協力と復讐

 





 ゲーセンを離れ、人通りが少ない静かな場所へ移動する。選んだ場所は、カラオケ。声を使うということで、防音性もあり、人から見られない匿名性も確保している。



 というのは建前で、これが終わったら一緒に遊ぼうというのが真の目的である。




 庄屋がこれから命を賭けるのに、意外と余裕そうにふるまっていたのは、そのようにふるまわないと気を保っていないからである。




「この前のはごめんね」



 「この前の」というのは、以前学校の中庭でのトラブルのことだろう。

 その時フィミリアはエルディアと戦った……と言っても、フィミリアの能力が通用せず、一瞬で勝敗が決まったが。




「別に問題はない。ただ、あんな奴らと仲良くするのはすすめないぞ」




 肩までの毛に強いカールがかかった髪を少しかきあげる。すると耳についた銀のピアスが輝いて見える。





「好きでいたんじゃないよ。一人の方が楽だし。そうだ、なんて呼べばいい?」


「えぇっと、そうだな……なんでもいいぞ」


「なんでも? だったらこの前みたいにエルディアって呼んでいい? アタシのこともフィミリアって呼んでいいからさ」



「あ、ああ、わかった」



 しばらく、作戦を実行するまでに時間がある。

 フィミリア・ナイトメアに聞きたいことがあったエルディアは、その間に彼女に質問することにする。



盟友庄屋とは、その……どういった関係なんだ?」



 カラオケ室内の光源で輝く黒の髪をいじりながら、目の前の曲選択のパネルをかまっている彼女に聞く。




「ちょっとね」



 それだけ言うと、フィミリア・ナイトメアは机の上に置いてあるコップを手に取って、その中のメロンソーダを一口飲んだ。


 その「ちょっと」は何なのか聞きたい。

 エルディアは内心もどかしく思いながらも、追及するのもどうかと思ってそれ以上何も聞かないようにした。




「なに? 嫉妬でもしてるの?」


「いや、そ、別に、そんなことは思っていないが」





 当てられたことによる動揺を隠したつもりであるが、フィミリアは見抜いて少し笑った。





「冗談だって。公安隊の最終兵器さんとやらは随分とアイツを贔屓しているんだね」


「そ、そんな、贔屓なんてしてるつもりはないぞ!」




 フィミリアはどうやら揶揄うのが好きらしい。意外な一面を見ることができたが、エルディアは面白くないのか





「し、しかしだな……今日もこうして急に手伝ってくれたのだから、それなりの関係はあるのだろう? それが少し気になっただけだ」


「そんなにアイツとの気になる?」



「…………ん」


 

