だらだら様 ※ホラー
ホラーの話で相手を怖がらせるのって面白いよな。
最近は学校でなんとなく怪談話がブームになってんだけど、なんかいい話ないかな。
そんなことを考えながら俺は壁にかけてある高校の制服をぼんやり見ながら机の上でうなっていた。こういうブームってすぐに終わっちゃうから早く参加しないとなって気持ちも焦るからさっきからスマホで怖い話を検索している。
ネットロアっていうのかな、ネットにはいろいろと怖い話が転がっているんだけど、これを覚えて話をしても友達も検索してたら恥ずかしいな……。
あーあどうしよ。俺自身はそういう体験をしたことがないから「持ちネタ」がないんだよな。……それにしてもネットの怖い話ってなんとか「様」っていうのが多いな。確かになんか神様っぽくて怖い感じはするよな。
……なんか適当に創作したりできるかな。そうだ。なんか怖そうな話を作ってみたりできるかな。
そう思うと手が勝手に文章作成のソフトを起動していた。うーん。どんなのがいいかな。高校っぽいのがいいかな、あとなんとなく女の子とかの話のほうが怖そう。あと名前はそうだな。まあ、これもなんとなく思いついたのでいいか。
「だらだらしているし……だらだら様でいいか」
翌日朝に起きるのがつらかった。思ったより楽しくなっていろいろと考えちまった。学校にいく道で自転車をこぎながら俺はおおきなあくびをした。
時間はあっという間に過ぎた。午前中の授業のほとんどを寝てたから……。なにも覚えてない。俺と友達数人で連れ立って校舎裏で昼飯を食べた。ソーセージの挟まったコンビニパンを齧りながらほかのやつが話をしているのを黙って聞く。
怖い話をしているんだけど、俺が昨日にネットで調べまくったせいで「元ネタ」が分かってしまって笑いそうになった。お前検索しただろって言いそうになったのは危ないよな。みんなこわーとかこえーとか言ってるし、俺はクールにパンを齧るぜ。
「甲斐はなんか知らん?」
友達の一人が俺に話を振ってきた。待ってました。俺はパンを噛んで飲み込むと「あんまりしらんけど……」って謙遜した後に話を始めた。
「お前ら、だらだら様って知ってる?」
全員の目が俺に向いた。それからお互い顔を見合わせている。そのうちの一人が言った。
「名前だけは知っているけど……」
知ってるわけねぇだろ。昨日俺が考えたんだから! 笑いそうになるからやめろ!
「じゃあ知ってるかもしれんけどさ」
パンだけは食った何食わぬ顔で俺はそう前置きをして俺は話を始めた。
――近くの高校に通っていた女子高生がいた。
明るい子でいい子だったんだけど、いじめにあってある日自殺をしてしまったんだ。
両親も悲しんで結構騒ぎになって新聞にも載ったらしい。
それからその高校でさ、その子を自殺に追いやったいじめっ子がひとりひとりおかしくなっていったんだってさ。
なんか変なことを言いながら何かにおびえるようになって学校に来なくなったんだけど、ある日その一人が自殺したんだ。その時に遺書で「ごめんなさい」がびっしり書かれた紙が落ちてただってさ。
で、その紙に赤い字で「ユルサナイ」って上書きされてたって。
ほかのいじめっ子たちもそれを知ってほんとにおかしくなって病院とかに入院したらしいけど、全員同じように自殺してしまった。そのうちの最後の一人がさ、SNSに残してたのが「だらだら様がくる」って書いてた。その子は翌日には血をだらだら流して死んでたらしいよ。
まあ、俺も聞いた話だからこれくらいしか知らんけど。
って話を切った。……これ面白いな。全員俺の顔を見てから「うおー」とか「こえー」とか言ってくる。小説家とかこんな気持ちなのかな。まさか俺がだらだらしながら考えた話とは思ってねぇだろ。
そんなこんながあってその日は終わった。ていうか、時間はすぐに流れていった。俺がそんな話をしたことすらも忘れてた。
秋になるくらいの頃に夕日の教室で女子と一緒になった。いや、友達だけど結構好きなやつ。俺はドキドキしてたけど、そいつは言った。
「ねえねえ。甲斐。だらだら様って知ってる?」
「は?」
そのまま口に出た。知ってるも何も俺の創作した話だけど。
「な、名前だけなら」
「あれ怖いよね!」
「そ、そうだけっけ」
恥ずかしいからやめてくれ。女子はきゃいきゃいいながら俺の創作した話を口にした。でも微妙に内容が違う。
「いじめにあった子が自殺するときにカッターで首を切ったらしいけど、絶対に痛いよ。あたしやだなー」
カッターのくだりなんてあったっけか?
