抵抗を意志と力で捻じ伏せて

 黒い機体が、宙域へと飛んだ。

 即座にハイパードライブ。光に包まれ、次の瞬間にはティウス王国軍のど真ん中に機体が移動する。

 しかし。

 

『やっぱりか!! 全機、ハイパードライブしてきたこの機体を狙え!! 敵の部隊が展開する前にコイツを狙え!!』

『そう何度も同じ目に引っかかるか!!』

『お前は自ら罠に飛び込んだ虫同然だ!!』


 ハイパードライブが完了した瞬間、それを読んでいたティウス王国軍の銃口が一斉に向けられる。

 だが、関係ない。

 

「イグナイトシステム!!」


 イグナイトシステムを発動。

 残光を残しながら一気に加速し、その速度について来れない敵のブレイクイーグルの背後を取る。

 

『速っ!?』

「オラよ!!」


 そしてビームセイバーを抜き、一瞬でブレイクイーグルを達磨にする。

 僅か数秒で無力化されたブレイクイーグルの頭部を掴み、そのまま盾にする。

 右手にはブレイクイーグルを。左手には盾とビームセイバーを。

 

「ほら、お仲間ごと撃ってみろよ。撃てるもんならなぁ!」


 肉壁。いつものトウマなら宙賊のような何でもありのような相手にしか取らないような戦法。

 それを、彼は平気で取った。

 だが、相手とてそれに対応するための策は用意している。

 

『クソッ!!』

『今だ、パイロットを救出、救出機には近づけないように弾幕を張れ!!』


 機体を捨てての脱出。それにより達磨になった機体から離れ、救助に来た機体の方へと逃げていく。

 それに対してトウマは舌打ちをしながら。


「忘れモンだッ!!」


 達磨になった機体を思いっきり蹴り飛ばす。

 それにより機体は加速して飛んでいき。

 

『こ、こいつっ……!!?』


 逃げていたパイロットを轢き潰し、そのまま救助に来ていた機体へとぶつかった。

 その光景に、覚悟を決めた軍人でも一瞬呆然としてしまう。

 機体を捨てて逃げた生身の人間すら追い打ちで殺すのか、と。

 その一瞬が命取りになる。

 

「死ねよやァ!!」


 一瞬の隙を縫ってトウマは他のブレイクイーグルへ接近。ビームセイバーを使って機体を真っ二つに切り裂く。

 それにより起こった爆発に乗じてエネルギーライフルを乱射し、3機のブレイクイーグルが爆散した。

 更にユニバースイグナイターは変形。全速で飛び、丁度目の前にいたブレイクイーグルのコクピットに向かって突撃する。

 

『うわぁぁ!!? こ、こっちに!!?』

「一丁あがりィ!!」


 そして、コクピットを機首となった盾の先端で潰す。

 パイロットはコクピットの中で圧死する。

 

『こ、こいつ、こんな戦い方をしていたか!?』

『そんな事はどうでもいい!! とっとと止めるんだ!!』


 エネルギーマシンガンがユニバースイグナイターへ向けて乱射される。

 しかしトウマはそれを全弾回避。時には敵を盾にし、時には人質を取り、決して足が止まらぬように。決して当たらないように。他の命を犠牲にしてでも己だけが生き残るように宙を飛ぶ。

 それだけではなく、トウマは射程ギリギリの敵すら狙って雑に弾を放ち、なるべく敵陣の混乱する範囲を増やしていく。

 最大限相手に混乱を生み出そう、という意識から生まれるそれは前回の比ではない程に効果を発揮していく。

 このままではアイゼン公国軍の本隊に意識を向けられない。誰もがそう思った。

 しかし、そんなトウマを相手に実弾の弾丸が一斉に襲い掛かった。

 

「っ!?」


 イグナイトならば弾ける程度の弾丸。だが、何発も食らい続ければその限りではない。

 故に、数発ほど貰ったが、即座に回避行動をとり、攻撃した下手人へと視線を合わせる。

 そこに居たのは、赤色のネメシス。両腕にガトリングを持った、どこかで見たことがあるようなネメシス。それが、7機。

 

『な、なんだあの機体……!? ガベージ・コロニーで見たあの赤いネメシスか……!?』

『識別は……ゴールディング家? あのAI狂いのゴールディング家の機体か!?』


 機体名は、ロート・ガイスト。

 赤い亡霊。

 

「なるほどな……だけどなぁ」


 トウマはサラからロート・ガイストの存在を知らされていない。

 まさか彼女自身、量産されているとは思っても居なかったからだ。

 あの機体は、戦争が始まる直前にゴールディング家が可能な限り限界まで死力を尽くして生産した、新たなるロート・ガイスト。その全てが、サラと戦ったロート・ガイストと同等のスペックを誇る。

