救出、脱出
スペースイグナイターから出たメルとセレスは船の中を全速力で走っていた。
「セレス、あなたはティファさんの方を! 私はロール様の方を助けます!!」
「了解! それよりも前!」
「武装した兵ですか。ですが、その程度なら!」
二人の走る道の正面、突き当りから3人の兵士が飛び出し、二人に銃を向ける。
しかし、その引き金が引かれる前にメルが跳躍。そのまま壁と天井を使って立体的に動き、相手の照準が合う前に接近。
一人の兵士の顔面に膝を叩き込み、もう一人の額には袖口から取り出したナイフを投げ、額に突き刺して無力化。その間に下敷きにした兵士の額に太腿に取り付けたホルスターから拳銃を抜いて射殺。
その一連の光景を見ながらも、メルを始末しようと最後の一人が銃口をメルに向けた。
が、その瞬間に銃声が一発響き、その兵士の脳漿がはじけ飛んだ。
セレスの銃撃だ。足を止め、しっかりと狙いをつけられたからこそ、一撃で仕留められた。
「お見事、メル」
「そちらこそ。それよりも、急いで」
「分かってる。あの子にあんまり無茶させられないしね」
ミサキに負担をかけられない。
それもあるが、一番の理由はこの二人を持ってしても、今回のようにうまく敵を無力化できるかはわからないからだ。
今回はメルの攻撃が功を奏したが、次はどうなるかわからない。
こういう事が何度上手くいくかわからない。故に、敵に会う前に作戦を済ませる。それが二人の考えだった。
故に、二人は急ぐ。
道中逃げまどい始めた非戦闘員も射殺して口封じしながら走ること3分ほど。
「ここを曲がった先の部屋!」
「分かっています。仕掛けますよ」
もうすぐティファとロールが軟禁されている部屋。そこまで来て、二人はいったん足を止める。
どうせ扉の前には監視の軍人がいる。
故に、一度足を止めて態勢を整えて。
ポケットからフラッシュバンを取り出し、通路の先へ向けて投げ込む。
固い物が地面に当たる音と、それから暫くして轟音と閃光。それを確認してから通路から飛び出し、二人で拳銃の弾をばら撒く。
相手はこちらを警戒していたようだが、フラッシュバンにより視界が潰れたようでメルとセレスの攻撃に成すすべなく倒れた。
「セレス!」
「分かってる! そっちも早めにね!」
兵士の死体を転がし、セレスはティファが軟禁されている部屋に突入した。
「ティファちゃん、居るよね!!」
部屋を見渡して。
そして、見つけた。
ベッドに腰かけて俯いている少女を。
ティファを。
「――えっ、ちょっ、誰!?」
「あたしだよあたし、セレス!!」
「えっ、なんで、どうして? 都合のいい夢……?」
「そんなんじゃないよ! それよりも早く! ここを脱出するよ!」
「だ、脱出って……トウマは」
トウマがいなければ意味がない。そう告げるティファの手をセレスが掴んだ。
「あの子ならまだ外で戦ってる。けど、君の声がないと止まらない。あの子を止めるためにも、脱出するよ!」
「……うん!」
セレスの声にティファが立ち上がる。
そして二人で一緒に部屋の外に出ると、ちょうどメルがロールを背負って部屋の前にやってきた。
「ロール!?」
「失礼。彼女、随分と衰弱していたもので。体というよりも、精神ですね。立とうとしてもふらついていたので、背負わせていただきました」
「い、生きてるのね?」
「もちろん。背負われて、ようやく助かったと思ったのでしょう。そこで意識が落ちてしまいましたが、間違いなく」
ロールはメルの背中で意識を失っていた。
だが、確かに息はしているし、体もどこかに傷があったりなどはしていない。健康体そのものだ。
助けた後にしっかりと療養すれば私生活に影響は出ないだろう。
「セレス、ティファさんを担いで。彼女に走らせるよりも私達が担いで走った方が早い」
「そうだね。それじゃあ、失礼して」
「へ? きゃっ」
セレスがティファを担ぐ、というよりも抱き上げる。
抱き上げる前に手に拳銃を持っていたので、ちょっと背中にあまり感じたくない物を感じているが、まぁそのまま撃つことはないので問題ないだろう。
「さて、ミサキちゃんが待ってる! 急ごう!」
「え? ミサキが来てるの!?」
「ここに我々を運んだのも彼女です。それよりも、急ぎますよ。いつまでハインリッヒ機兵団とレイトが彼の相手をできるかわかりませんから」
メルとセレスが走り始める。
来た道をまっすぐ戻るように。
道中、頭を撃ち抜かれて死んでいるアイゼン公国軍の兵士たちの死体を見てティファが顔を青くしたが、それで止まれる程、今余裕はない。
スペースイグナイターの元へと一直線に走る。
「居たぞ! 止まれ!!」
「止まれと言われて」
「止まるバカなんかいないよ! ティファちゃん、思いっきり抱き着いて!」
「わー!!?」
道中、一人の兵士が武器を片手に現れたが、撃たれる前にメルとセレスが蹴りを叩き込んで地面に倒してからセレスが銃をぶっ放した。