「それに最後に復讐で足とかもぎ取られてさ、だらだら血が流れているのも怖いし」
なんだそれ。
俺は怖さよりも面白さを感じた。どうにも話が膨らんでる。話を聞くと近くの高校って言ってるのに本当に近隣の高校の名前で語られているらしい。その高校でも結構有名な話だって……。笑いそうになる。
その日は女の子といいことはなかったけど、翌日から「だらだら様」についていろんな奴に聞いてみたら知ってる知ってる。俺の知らない話を。なんでも教師にいじめられてたとか、陸上部のエースだったとか、それで死んで走れなくなったから足をもらっていくとか……すげー。こわいのはお前らだろ。
俺は家に帰ってベッドの上で転げまわった。面白い。俺が適当に作った話がなんか昔からある話みたいになってる。しかも知らんうちに行ったこともない高校で噂になってるらしい。どんなルートで広がってんだよ。俺が話をしたのはあの昼飯の時だけだからあいつらが犯人なのは間違いないけど。
こんなことならもっと話し作ってみてもいいかもな。
なんかの参考になるかなってスマホを開いて怖い話を検索してみる。俺は前にも見た話を読み飛ばしていろいろと読んでいるとふとあるページで手が止まった。
『だらだら様って話が私の地元にあります』
ネットに書かれてる……! 俺は笑いそうになった。これうちの高校の奴だろうか。それとも「舞台」に勝手にされてる高校の奴だろうか。俺は面白半分で指を動かした。
――私の高校は進学校で昔からだらだら様っていう幽霊がいるって話があります。女の子の幽霊で生きていた時は陸上部のエースだったそうです。その子がある日けがをして部活ができなくなったらしくて、そのせいで暗くなって部活もやめちゃったらしいです。
それでしばらくしていじめられるようになってひどい目にあわされるようになったそうです。それを苦にしてカッターで首を何度も切ってから女の子は自殺してしまったそうです。でもその日からいじめっ子たちがだんだんとおかしくなっていってひとりひとりと自殺していったそうです。
その子たちは遺書に「だらだら様」が来るって書いててその上に許さないって赤い血で何重にも書かれたそうです。最後の一人になったときにその子は精神病院に入院してたそうですけど、看護師さんが朝に行くと両足がなくなって死んでて。口に遺書が咥えてたって話です。
俺ら高校生とは違ってネットにはいろんな人間がいる。怖いって言ってるやつもいれば創作って言ってるやつもいる。それにしても最初の話から随分と尾ひれがついたなって。コメントを読んでみると。何人か「だらだら様」を知ってるやつもいた。こいつらも……地元のやつらか?
「あ?」
コメントの中で気になる話が合った。
『だらだら様は話を聞いた人の中から午後9時にその両足を取りに行くらしいよ』
なんだよその時間指定……俺は知らねぇよ。思ったけどなんとなくスマホの時間を見た。8時58分。いい時間だな。ぞわっとしたけど、でもこんな設定は本来ないけど。
そう思ってスマホを枕元に軽く投げた。
ぎぎぎ
「え?」
ドアがちょっとだけ開いた。ちょっとだけだ。ほんの隙間だ。
誰かが見ている。
黒い目が濡れた髪のかかった目がすきまから覗いていた。ぎぎぎとカッターみたいなものでドアが軽く引っかかれる音がした。
その目は俺をじっと凝視している。隙間の向こうは真っ暗だ。覗き込んだその目以外は何も見えない。
「誰……?」
俺は小さな声を出した。これくらいしか声が出なかった。
返事はない。ぎょろぎょろと目は中を覗き込んだ。
だらだら様は俺が創作した話だ。だからこんな奴がいるはずがない。
「誰だよ!」
自殺した女子高生なんていない。だから俺の部屋のドアの前に「何」がいるんだ?
「お前誰だよ!」
隙間から覗く目が笑った。楽しそうに俺を見ていた。こいつは「何」だ? 俺の部屋の前に一体「何」が来たんだ?
俺の耳元でおそらく女の声が聞こえた。
アシチョ―ダイ
……ドアが開いて。中に「何」かが入ってきた。俺は、両足のない這いずる何かを見て、叫んでいた。俺は最後までなにがきたんだって言ってた。
★
――本日未明。F県A市において男子高校生が死亡しているのが発見されました。頸部にカッターで切り付けられたような跡が複数あり、県警は自殺と他殺と両面での捜査を行うと発表しました。男子高校生は自宅ベランダから飛び降りた状態で発見され下半身に……
朝の時間とある駅の構内で響くニュース番組には誰も目を向けない。様々な人々が行きかうがその中の多くの人はスマートフォンを片手にネットの世界を見ている。たまに覗き込まれていることは誰も知らない。そしてその中でとある女子高生のSNSに一瞬だけ「だらだら様が来た たすけて」と出てすぐに消えていった。
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