 つまり、マリガンが7人現れた、という事にもなる。

 だが。

 それでも。

 

「今更化けて出てきても遅ぇんだよ、マリガァァァァンッ!!」


 もう、その弾丸はトウマには届かない。

 ガトリングの弾丸の中を突っ切りながらエネルギーライフルを乱射する。

 狙われたロート・ガイストはそれを避けるが、トウマは関係なくコクピットへ向かって突っ込んでいく。

 真正面から突入してくる馬鹿。その存在をロート・ガイストは見たことが無い。予測できない。学んでいない。

 

「一つッ!!」


 そして、すれ違いざまの一閃。

 それにより一機のロート・ガイストが爆散した。

 しかし、相手はAI。味方がやられたことなどお構いなしにその場を離脱したトウマをガトリングで狙い続け、弾をバラまき続ける。

 

『み、味方か……! 全機、あの赤い機体の援護を!』

『いや、違う、前だ!! アイゼン公国軍が本隊を展開して攻めてきている! 彼の相手はあの赤い機体に任せて態勢を立て直せ!!』


 丁度その時になって、ようやくアイゼン公国軍の部隊とティウス王国軍の部隊が交戦距離に入った。

 もうティウス王国軍はこちらを見ていない。

 ならば、とガトリングの弾を引き連れ、そのままロート・ガイストから距離を取り、近くにいたブレイクイーグルの両腕を斬り飛ばし、そのまま盾として構える。

 

『なっ、いつの間に!!』

「ほら、肉壁をどうする、マリガンさんよォ!!」


 あれに乗っているのがマリガンなら、撃っただろう。

 だが、あれはマリガンを基にしたAIであり、マリガンではない。

 故に、射撃の手が止まる。

 奴らは通信越しに言っていた。アレはAIだと。

 なら、味方が撃てないようにプログラミングされているはずだ。

 その予想は。

 

「……ほらな、撃てない」


 当たっていた。

 ロート・ガイストは肉壁となった機体を見て、救出のためにトウマを一旦囲もうとする。

 が、それよりも早くトウマはブレイクイーグルの足を斬ってからロート・ガイストの方へと蹴り飛ばす。

 ロート・ガイストの内1機は飛ばされてきたブレイクイーグル救助のために武装を放棄して抱き留めようとするが。

 

「二つ」


 助けようとしたブレイクイーグルごと、コクピットをエネルギーライフルで撃ち抜かれ、爆散した。

 残り5機。


「……1発ずつ切るか。飛べ、セパレート!!」


 そして今度は数を減らすため、セパレートウィングを飛ばす。

 サラのフェンサーウィング弐式を見たが故にロート・ガイストは距離を取りながらセパレートに集中する。

 何故AIがこれに対応できる、と舌打ちするが、ならばセパレートはあくまでも囮でいい。

 変形して、一機のロート・ガイストに向けて狙いを絞る。

 

「破を念じて、刃と成れ!!」


 セパレートでかかりきりだったロート・ガイストのコクピットへ向けて突撃。そのままコクピットを機首で貫く。

 更に油断せず、頭もビームセイバーで切り落として完全に無力化。そこまで至った段階でロート・ガイストのガトリングを奪い取り、狙いを付けて放つ。

 それによりもう一機のロート・ガイストも爆散する。

 

「三つ、四つ」


 そして、次の一機はセパレートに囲まれ、対応する前に背後からレールガンの弾頭をコクピットに叩き込まれ、機能が停止した所でトウマがビームセイバーで頭を斬り飛ばした。

 

「五つ」


 これで、あと2機。

 

「こうなりゃもうガトリングの弾なんざ怖くねぇんだよ!!」


 流石に7機のネメシスからのガトリングはイグナイトを使っても怪しかったが、2機まで減ったのならその限りではない。

 真正面から突っ込みながらエネルギーライフルを放ち、ガトリングは盾で受け、一気に接近する。

 マリガンのマッドネスパーティーは機動力を最低限PvPができる程度にまで減らし、それ以外の全てを装甲と火力に振った、ある意味では気持ちがいい機体だった。

 だが、その機体はこの時代では再現できていない。足の速さも、装甲の厚さも、中途半端。

 ユニバースイグナイターなら特に苦労せずに近づける程度の足の速さで、エネルギーライフルなら苦も無く撃ち抜ける程度の柔らかさ。


「ちったぁ楽しめたぜ。あばよ、マリガンの亡霊」


 それ故に、ユニバースイグナイターには勝てない。

 残りの2機の内、1機はコクピットと頭部をエネルギーライフルで撃ち抜かれ、もう1機は頭をセパレートウィングにより撃ち抜かれ、胴体はユニバースイグナイターのビームセイバーで斬りさかれ、爆散した。

