第2話 切なる願い

 昨日の昼休み、わたしが本を読みながら、ほんのちょっとだけコウくんに見とれていたら、目のチカチカする蛍光オレンジのTシャツが突然視界をさえぎった。シマだった。汗にまみれた短髪。砂ぼこりにまみれた顔をTシャツを引っ張ってぬぐって自分の椅子に腰をおろす。

「コウのこと見てるの?」

 周りに聞こえてしまいそうな音量で名指しする。

「ちがうわよ。後ろの黒板を見てたの」

 わたしは読んでいた本に視線を戻して言った。

「ふぅん。なんも書いてないのに?」

 わたしは本を読む気が失せて閉じた。

「なあ、知ってた?」

 シマは目を光らせてわたしに顔を近づける。


「カワイってコウのこと好きらしいぜ。タイセイが筆箱の中の紙を見たんだってさ」


 聞いた瞬間ブレーカーが落ちた。目の前が真っ暗になって動けなかった。カワイさん。カワイユイさんはクラスで一番きれいな女の子。大人っぽくて美人で口数が少ない。男子にとっては近寄りがたく高嶺の花みたいな女の子。カワイさんとつり合うのは、うちのクラスにコウくんくらいしかいない。シマが言っていることはきっと本当だ。


 わたしはシマをにらんだ。

 シマはギクッとして顔の片方をひきつらせた。それから逆切れして、憎まれ口をたたいた。


「ちぇ。おまえが気になると思ったから教えてやったのに」


 知りたくなかった。そんなこと。

 天地がひっくり返っても、わたしはカワイさんには勝てない。


 わたしは家に帰ってから、ノートの切れはしにコウくんの名前を書いた。


 それを筆箱の鉛筆入れの下にテープで貼って願った。

  

 コウくんと両想いになりたいなんてぜいたくは言いません。

 だからお願い。


 コウくん、カワイさんと両想いにならないで――

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