 ジュースを飲みながら返事にもならない返事で返した。









「アイツには色々助けて貰ったんだ。毒親から助けてもらったから、アタシも弟も元気にやれてるんだよ」






「そうなのか……我も捨てられた身であるから少しだけ理解できる」



「そうなんだ。じゃあアタシたち意外と似たようなもんだね」




 フィミリアは身の上を明らかにした。

 彼女の親は昔から暴力気質で、学校の費用は払うものの食事などは一日一回だけの日も多かったという。

 そんな生活に苦しみ、弟も病んできたところで出会ったのが彼だという。





「庄屋って詳しいんだね。学校での成績は結構良かったのはわかってたけど、奨学金制度とか支援団体についても、ものすごく知っててさ」



「それで……というか、奨学金をもらっているのに学校をサボっているのか!?」



「………………それで、『学校辞めたい』ってアイツに言ったら『それは絶対後悔する』って真剣な顔で答えてさ。まるで学校を諦めたらどうなるか知ってるみたいに」



「おい無視するな」



 デヴァステーションでは良くも悪くも知識の壁が存在する。

 そのどちらかに所属するか分けるのは「学歴」であり、他の国と違い顕著に学校というものが後の人生に影響する。


 ただ、奨学金をもらっているのにサボるという神経にエルディアは驚いた。




「——そのことはまた後で聞くとして……盟友は、んだな」




「良くも悪くもね。アタシを助けてくれている時、アイツが一人悩んでいたのは知っている。一度だけね、『このままでいいんだろうか』ってそう言って……」




 その言葉の本当の意味は彼にしか分からないはずだ。


『今、俺が助けに行きたいと思ったこと。もしかしたら、本来の俺を取り戻すかもしれないんだ……頼む! 無理はしないから、な?』


 しかし、庄屋のその言葉を聞いた今のエルディアには理解できるような気がした。






 丁度良いところで首にかけていたネックレスが光ったことに気付く。



「……来たな。通話を開始するぞ?」




 フィミリアに準備ができているか確認して通話を開始する。










============






『それで、作戦というかやってほしいことを伝える。フィミリアにはそのネックレス越しにイロモノでサポートしてほしい。できるか?』



「対象指定はあるの?」




 『催眠堕落』のような干渉系は一般的に、特定の対象をイメージすることで、効果をその人物だけに限定したり、逆にその人物だけ効果を与えないようにできる、「フィルター」というモノが存在する。




『基本的には俺以外、もちろんエルディアも対象外で。エルディアにはフィミリアが能力で倒れないように見ておいてほしい……まぁ、ないと思うが』



 今回は庄屋とエルディア以外の人物を想像できない状況。必然とフィルターのかけ方は「庄屋とエルディア以外に適用」となる。







「了解。干渉系だから大丈夫だと思うが」



 エルディアはそう言って、一応フィミリアが倒れた万が一の場合に備えて、能力の準備をする。


 干渉系だから大丈夫、というその論理は「干渉系は総じて使用者への負荷が少ない」という話に繋がる。





「今日は調子もいいし、倒れたり体調が悪くなることはないよ。一応指示内容も聞かせて?」



『ざっくりとだが「動くな」と「今あったことを忘れろ」と……そうだなぁ。「メフガという名前のヤツが悪くないか?」で』



「えぇっと? 動くなと攻撃するなは分かったけど、その『メフガ? という名前のヤツが悪くないか?』で合ってるの?」




 嘘みたいな指示内容にもう一度聞き返す。

 これは一種の誘導の文言であることは分かっているが、どこか不思議なイントネーションを感じ取った。







『ばっちり。順にABCとしよう。俺が「A」と言ったら「動くな」と言ってくれ』






 作戦について理解をし、そしてこの要求に応えるように、庄屋とフィミリアは話し合う。

 ABCだけでなく、庄屋は具体的にどんなことをするのか。その中でどのような指示を出すのか。




 その様子を見たエルディアは疎外感を感じてしまって無意識に人差し指を軽く咥えた。







============








「御者さん、ここで待っててくれ。前回より遠い位置だが、よろしく頼む」


「わかっていますよ」




 今回も同じ御者さんが連れてきてくれた。こんな状況で唯一立候補したのが、その御者であり、だからこそこうしてここに来ることができた。


 




「……よく引き受けたな。こんなところ、死ぬかもしれないのに」


「まぁ、そうですね……恥ずかしい話、私にこの国に恩があります。特に——」



 そう言いかけて自身の言おうとしたことに恥ずかしさを覚えたのか、顔を少し赤くして、「あ、いや、なんでもありません」と言うのをやめた。




「とにかく、こちらこそよろしくお願いします。ここはお任せください。いざとなったとき用の武器もありますから」



 

 この人もこの国に愛を持っているのだろう。

 マイエルンと似たような雰囲気を纏い、俺を洋館へと促す。




「任せたぞ。できる限り早く帰ってくる」



「ええ。お願いします」






 さて、やるか。


 聞けば、やられっぱなしのクァーラン王国だし、ここでやり返してやるのもありだな。

 あいつらの力を得ることができたのだ。

 救い出してきて、ついでに滅茶苦茶にしてきてやる。

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