最悪のリベンジマッチ

 開戦の合図と言わんばかりにライトニングビルスターはネメシス形態に変形してからスナイパーキャノンを撃ってくる。

 コクピットに直撃するコース。それを読み切り、ビームセイバーで弾丸を切り払う。

 前回の大会戦でやれたことだ。実戦でもできないわけがない。

 

「出し惜しみは無しだ!! セパレート、俺の敵を討てッ!!」

『行けよッ、ディフェンダーウィング!!』


 本当はもっと温存しておきたかったが、レイトが来たのなら話は別だ。

 セパレートウィング弐式を分離し、ライトニングビルスターへと飛ばす。対するライトニングビルスターはディフェンダーウィングを飛ばし、セパレートウィング弐式の攻撃を防ぐ。

 二機の周りをウィングが飛ぶ。


『疲れてるみたいだけど、容赦はしない!!』

「容赦なんざ結構! 斬り伏せてやるよ!」


 再びの狙撃。それをビームセイバーで斬り払い接近を試みるが、ライトニングビルスターの肩部と胸部の装甲が開いたのを見て即座に反転、距離を取る。

 直後に放たれるガトリングとミサイルの雨の中を極限の集中で潜り抜ける。


『なんで避けれんだよ、本当に!!』

「こんな所で死んでられねぇんだよ!!」

『だとしても!!』

「弾幕が止んだ……? いや、上か!!」


 ガトリングもミサイルも内蔵武器故に弾数はかなり少ない。故にそれさえ撃ち尽くさせれば、と考えたものの、レイトはそれを撃ち尽くす前に斉射を止めた。

 その様子に違和感を持った直後、トウマの直感が真上が危険だと指し示す。

 それに従い真上に盾を構えれば、出力こそ大した事はないが当たれば隙が生まれる威力のシヴァが盾に直撃した。

 下手人は見なくても分かる。セパレートの射線を遮りながら飛ぶディフェンダーウィングだ。


「ディフェンダー! 厄介な武装だよ、溜め息が出るくらいな!!」

『君の彼女の作った自信作だからねぇ!』

「生憎、まだ彼女じゃねぇよ!!」


 盾を上に構えた隙を見てライトニングビルスターのガーディアンパックに備えられた二門のシヴァが正面を向き、当たれば塵になる火力のビームを放つ。

 それをバレルロールを交えた回避行動で避け、発射後の隙にエネルギーライフルの弾丸をねじ込む。

 その渾身のライフル弾もライトニングビルスターの盾に防がれる。


「致命打にならねぇか! なら、戻れセパレート!」

『そうなるよね! 来い、ディフェンダー!』


 セパレートウィング弐式がユニバースイグナイターの腰に戻り、それを見てディフェンダーウィングもライトニングビルスターの背部に戻る。


「後詰めで何が出てくるかは知らねぇが、今はお前が邪魔だ!! 確実に落とす!!」

『やれるもんかよ!!』


 ライトニングビルスターの狙撃を盾で弾き、お返しにエネルギーライフルとレールガンの弾を浴びせる。

 しかし相手はレイト。その攻撃すら避け、防ぎながら4門にも及ぶ過剰火力のシヴァでユニバースイグナイターを消し飛ばしにかかる。

 流石に4門のシヴァはエネルギーにより防御力が上がった盾でも貫かれる。

 故にそれは回避し、続く狙撃はビームセイバーを盾を装備した左手で抜刀と同時に切り払う。

 そして追撃が飛んでくる前にユニバースイグナイターは変形。巡航形態で突貫し、4門のシヴァを潜り抜け、更なる追撃の狙撃が飛んでくる前に肉薄してビームセイバーを振るう。

 その一撃にレイトも反応し、ユニバースイグナイターのビームセイバーとライトニングビルスターの脚部ビームセイバーが鍔迫り合い、火花を放つ。

 

『くっ! トウマさん、あんただってこんな事したくないんだろ!? なら止まれよ!!』

「あぁ、やりたくねぇ事やらされてるよ、俺は!! けどな、だからってティファにこれ以上悲しい顔させられねぇんだ!! あいつは俺が守る!! 守りたいんだ!!」

『こんな事をしてティファさんが笑顔になるとでも!?』

「ならねぇよ!! ならねぇけど、ティファの幼馴染見殺しにして、あいつを泣かせるくらいなら、俺が犠牲になってやるって言ってんだ!!」

『ティファさんを悲しませてでもか!?』

「あぁ、そうだ!! けど、これ以上あいつを悲しませないためにも、俺は死なない!! 死ねない!! だから!!」


 ユニバースイグナイターのビームセイバーが、ライトニングビルスターの脚部ビームセイバーを打ち払う。

 パワー負け。今まで一度も起こさなかったそれにレイトが目を見開き驚く。

 

「お前が、死ねッ!!」


 振るわれたビームセイバーが、咄嗟に前に出されたシールドの表面を焼く。

 しかし、トウマはそれだけでは止まらない。

 距離を取ろうとするライトニングビルスターに無理矢理詰め寄る。

 

『離れられない!?』

「ミサイル、行けよォ!!」


 更に追撃のミサイルを全弾。

 咄嗟にレイトは肩部ガトリングを展開し、ミサイルを迎撃する。しかし、それも悪手だと気づいている。

 ミサイルを迎撃したことによる爆炎で一瞬ユニバースイグナイターの姿が見えなくなってしまうからだ。

 それでも、ミサイルは当たればマズい。故に、迎撃せざるを得ない。

 

