隠した力
サラは一人メロス国にまで戻っていた。
向かった先は、貸倉庫。そこにギャラクシーイグナイターを用いて入り、目的の船を見つける。
「久しぶりね、これを見るのも」
それは、ティファが最初に乗っていた小型船だった。
この船は大型船を買った際にこの倉庫に片づけたのだが、それから何度かこの貸倉庫から取り出してはとある事をティファはしていた。
勿論それはサラも知っている。
船の横にギャラクシーイグナイターをつけ、そこに増設されたタッチパネルを触る。
「認証装置起動。申請者、サラ・カサヴェデス」
この船にかけられたロックは、現状3人しか解除できない。
その3人とは、ティファ、トウマ、サラ。この船を拠点に仕事を受けていた3人。レイトもミーシャも、この船のロックは開けることができない。唯一ティファだけはネットワーク接続できる端末があればこの船のロックを遠隔で解除できるが。
仮にロックを無視して船に入ろうものなら自爆装置が起動するようにできている。
そんな物騒なロックを生態認証で解除すると、船のエンジンが起動する。
それを見てから船の格納庫を外部から開き、ギャラクシーイグナイターと共に格納庫の中へ。
市販の高級お掃除ロボットにより埃一つもない格納庫。
そこには、二体の鋼の機人が何も言わずに佇んでいた。その内の、白の機体にサラは視線を向けた。
「……久しぶりね、ラーマナ」
その機体は、ラーマナMk-X・改。
かつてのトウマの愛機であり、後にサラの愛機となったラーマナ。その最終改良型。
ラーマナMk-Xとその外見は一切変わっていないが、それでも内部はがらりと変わっている。
「結局こうなるなら、あなたを使い続けても変わらなかったのかもね」
どうしてラーマナがこの船にいるか。どうして、サラがギャラクシーイグナイターに乗り換えたのか。
それは端的に言えば、自身の知名度隠しのためだ。
仮称:女王融合体を討伐したのち、サラ達の知名度は格段に上がった。それは、三人の本名を知らない人間にも。
圧倒的な物量を相手にしても戦い抜けるネメシス。その機体性能は現行の機体を簡単に上回るオーバースペックな機体である、と。
故に、そう言った者達からのやっかみや喧嘩。果てには脅迫などを防ぐため、トウマとサラは機体を乗り換える事に決めた。
その乗り換え先こそが、イグナイター達。
結局はサラ達の本名を。実際に会ったことがある人間が起因してこうなってしまったので、結局は何をしても無駄だったのかもしれないが。
「また力を貸してね、ラーマナ」
コクピットハッチを開き、ラーマナに乗り込む。
OSを起動させれば、ギャラクシーイグナイター以上に乗り慣れた感覚にどこか安心する。
「システム、オールグリーン。機体各部異常なし。うん、完璧ね、ラーマナ」
長らく放置していたが、それでも動きには問題なし。流石はティファの最高傑作の一つだ。
ラーマナは言葉を告がない。
だが、それでも機体に宿る闘志は感じ取る事ができる。
「よし。なら、ラーマナ。また力を貸してもらうから。あんたのご主人様たちを連れて帰るためにね。勿論、ギャラクシーイグナイターも」
純白の機体達に視線をやり、サラはラーマナから降りる。
あとはこの船を戦場から少し離れた場所に持っていくだけだ。
そうしたら、2人を救出したあと、きっとあの機体が力になってくれるはず。
「さーて、こっからが反撃の時間よ」
そして、最強の一角がいよいよ戦場に姿を現す。
****
既に戦場ではハインリッヒ機兵団がトウマの足止めをしている。
それを確認したサラ達は、連絡船の中に搬入したネメシスのコクピットで近づいてきた出撃の時を待っていた。
「さーて、いよいよね。ミサキ、準備はいい?」
『う、うん……!!』
「緊張しないで。敵は全部こっちで面倒見るから」
サラはラーマナのコクピットでミサキと通信を繋げ、彼女の緊張を何とか取り除こうと声をかけていた。
だが、ミサキにとっては初の実戦。どうしても緊張は抜けていないようだった。
それも仕方ないか、と思うのだが。
『では、サラ様。ご健闘を』
「そっちもね。あと、ハイパードライブをしたらこっちの方で船に対して通信阻害のためにハッキングも裏で仕掛けておくから。トウマがそっちに戻る事はほぼないと思っていいわ」
『そこまでやってくれるんだ。けど、大丈夫なの? そんな事を裏でやってても。機体が動かなくなったりしない?』
