悪役会議

春雷

第1話

 三人の男が待機室で待機している。

 斉木、四太郎、キジマの三人だ。彼らはテーブルを囲むように、椅子に腰掛けている。

 斉木はメガネをかけた痩せ型の男、対照的に四太郎は小太りで温和そうな見た目、キジマは出っ歯の目が鋭い男だ。

「風邪が流行って、ヒーローショーの悪役を担当している俳優が全員休み。代役の俺らがどの悪役を担当するか、今から決めなきゃならんわけだが」と斉木。

「でも、ヒカリレンジャーの悪役って、卑怯で、どうしようもなくて、意地汚い、なんというか、潔い悪役じゃないんですよね。うーん、どれもやりたくないなあと四太郎。

「悪役が風邪引くなよな。悪は風邪引かねえって言葉があるのによお」とキジマ。

「馬鹿は風邪引かない、だ」斉木が訂正する。

「どっちだっていいよ。悪も馬鹿もどっちも風邪引くな。俺らにしわ寄せが来る。面倒くせえ」キジマは唾を吐き捨てるジェスチャーをした。少しだけよだれが垂れた。

「まあまあ。二人とも、喧嘩しないでくださいね。僕、喧嘩、イヤなんで」パンと手を叩く四太郎。「さ、話し合いましょう」

「わかった」斉木は頷いて、手元の資料を見た。「では一つずつ見ていこう。まず、デビルオローチ」


 デビルオローチ。悪の組織「悪々亭」の幹部。もの凄く暴力を振るう、極悪非道。趣味は人の爪を剥ぐこと。手と足の爪を噛む癖がある。

(補足情報)ささくれはない。


「何だささくれの補足情報って」と斉木。「手はまだいいとしても、足の爪まで噛むとは。やはりイヤな悪役だな。生理的なイヤさだ」

「生理的にイヤな悪役を倒して得られるカタルシスってどうなんですか。子供に向けてやっていいのかな」と四太郎。

「いいんじゃねえの。子供だって馬鹿じゃねえ」これはキジマ。彼は靴を脱いで、自分の足の裏の匂いを嗅いでいる。

「では他のメンツも見ていこう」斉木はページを捲る。


 デビルアクーマ。切っても切っても再生するが、コアを砕けば一発で死ぬザコ。

 足の小指の爪がない。足の爪を積極的に噛む。他人の爪も噛む。他人の爪を通販で購入している。自宅には、爪を保存する用の冷蔵庫がある。

(補足情報)ささくれが信じられないくらいある。


「爪情報多いな!」四太郎は叫んだ。「何で爪の設定細かいんだよ。他の情報はざっくりなのに! てか爪は常温保存で良くない? 知らないけど」

「他人の爪まで噛むのはさすがに引くな」斉木は青い顔をする。「ザコだし、爪への執着すごいし、イヤなキャラクターだな」

「再生するタイプの敵って、大体コア狙えば一発だよな」キジマは鼻をほじりながら、熱いお茶を啜っている。

「ささくれの補足情報もいらないよ」と四太郎。

「次で最後」と斉木。

 

 デビルマメ。マメを投げる。基本的に全ての爪が割れている。


「これ、は、悪くはないな」斉木は言う。「爪の設定も単に割れているだけ。生理的な嫌悪感はそれほどない」

「僕、これがいいなあ」四太郎はのんびりした声を出す。

「俺もこいつがいいよ」キジマは耳をほじりながら、煎餅を舐めている。

「私だってデビルマメがいい。消去法ではあるが」と斉木。

「まあ、俺の方がふさわしいがな」

「何だとキジマ。私こそデビルマメだ」

「ちょっと待ってください、斉木さん。僕だって」

「俺が」「私こそが」「僕の方が」

 三人は睨み合う。

「ダメだ埒が開かない。勝負しよう」

「斉木さん、どういうことですか」四太郎は聞く。

 斉木は椅子から立ち上がった。「マメオーディション開催だ」一呼吸置いて、「私は毎日、日記をつけ、友人に手紙を書いている」

「な!」

「まめだ。筆まめだ」四太郎は言う。「なら、僕だって。毎日五分に一回犬に餌

をあげている!」

「こまめだ!」

「犬、太るぞ!」

「僕の家の犬はパンパンさ! どんな犬よりも肥満体!」

「ちょっと極悪非道じゃねえか。ペットの健康を害しやがって」キジマが屁をコキながら指摘する。

「そ、そんな」たじろぐ四太郎。「じゃ、じゃあ、キジマさんはどんなまめを? 何もないでしょ?」

「馬鹿、見ろ」キジマは手のひらをみんなに向ける。「パチンコし過ぎて全部の指にマメができている」

「そのマメ⁉︎ てか、パチンコでマメできるの⁉︎」

「当たり前よ」

「くそ、誰がマメにふさわしいか選手権、互角か」斉木が項垂れる。

「そーなの⁉︎」四太郎は驚く。

「なら、豆知識対決にしよう」斉木は宣言する。

 頷くキジマと四太郎。

 そのまま五分が経過した。

「何にも出ない!」四太郎が叫ぶ。「単純にみんな、知識がない!」

「ああ、もう埒が明かねえなああ!」キジマは立ち上がって、「暴力で決めようぜえ」と叫んで、四太郎の腹を殴った。

 グア、とうめいて四太郎は倒れ込む。

「お、おい!」斉木はキジマを指差す。「暴力振るう、極悪非道! あんたがデビルオローチだよ! で、四太郎さんはザコ! だからデビルアクーマ! これで決定だあ!」


 それから五時間揉めて、殴り合いの末、全員が入院し、悪役の代役の話は無くなった。

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悪役会議 春雷 @syunrai3333

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