結果報告

 顔のパーツが汗とともに流れ落ちてしまいそうなほどにゆるみきった表情で、宗治は資料室に戻ってきた。卓は英語の宿題と向き合っている。普通教室で余った学習机が資料室の隅に積まれているので、その一つをティッシュでキレイに拭いてから使用していた。扉の開く音に気付いてノートから顔を上げ、宗治をちらりと見て、ノートに視線を落とす。

「何があったのかって聞かないのか?」

「聞いてほしいですか?」

「もちろん!」

「なら、どうぞ話してください」

 宗治と会話しながらノートにペンを走らせている。ときどき、紙の辞書をパラパラとめくって、英単語の意味を調べているようだ。

「作倉ってさ、未来が視えるじゃんか」

 話をマジメに聞いてくれないとみて、宗治はふてくされている。ああやって送り出してくれたのだから、結果を気にしてほしいものだ。

「はい、そうですが」

「こうやってわざわざ調べなくても、英語の授業を視れば答えもわかるんじゃないの?」

 宿題は教科書の指定されたページに載っている英文を翻訳する、といったもの。ノートに英文を書き写して、その下に日本語を書いていく。次の授業で答え合わせをするので、その授業の風景を視れば答えもわかる、というのは確かにそうだ。

「授業で正解を答えることだけがではないですよ」

「みんなの前で間違えたら恥ずかしいぞ」

「わたしはそうは思いませんけどねえ」

 卓が間違えているシーンを見たことがない。宗治は自分のスクールバッグを漁って、ノートを取り出した。宗治も宿題をやらなければならない。クラスメイトの前で不正解を答えるのも恥ずかしいが、宿題をしてこなかったことを教師から怒られるほうがより恥ずかしい。ただでさえもひどい成績が、より悪化する。

「電子辞書、貸そうか?」

「宗治くんって本当に授業を聞いていないんですね」

「うん」

 悪びれもなく答える。実際にほとんどの授業を聞いていない。宗治は、授業中に授業とはまったく関係のない『将来設計ノート』を書いている。ありとあらゆる世界の“可能性”についての考察を記入しているのだが、前提となっている知識が浅いため、どのページも結論は出ていない。中途半端な箇所で、止まっている。

「紙の辞書だと、一つの単語の意味を調べたときに、他の単語も視界に入ってくる。見たことで、他の単語も脳にインプットされて、結果としてボキャブラリーが増えるのだと、英語の牧島まきしま先生がおっしゃっていましたよ?」

「英単語をたくさん覚えたところで、ここは日本! 英語を日常生活で使うわけじゃないぞ?」

「明日から英語で会話しましょうか」

「俺がひとこともしゃべれなくなるぞ!」

「静かでいいかもしれませんねえ」

「いじわるぅ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年11月30日 12:00

こちら神佑高校生徒会 秋乃晃 @EM_Akino

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画