筆箱の中に秘めた想いは
あしわらん@創元ミステリ短編賞応募作執筆
第1話 おまじない
紙に好きな人の名前を書いて筆箱の中に入れておくと両想いになれる――
明新小学校五年生の間で今そんなおまじないが流行ってる。先月六月となりのクラスの女子が雑誌で読んだ『恋に効くおまじない』を試したら、本当に両想いになれたらしい。その子の友達が真似して、そのまた友達が真似して、あっという間に全クラスに広まった。陽キャの女子グループは休み時間に筆箱の中を見せ合ったりして盛り上がっている。
いいな。わたしもやってみたい。
わたしにも好きな人がいる。だれにも話したことはないけれど。名前はアサカコウくん。わたしと同じクラスの図書係。コウくんは今、教室の真ん中の列の一番後ろで宮沢賢治を読んでいる。コウくんは、ほかの子ザルの兄弟みたいな男子たちとはぜんぜんちがう。コウくんは、背が高くて知的で大人びていて、さりげなくやさしい。
前に席がとなりだった時、わたしが消しゴムを忘れて困っていたら、コウくんが自分の消しゴムを半分に切って、「これ使っていいよ」って、わたしの机においてくれた。国語の授業で音読を当てられて、どこを読んだらいいのかわからなかった時も、「ここだよ」って自分の教科書を指さしてこっそり教えてくれた。
わたしもコウくんの名前を書いた紙を筆箱に入れていおいたら、コウくんと両想いになれたりしないかな。
ありえないってわかっていても、小さな紙に願いをかけてみたかった。でも、クラスのみんなには、わたしがそういうことをするタイプだと思われてない。わたしは陰キャなモブだもの。休み時間は本が友だち。万が一だれかに筆箱の中を見られたらと思うと、尻込みしてしまってできなかった。昨日、シマからあんなことを聞くまでは。
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