『くそっ、前が!!』

「破を念じて、刃と成れ!!」


 ライトニングビルスターの視界が爆炎で塞がれる。その一瞬にトウマは機体を変形させ、機首代わりの盾で一気に突撃する。

 爆炎を抜けた先では、盾を構えるライトニングビルスター。

 弾が飛んできても、格闘が飛んできても防げるようにしたのだろう。

 だが、それを一瞬で理解したトウマは突っ込む方向を若干横に逸らす。それにより、ライトニングビルスターの真横を素通り。

 

『回り込み!』


 背後に回り込んでの格闘攻撃。そう読んだレイトは咄嗟に後ろを向いて盾を構える。

 が、その読みをトウマは上回る。

 

「スタンドマニューバッ!!」


 すれ違ったその瞬間、スタンドマニューバで慣性を殺しながら後退。

 トウマの裏取りを読んでの振り返り、を更に読んでのスタンドマニューバによる裏取り。

 完全にこの読み合いはトウマが一歩上をいった。

 しかし、それでも落とされるわけにはいかないと、レイトは盾のブースターを使って無理矢理振り返る。

 

『く、そぉ!!』


 きっとこちらが攻撃することはできない。だが、防御するだけなら。

 そう考えながら、振り返りつつトウマの攻撃を確認する。

 トウマの攻撃は。

 

『……は?』


 プロペラントタンク。

 

「知ってんだろ、レイト。プロペラントタンクがよーく爆発するって事は」

『し、まっ!?』

「遅い!! 光れッ!!」


 スタンドマニューバによる裏取りと同時に切り離されたプロペラントタンク。それがライトニングビルスターの目の前で浮いていた。

 それを見て、それが爆発する物だと気が付いて、血の気が引いたと同時だった。

 ユニバースイグナイターのエネルギーライフルから放たれた弾がプロペラントタンクを焼き、大爆発を起こすのは。

 ネメシスが零距離で爆発したのとほぼ同等。いや、それ以上の大爆発にライトニングビルスターは成す術もなく飲み込まれる。

 だが、相手はレイト。この攻撃でも死んでいない。だから。

 

『し、死ぬかと……』

「思っただけだろうなぁ!!」


 爆炎を切り裂きながらライトニングビルスターが、真上に変形して飛翔する。

 その動きすらも読み、変形して飛び出してきたばかりのライトニングビルスターに突撃し、まだ変形中のライトニングビルスターがネメシス形態に戻る前に、格闘戦を仕掛ける。

 

『っ!? 読まれて!?』

「レイト! 死ねよやァ!!」

『畜生!!』


 ライトニングビルスターが変形し始めるが、遅い。僅かなその隙にビームセイバーを叩き込む。

 これで殺した。

 そう確信した、咄嗟にライトニングビルスターが変形しながらも無理矢理動いた。

 それにより、ライトニングビルスターを一閃するはずだったビームセイバーは外れてしまい、ライトニングビルスターの両足を両断するに留まる。

 

「外された!?」

『ぐっ、ごめん、ライトニングビルスター……!! 僕が驕った……!!』


 両足を斬られたライトニングビルスターは脚部の爆発により吹っ飛ぶが、その勢いでユニバースイグナイターから距離を取る。


『けど、距離を取った!! この距離はライトニングビルスターの距離だ!!』

「距離取っただけで俺が殺れると思ったか!!」

『思っちゃいないけど、無事じゃ済まないだろうね!! フルブラスト!!』


 ライトニングビルスターが持つ遠距離武装。それが全て一斉に火を吹いた。

 ネメシスを超えるその火力。ティファお手製のシヴァに加え、スナイパーキャノン、ミサイル、ガトリングを加えた、ライトニングビスルターの切り札の一つ。

 それが、たった一機のネメシスへと降り注ぐ。

 普通なら死ぬ。

 普通なら。

 

「そうかい」


 トウマはそう答え。

 ユニバースイグナイターが、ライトニングビルスターの視界から消えた。

 

『…………は? 消え、た?』


 消えた。

 目の前から。

 戦場から。

 いったい、何が。

 

「ハイパードライブだよ」


 次の瞬間、ライトニングビルスターの背後にユニバースイグナイターが出現する。

 やった事は極単純。

 少し遠くにハイパードライブを行って姿を一度消し、ライトニングビルスターが見失ったと確信。直後、ハイパードライブをもう一度行ってライトニングビルスターの背後に舞い戻ってきた。

 これだけだ。

 これだけで、不可視のワープ攻撃が完成する。

 

『なっ』

「詰みだ、レイトォ!!」

『いや、まだ!!』


 背後からの完全な奇襲とビームセイバーによる斬撃。

 こればかりは避けられない。そう確信したトウマの一撃。だが、レイトは直前でバックパックを。ガーディアンパックをパージ。その反動で少しだけユニバースイグナイターから距離を取る。

 次の瞬間、ビームセイバーはガーディアンパックのみを切り裂き、ガーディアンパックが爆発する。

 ライトニングビルスター本体は、無事。

 ボロボロの機体を盾のブースターに任せて引きずられるように距離を取る。

 だが、その速度はこの時代のネメシス。無改造のブレイクイーグルにも劣る。

 

『くっ……!!』

「上手く逃げた! だが、こいつで終いだ!! 精々恨め!!」


 ライトニングビルスターが右腕のスナイパーキャノンを構える前に接近。

 盾も間に合わない。

 狙撃も無理。

 完全なチェックメイト。

 ビームセイバーの切っ先が、ライトニングビルスターのコクピットに迫る。

 そして。

 

『――駄目、トウマ!!』


 守りたい人の声が聞こえた。

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