ティファは銃声に思いっきりセレスに抱き着いた状態でびっくりするが、鼓膜はまだ無事だ。そこは安心してほしい。
「もうすぐです!」
メルが叫んでから十秒後。扉を出ると、格納庫が目の前に広がった。
そこではスペースイグナイターが格納庫の扉の方を見てエネルギースナイパーライフルを構えていた。
反対側の通路には何かトマトが潰れた後みたいな光景が広がっているが……うん、気にしない方がいいだろう。
「ミサキちゃん! 来たよ! コクピット開けて!」
『あ、うん! イグナイトシステムを切って……乗って、早く!』
ミサキがコクピットを開き、機体を四人の方に寄せる。
それを確認したメルとセレスはコクピットに飛び込み、ミサキは再びイグナイトシステムを起動しながらコクピットを閉じる。
「ふぅ、間一髪です。ロール様は私の膝に乗せます。ティファさんはセレスの膝の上に」
「あ、うん。そこは大丈夫、そうするしかないって分かってるから」
自分の作った機体のコクピットくらい、構造は把握している。
5人も乗り込むとなるとそうするしかないのはわかっている。
展開済みのサブシートに急いで座ると、ミサキがフットペダルを踏みこんだ。
「ちょっと待って? どこから出るの?」
「そりゃあもちろん。もう一回扉に突っ込んでぶち抜く!!」
「さっきの揺れってもしかしてそれぇ!!?」
大正解。
轟音を立ててせっかく固まったばかりの粘着球がもう一度粉砕される。
その衝撃にネメシスにあまり慣れていないティファは悲鳴を上げたが、まぁ無事なので問題ない。
それよりも、問題は。
「あっ、わたしの船! 牽引されてるはずだから……あった! あの繋がってるワイヤーロープ切れる!?」
「突っ込めばなんとか!」
「ありがと! あとは10分後にハイパードライブするように遠隔で操作して……よし! できた! あとはほっといても大丈夫!」
一旦船につながれているワイヤーロープを切り、それからミサキは通信を繋げる。
その先はサラ。
『ん? 通信……ミサキから! ってことは!』
「サラ! あんたも来てたの!?」
『ティファ! よかった、救出成功したのね! なんか半分墜落みたいな感じで刺さったから結構心配してたのよ!』
「えっ、なにしたの……?」
「斜め45度くらいの角度から減速無しで突っ込んでみた」
「もはや墜落でしたよね、あれ」
「特攻とも言うね」
「なんで無事なの……? あっ、ところでサラはどこに?」
『こっちこっち。あんたから見て左手の方』
サラの声が通信越しに響く。そして言われた通りの方を見れば、光を纏って光の翼を展開するラーマナMk-GXの姿が。
「えっ、ラーマナ!? しかもGXになってる!?」
『悪いけど勝手に持ってきたわ。あんたの小型船もちょっと離れた場所にあるから』
「そう……ありがと、サラ」
『いいのよ、別に。それよりも、あんたは早くトウマのところに。もうウチの機兵団は撤退してレイトが時間を稼いでるけど、ヤバそう』
「ヤバいって……?」
『トウマのやつ、あんたを守るためだってレイトすら圧倒してんのよ。イグナイターであそこまでやるって、どんな覚醒方法してんの、ほんと……』
レイトすら圧倒している。
その言葉を聞いてセレスの表情が歪む。
あのレイトが、押されている。その現実が信じられなかったから。
『あたしもここらの敵を一掃してからそっちに行く。ミサキ、あんたはウチの国の方に逃げなさい。友軍識別コードも送るから』
「あ、うん。えっと、これをこう設定して……これで大丈夫?」
『完璧。ほら、早く行った!』
ラーマナが手にしたシヴァカノンが光り、スペースイグナイターに接近していた機体達が蒸発する。
それを見てから即座にミサキはティウス王国軍の方に機体を走らせながらハイパードライブを行う。
「ハイパードライブで一気に逃げるから!」
「わかった! 早く!」
そしてハイパードライブにより、機体が高速移動。ティウス王国軍側の直上へとたどり着く。
すぐに気が付いた王国軍の機体がスペースイグナイターに銃口を向けるが、識別コードが友軍だということに気が付くと、銃口をすぐに下した。
そして、そこから少し離れた先では。
「あ、あそこ! ユニバースイグナイター!」
「まずい、レイトが……!!」
ユニバースイグナイターのビームセイバーがライトニングビルスターのガーディアンパックを切り裂いていた。
もうライトニングビルスターは虫の息。もうあと一手でレイトが殺される。
「ミサキ、通信! イグナイター同士なら固定回線がある!!」
「うん、これだね!」
ミサキがユニバースイグナイターとの通信をつなぐ。
そして。
「――駄目、トウマ!!」
ビームセイバーを構えたユニバースイグナイターが、止まった。
****
Q:トマトが潰れたようなって、ミサキさん何したん?
A:やめなさい(連打)
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