お昼を食べたおおきなどらごん

 朝と夜の間。


 淡いオレンジの夕焼けが世界を包んでいました。


 それは大きな、空に届くように大きなドラゴンのいる世界でのことでした。


 そのドラゴンはいつも空を見ていました。


 紅い背中。長い、いや大きなしっぽは大陸のあちらから、こちらまで伸びています。背中にある羽を広げれば、どれくらい大きくなるのか、誰も知らないのでした。


 夕日に照らされた小麦畑がありました。秋の収穫の時間を迎え、黄金の穂をゆっくりと風に揺らしていました。いっぱい頑張って大きくなったのですから、風に揺られるのを楽しんでいるのでしょう。


 その麦畑を一組の子供が走っていきます。一人は金色の髪をした少年です。そしてもう一人は水色の髪を後ろで結んでいる少女でした。


 彼らは楽しそうに茜色の世界で手を取り、笑いました。広い世界に彼らしかいないかのようにです。彼らの声が広がっていくかのように、小麦の稲穂がさぁと風に揺られて波紋を造ります。


「レン君」


 水色の少女がふと立ち止まりました。彼女の瞳には遠くの、どれだけ遠くなのかわからないくらい遠くの「ドラゴン」が映っています。いつも空を見上げているドラゴンの皮膚は焼けこげているかのように赤と黒が混ざり合っていました。


 少女を夕日が照らしてくれます。


「ねえ、知ってる?」

「なにを?」


 レンと呼ばれた少年がきょとんとした顔で言いました。そのあどけない顔。前髪が目元にかかっている姿に少女はくすりとします。


「お昼ってさ」

「ひる? なにそれ」

「……昔はもっと一日が長くて、朝と夜の間がもっと長くて、ずっと遊んでいられたんだって」

「なにそれ! ずるいじゃん」

「……太陽がさ一番元気な時間がお昼だったって」


 レンは憤慨します。彼は遊ぶ時間が何よりも好きなのでしょう、足を踏みならしていました。


「なんで今はないの! 一日がもっと長かったらもっといろんなことができるのに!」


 少女はレンを見つめて、にこりと微笑みました。


「昔、ずーっと昔にあの大きなドラゴンが太陽を食べちゃったんだって。だからたまに空に火を噴くのは、おなかの中に太陽があるからなんだよ。……それに、それだけじゃなくて」


 少女は寂しそうに言います。


――この世界の半分はね、大きなドラゴンに食べられちゃったんだ


 夕日を背に彼女は寂しげにつぶやいた、レンはその表情に悲しくなりそうで、でも綺麗で、美しいと思ってしまいました。


 自分の気持ちを隠すようにレンはドラゴンを振り向きました。大きなドラゴンは空を見上げています。


「なんでそんなことをするんだよ!」


 夜のとばりがだんだんと降りてきます。


星が少しずつ空に現れて、帰っていく太陽の代わりに世界を照らしてくれます。


大きなドラゴンは夜の空を見上げていました。


「もしかして、あのドラゴンは夜が好きなのかもしれないないね」


 少女は言いました。


「それじゃあ、夜更かししてるみたいじゃんか。俺もはよねろって姉ちゃんに言われるのにさ」


 少年はいいました。


「決めた!」

「何を?」


 レンは少女を振り返ります。


「いつか、あのドラゴンのところまでいって、夜更かしをやめろっていってやる! それでおなかの中の『お昼』を出してもらうんだ」


 少女はその言葉を聞いて、ぷっと吹き出してしまいました。


「そっか」


 少女は「ほんきなんだからな」と憤る少年の横を軽やかな足取りで歩いていきます。帰り道は綺麗な星の光が照らしてくれていました

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