「大丈夫。一機分、処理能力が空いてるからね。ラーマナの方は戦闘に割り切って、ギャラクシーイグナイターには補助を優先させるから」
連絡船に搬入されたネメシスは、3機。
ラーマナMk-X・改、スペースイグナイター。そして、無人のギャラクシーイグナイター。
この内、ギャラクシーイグナイターは敵船にハッキングを行い、通信を阻害する。こうすればトウマも船からのヘルプが届かず、戦場にかかりきりになるだろう。
「さーて……行きますか」
視界の端に、ミーシャからのGOサインが来た。レイトもこちらに向かっているという合図だ。
ならばもう待つ必要はない。
「それじゃあ、ミサキ。お先に」
カタパルトにラーマナが両足を乗せ、そして飛ぶ。
「ラーマナMk-X・改! サラ・カサヴェデス、出る!!」
カタパルトが火花を散らし、ラーマナを宙へ送り出す。
そして続くのは、ギャラクシーイグナイター。
「ギャラクシーイグナイター、射出!!」
巡行形態のギャラクシーイグナイター。
両腕両足をパージした状態のソレが、宙へと射出される。
そして、ミサキも。
『す、スペースイグナイター、発進します!!』
巡行形態の状態で発進する。
こうして3機のネメシスが戦場の上空に集う。
あとは、ハイパードライブをするだけだが。
『あの、サラ様? その機体はハイパードライブを積んでいなかったと……』
ラーマナMk-X・改にはハイパードライブが積まれていない。
故にイグナイター達のように戦場の中心に飛ぶことはできない。
筈だった。
「まぁ見てなさい」
ラーマナMk-X・改の真骨頂はここからだ。
サラは一つのプログラムを走らせる。そして行われるのは。
「ドッキングシークエンス開始。ギャラクシーイグナイター、条件達成。ラーマナMk-X・改、ドッキングセンサー照射」
ギャラクシーイグナイターがひとりでに動き、ラーマナの背後へ。
そして、ギャラクシーイグナイターの胴体部が稼働。ラーマナのバックパックが入るだけの空洞を作り出す。ラーマナのバックパックも、偽装用の装甲が展開し、ドッキング用のアタッチメントが姿を現す。
そのアタッチメントを基に、ラーマナとギャラクシーイグナイターがドッキングする。
「動力炉直結。ハイパードライブシステム、イグナイトシステム、リミテッドブーストシステム、全システムオールグリーン」
これこそが、ティファの作り上げたネメシスの、最終進化系。
二機のネメシスを一つに。巨大な翼を携えた、埒外のネメシス。
「ラーマナMk-
その名は、ラーマナMk-GX。
この宇宙で産まれた、最強の一角。
『ネメシスが合体した……?』
『レイトが好きそーなことしてる……」
『あれ、スペースイグナイターもできるのかな』
「一応、イグナイターは規格が全部同じだからできるわよ。でも、一番相性がいいのはギャラクシーイグナイターなの」
イグナイターの真の使い方は、これだ。
本来イグナイター達は外付けの強化パーツとして作られた。だが、それを偽装用に、とネメシスにまで仕上げた結果がユニバースイグナイターを始めとしたイグナイター達だ。
強化パーツに胴体と手足を生やしてネメシスに仕立て上げた。だからこそ、イグナイター達は小型だった。小型にしなければ、このように強化パーツとして背負う事は難しかったから。
変形機構を取り付けたのは、トウマの我儘でもあるが。
故にラーマナMk-GXには変形機構は搭載されていない。しかし、それを補って余りあるスペックを手に入れている。
具体的には、変形したイグナイター達以上の速度を叩き出せる。
「あとは、こっちの方ね。シールド、ドッキング」
そしてラーマナが持つシヴァに、ドッキングした際にパージされたギャラクシーイグナイターの盾が変形して取り付く。
これで本当にドッキング完了だ。
「さて、ミサキ。一足先に行っているわ。あんたの事なんて誰も気づかない程度には荒らしてあげる。だから、心配しないで」
『う、うん! 行ってらっしゃい!』
「えぇ。行ってくる。それじゃあ……ハイパードライブ、起動!!」
イグナイターに扱えるのであれば、ドッキングしたラーマナにも扱える。
故に、ラーマナもハイパードライブを行い、ミサキの前から姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます