逆転の刻

 コクピットを焼き切るまで、あと数センチ。

 ビームセイバーの熱がコクピットの中にいるレイトにまで伝わりそうな中。

 トウマは、ユニバースイグナイターのビームセイバーを停止させた。

 流石に勢いまでは殺しきれなかったため、カツン、と音を立ててコクピットの装甲とビームセイバーの柄がぶつかる。

 

「ティファ……?」

『うん、わたし。ごめんね、トウマ。嫌なことさせちゃって』

「い、いや、そんなことはどうでもいいんだ。お前はどこに」

『11時の方向。スペースイグナイターがいるでしょ? ミサキ達に助けてもらったの』


 言われた通りの方向を見る。

 そこには確かにスペースイグナイターがいた。

 それをレイトも確認したのか、通信越しに安堵の息を吐いた。

 

『た、助かった……覚悟ガンギマリすぎでしょ、トウマさん』

「レ、レイト……俺、お前を……」

『いいのいいの。僕だってカタリナお嬢様が同じ目にあったら同じことするだろうし。それよりも、行ってあげたら?』

「あ、あぁ!」


 ユニバースイグナイターが飛び、スペースイグナイターのもとへ。

 その間に映像通信に切り替えてティファの顔を見たが、確かに彼女はそこにいた。ロールも、気を失っているがそこにいる。なんか気を失っているのに顔が青いのはちょっとよくわからないが。それほど荒い運転だったのだろうか。

 だが、それ以上にティファが救出された。これがトウマにとって一番だった。

 そしてスペースイグナイターのもとに辿り着くと、スペースイグナイターは変形。ネメシス形態となった。

 

『トウマ、コクピット開けて。ミサキ、もうちょっとだけあっちに近づける?』


 ティファの不思議な指示に二人は首をかしげながら従う。

 トウマがコクピットを開き、そしてミサキが近づいてからあちら側もコクピットを開いて。

 

「よっと」


 ティファが生身のままスペースイグナイターのコクピットから飛び出し、そのままユニバースイグナイターのコクピットへ。

 コクピット同士がつながっているわけではない。

 ティファは生身で、真空の宇宙を移動し始めたのだ。

 

「ちょおおおおおおおお!!?」

「あー死ぬ死ぬ死ぬ!!?」

「なにやってんの早く受け止めて引き入れて!!?」

「何してるんですか本当に!!?」


 全員阿鼻叫喚。

 トウマが思いっきり手を伸ばしてティファの手を掴み、そのままコクピットの中に引き入れる。と、同時に両機共にコクピットを閉める。

 それからすぐに二機のコクピットには不足した分の空気が補充され、ようやくティファも息を止めるのをやめた。

 

「ぷはっ。あー、数秒だけとはいえ、もう二度とやりたくないわね、これ。耳がキーンってする」

「いや、何してんの本当に!? 数秒だけとはいえ宇宙に出るなんて、下手すりゃ死んでたぞ!?」

「数秒程度なら何とかなるわよ。それに、ちょっと狙いがずれててもトウマなら受け止めてくれるでしょ?」

「うっ……そりゃ、まぁ、もちろん」


 急に顔を合わせながら恥ずかしいことを言うティファに思わず赤面する。

 しかし、もう二度とあんなことをしてほしくないのも事実。ティファをサブシートに座らせると、ようやくそこで一息ついた。

 

「はぁ…………よかった」

「ん。ほんとにね」


 ティファは助かって、知り合いも無事。

 何が起きたのかはよくわからないが、みんな無事だ。

 故によかったと。息を吐く。

 それからすぐに通信が再び繋がる。今度はスペースイグナイターとライトニングビルスターと。それから、ラーマナ。

 

『お疲れ、みんな。トウマも気は済んだ?』

「あー、うん。恥ずかしいところをお見せしました」

『自覚があるならよろしい。命がけで救出したんだから、もう命を捨てるような特攻すんじゃないわよ?』

「ティファに言われなきゃやんねーよ」

『ったく……それじゃあミサキはそのまま撤退。家に戻っちゃって。ロールのことはメルとセレスに任せた。ウチのベッドに寝かせたげて』

『僕の撤退も手伝ってくれると嬉しいかなぁ』

『レイトはあたしが連れてくから安心しなさい。で、トウマとティファは……やること、あるでしょ?』


 サラの言葉に二人は頷く。

 人質は助けた。ティファも救出された。

 だが、まだやるべきことはある。

 決着を。復讐を。

 

『小型船、持ってきてるから。あんたの一声であいつは動く。だから、本気でやっちゃいなさい』

「そうする。ほんと、ありがとな。サラ」

『まぁ、仲間だしね。仲間のケツくらい持つわよ』


 その言葉とともに、ラーマナがハイパードライブしてくる。

 そしてそのままライトニングビルスターの方へ。

 

『それじゃあ、識別コード送っておくから忘れないように。あんたが殺した兵士の数分、この戦場で報いなさい』

「任せろ。ここにいるアイゼン公国軍は、皆殺しだ」

『ん。それじゃあ、あたし達は一旦引く。それと、あんたの所に行っていた鬼電、こっちでシャットアウトしていたけど、それも解除するから。宣戦布告してぶっ潰してやりなさい』


 その言葉を最後に、スペースイグナイター、ライトニングビルスター、ラーマナが撤退する。

 それと同時に、通信がつながる。

 

『ええい、ようやく繋がったか! 貴様、我が船が敵襲を受けたのに何を!!』

「ほー、敵襲ねぇ。で、その結果はどうなったって? 教えてほしいよなぁ、ティファ?」

「えぇ、本当に。人質をむざむざ奪われ、傭兵の片割れを奪われたのかしらね?」

『なぁっ!!? や、やはり貴様らの仲間か、あの戦闘機は!!』

「そういうこった。で、だ。こうなった以上、俺はお前らにつく必要はない。そうだろ?」

『っ……!! ま、まさか貴様、裏切るつもりか!?』

「おう。俺達ぁ傭兵だ。自分の信念に従って、従うやつも自ら決める。テメェに従ったことなぞ、ただの一回もない」

『ぐっ……!! だ、だが、こちらには貴様らの船もあるのだぞ!! 破壊されてもいいというのか!!』

「どーぞご勝手に。わたし、そういう船はまだ買える程度の貯金はあるし? お金で解決できるってほんっと素晴らしいわよね。こんな脅迫にも屈せずに済む」

「そういうわけだ。よくもまぁ俺のことを好き勝手扱ってくれたな。覚悟は、できてんだろうな?」


 もはやアブファルに従う理由はない。

 すでに小型船からはアレを発進させている。

 ここからは反撃の時間だ。

 

「さて、オープンチャンネルに切り替えて……こちらは傭兵、トウマ・ユウキ。諸事情によりここからティウス王国軍の味方をする。信じられないなら後ろから撃ってくれていい。それぐらいのことはしたからな。信じてくれるなら下がってくれ。残りの敵は、こっちで潰す」


 言いたいことだけを言ってオープンチャンネルを閉じる。

 あとはアブファルとの通信が繋がっているだけ。

 

『貴様ぁ……! 大人しく首輪に繋がれておけばよかったものを……!!』

「あいにく様、そういう生き方は嫌いなんでな。だから、恩には恩を。仇には仇を返す」

「ウチのパイロットの逆鱗に触れた以上、生きて帰れると思わないことね」


 アブファルへの。

 いや、アイゼン公国軍に対する敵対。

 それが終わったところで、ようやくユニバースイグナイターの横に小型船から発進していた物が到着する。

 

「来たか。久しぶりだな、スプライシング」


 その名はオーバースプライシング改。トウマの本当の相棒だ。



****



 あとがきになります。


Q:今回ティファが生身で数秒間宇宙を遊泳していたけど、なんで無事なの?

A:数秒程度なら宇宙空間でも人間は生存可能、と言われているので、やらせました。それに、逆襲のシャアでクェスが生身宇宙空間渡りをやっているので、まぁやらせても問題ないかなと。


Q:ハイライトoffトウマとレイトって10戦戦うと勝率どんなもん?

A:ハイライトoffトウマが9割勝ちます。ボス仕様ってやつです。

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