 所詮、亡霊は亡霊。

 あの頃から成長し続けたトウマの敵ではない。

 

「……チッ、少しは態勢を立て直されたか? なら、また散らすだけだ。プロペラントの残量は……まだ7割は残っている。まだ戦える」


 ティファを守るために。

 それだけを胸に、トウマは再び戦場へと赴こうとユニバースイグナイターを変形させて。

 次の瞬間、直上からエネルギーマシンガンの光弾が降り注いだ。

 

「直上!? 回り込まれたか!?」


 しかし、即座に回避行動。

 エネルギーマシンガンの雨霰を防ぎながら、その弾幕の中を抜ける。

 危なかった、と一息吐くが、次の瞬間には視界の隅から突っ込んでくる機体が見えた。

 

「なんだ、動きがいい……!?」


 突っ込みながらエネルギーマシンガンを撃ってきた機体を何とか捌くが、次の瞬間には背後からいつの間にか突撃してきていたらしい二機のブレイクイーグルの近接攻撃を何とか避ける。

 この連携、ティウス王国軍の雑兵ではない。

 いや、この動きは。

 

「まさか、ハインリッヒ機兵団か!?」

『流石にバレるか!! 全機、油断せずに戦え!! 決して彼を包囲の外に逃がすな!! あの赤いAI機が作ったこのチャンス、物にするぞ!!』


 ハインリッヒ機兵団。

 間違いなくトウマが知る軍隊の中では最強に名を連ねる者達。

 20機のブレイクイーグルのパイロットたちは、その全てが、ネメシスオンラインの上級者プレイヤーに名を連ねてもおかしくない程の腕を持つ。

 例えかの日のマリガンが相手であろうと、既に機兵団のパイロット達は五分の勝負ができる程にまで成長している。

 集団での戦いにより突出した個を討てる、この宇宙においては唯一の存在。

 それを率いる、この通信の主は。


「やっぱりアンタが出てくるか、ランドマンッ!!」

『君を止められるのは、お嬢様とレイトを除けば俺達だけだ!! これ以上友軍を……いや、君を傷つけさせやしない!!』

「驕ったな、機兵団!! アンタ等で俺を止められるものかよ!!」


 ランドマン。ティウス王国の軍属の人間の中では最強のパイロット。

 ハインリッヒ家の領地を守っているかと思ったら、ここまで出てきていた。これは予想外だ。

 

『友軍機に告ぐ! 彼は私達ハインリッヒ機兵団が相手する! 後ろは気にせず、前を見ろ!!』

『ハインリッヒ機兵団……あのランドマンか!!』

『あの人ならあの機体だって……全機、後ろは気にするな!! 前の敵に集中しろ!!』


 ハインリッヒ機兵団の参戦……いや、トウマが再び足止めされたという事実により、ティウス王国軍の士気が上がる。

 別にアイゼン公国軍がどれだけ損耗しようと知った事ではない。だが、ティファの居る船に危険が及ぶ事だけは避けなければならない。

 故に、ハインリッヒ機兵団にかまけている場合ではない。


「チィッ!! そこを退きやがれ!!」

『退かん!! 君を、君たちを助けるまで、私たちは決して退かん!! そのために、こちらは全力を出した! 全機がブレイクイーグルを個人用にカスタムした、文字通りハインリッヒ機兵団の全力だ!!』


 その言葉を聞き、トウマは機兵団のブレイクイーグル達を見る。

 その全ての機体が追加武装や増設スラスター、果てには専用のペイントを以ってカスタムされている。

 正しくこの世界における最強の機兵団。それが、トウマの障害として立ちはだかった。


「全機がブレイクイーグル・カスタム……! 本気も本気か、ハインリッヒ家!」

『当然! ハインリッヒ家の総力を、持ち得る全ての力を使って君たちを助ける! だから、今暫くは私達の相手をしてもらうぞ!!』


 トウマとハインリッヒ機兵団の戦いは続く。



****



 あとがきになります。


Q:なんでトウマはロート・ガイストの頭部を破壊してるの?

A:BD1号機やイフリート改のEXAMみたいなのを想定していたからです。コクピット、頭部を破壊すればAI機でも確殺できるだろう、という判断です。トウマはこの世界のAI機の詳細を知りませんからね。

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