12
巴は昭夫に呼び出されて久しぶりに地元の居酒屋に入店した。この店に来るのはいつ以来だろうか。まだ時間が早いからだろうか、店は空いていて奥の席にいた昭夫が手を挙げた。その隣には京田が座っている。
「お久しぶりです」
更に痩せ細った京田に向かって巴は頭を下げると、厨房に向かって大声でビールを頼んだ。
あれから3年の月日が経った。
京田は罪の償いとしての短いお勤めを終え、先週外に出て来た。一応来週から地元に戻り、親戚の工場で働く事になるかもしれないとの事で、昭夫と巴に挨拶しに来たのだ。
あや子は恐らくしばらくは外に出られない。カサネの代わりに自由を失った。
「そういえば巴はなんでカサネとトラブルになったんだよ、ずっと聞けなかったんだけどさ」
昭夫は何杯目かわからないビールを流し込みながら、唐突にそう問うて来た。
「大した事じゃないよ」
もう何年も前の事だ。何を今更弁明しろと言うのだろうか。
「ただの!興味本位なんだよ!そろそろ教えてくれてもいいだろ!」
珍しく絡んでくる。めんどくさい男だ。
「初対面だったのに『お前俺のストーカーだろ』って難癖つけられたんだよ、だから酔っぱらいは嫌いなんだ。あいつ酒癖悪いよ、ていうか多分酒に弱いんだな」
苦々しい声でそう答えると、昭夫と京田は「ああ………」と言葉を濁す。
「何?」
ドスの効いた声と共にジョッキを強くテーブルに置く。
「ぶっちゃけ、巴さんとあや子さんてちょっと顔の雰囲気似てますよね………」
京田は目を逸らしながらそう答える。
「わかる、服装と髪型が全然違うから判別出来てたけど、もし似たような恰好しててどっちも初対面だったら一瞬区別つかないと思う。俺は人の顔覚えるの苦手だし尚更」
昭夫もそう続ける。巴は憮然として、スマホであや子の本名を検索する。
秒で逮捕された時の写真が大量に出て来るし、不幸な事に風俗店に勤務していた時のパネル写真やら高校の卒業写真やらも流出している。
初対面の時点で同じカラコンを使っているのはわかっていたが似ているかと問われると自分ではよくわからない。
人気アイドルに手を掛けた女としてあや子は未だ有名人だ。勿論悪い意味での。未だに嘘か本当かわからない個人情報が垂れ流され続けている。
「あや子さんは俺に嘘ついてたかもしれないけど、少なくとも自己申告は多分巴さんとほぼ同じ年齢ですよ、うろ覚えですけど同じ年か1才違いかそんなもんだったはずです」
手元のスマホの中で口許だけモザイクを掛けられ嘘の笑顔を見せているあや子の風俗嬢時代の写真が読み込まれる。
そういえば私が3歳位の頃に離婚した父がひとつ下の妹を連れていった、とか言ってたけど嘘だよね。男親が女の子ひとりだけ引き取るなんてそうそう無い事だし、でも今更母に確認するのも気が引けた。また喧嘩になって殴り合いになるのがオチだ。
「それにしてもカサネさんはよくカムバック出来ましたよねえ」
酔っぱらった京田は巴の真後ろの壁を見上げる。
そこにはカサネが販促モデルを務める海外産ビールのポスターが貼られていた。
もうアイドルスマイルではない、仏頂面の個性派俳優として活躍する彼がそこにいた。
そのこめかみにはあや子につけられた少し大きな傷があるはずだが、修正されて何もわからなかった。
undead タチバナエレキ @t2bn_3
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