとっては幾らでも抵抗できたが、あきなと今後同行するならちっとはマシな服も必要かと、考え直し言われるがまま従った。
翔矢は昔から服に無頓着であった。休みの日はスウェットで過ごし、出かけるのもジーパンとTシャツがあればいいと言う感じだった。
あきなは、とても楽しそうだった。小顔に二重の大きな瞳をぱちくりさせながら、翔矢をたまに見ては微笑んでショッピングモールに二人で出かけた。
「何か好きなブランドとかあります?」
『いえ、服には無頓着なので。』
「それじゃ、私がコーディネイトしてあげますね?」
『それでは、お言葉に甘えて、お願いします。』
そして二人は、傍から見たらまるで恋人が買い物を楽しむように見えたかもしれない。そのくらい一気に二人の距離は縮まっていた。
しばらくモール内を見て回り、時間を忘れて楽しんだ。
翔矢も色々試着させられたが、まんざらでもなさそうだった。それからいくつかのカジュアルな感じの服とシックなものを買ったところで、翔矢はもう十分だとあきなに告げ、それでは今度は私の番と言う事で、あきなは自分の服を選び始めた。
完全に買い物に来た、カップルにしか見えなかった。そういう事にあまり慣れてない翔矢は、丈の短いスカートや胸元の大きく開いたシャツ等に試着するたびに、目のやり場に少し困った笑顔をしていた。
「ちゃんと見てますか?」
頬を少しぷっくりとしながら腕を絡ませてくるあきなに、翔矢はたじたじだった。またその下から見上げるような上目遣いに、とても愛らしく思った。
しばらく買い物を楽しんだ後二人は家に戻って行った。
そして翔矢は心の中で叫んだ。
異世界バンザイ!
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