遅すぎた覚悟/遅すぎた自覚
トウマは補給のためにあの時一度帰還したが、それ以降出番は無かった。
いや、出番を貰えるほどの状態ではなかった、という方が正しいか。
ユニバースイグナイターはサラとの戦闘で機体の各所を酷使したため、スラスターや関節各所が悲鳴を上げていたのだ。それ故にこれ以上は敵中央に突撃させても10秒も気を引くことはできないと判断したグラーフからの進言により、勝ち戦でもあった戦いは見守る事となった。
それ故にトウマは帰還後すぐに機体を下ろされ、部屋に戻された。
ティファは既に機体の整備のために部屋を出されており、トウマは一人部屋の中でシャワーを浴びてからボーっとしていた。
「……サラ、強くなったな」
思い返すのは、サラとの戦い。
敵陣の中央にハイパードライブした時なんかよりも、サラとの戦いの方がトウマとしては命の危機を感じた。
こちらの事を討とうとしてくるサラ。確実に追い詰め、そして退路を断って攻撃を仕掛けてきた彼女の手腕は見事としか言いようがなかった。
最初に出会った頃と比べれば大違い。もう年単位でネメシスに乗ってきている彼女だが、それでもあそこまで成長できるのはやはり才能によるもの。
トウマを超えるのも、時間の問題だろう。
「強かった、な……」
こちらの関節やコクピットを何の遠慮も無く狙い、そして殺しにかかってきたあの迫力。
端的に言えば、トウマは戦闘での気迫という面でも負けていた。
初手で後手となりそのまま流れを持っていかれた、機体が万全ではなかった、というのは言い訳にもならない。
戦場で戦うと言う気迫がサラに負けていた。純粋に真正面からぶつかって、そして負けた。殺されかけたのだ。
「……畜生」
結局どっちつかずだ。
敵になったのだからと割り切れず、サラを殺したくないからとどっちつかずな戦い方をして。
その結果死んでしまったのでは元も子もない。
「ティファについて行くって決めたんだ……! だってのに、だってのに……!!」
あの強がりで、意地っ張りで。
けど、人一倍弱い彼女を支えて、助けて、共に歩くために。その背中に手を当て、支えるために戦ったはずなのに。
どうして、どうしてここまで気が移る先が多い。
「――ただいま。ユニバースイグナイターの修理、してきたわ。その、サラと戦ったんでしょ? サラ、どうだっ……」
無意識だった。
トウマは部屋に入ってきたティファの体を奪い取るように抱きしめていた。
その唐突な行動にティファは驚き、目を見開いていたが、すぐに表情を元に戻し、抱きしめてくるトウマの背中を撫でた。
「ティファ……俺、どうしたらいいんだよ……! お前の事を守りたい、支えたいって思ってるのに、移ろう先が多すぎるんだ……!! 守りたい先が多いんだ……!!」
「……うん」
「死にたくない、でも死なせたくない……それなのに、それを成すだけの力が無いんだ……!!」
「うん。難しいよね、そういうのって」
「……どうしたら、いいんだよぉ」
トウマにとって、ティファが一番だ。
漂流した先で拾ってくれて。一緒に歩んできたこの小さなパートナーが、一番なんだ。
――答えをティファが出してくれるわけがない。
彼女が言えるわけがない。自分を優先しろ、なんて。
彼女が言うのは、ただ一つ。
「……逃げても、いいのよ。わたしの事なんて放っておいて。ロールの事だって、わたしが見捨てられないだけなんだもん」
逃げろ。
最初から彼女は言っている。
ついてくるな、と。
自分の心を押しとどめて。
自分の我儘を殺して。
その我儘を、押し付けようなんて、一切思わないで。
「――そう、か」
――一つ、答えを見つけた気がする。
ティファは、我儘を押し付けようだなんてしていない。我儘から遠ざけようとすらしている。
だったら。
彼女が、そうやって自分の我儘を殺すのなら。
「――わかったよ。ティファ」
こちらとて、我儘を殺そう。
「俺は生きて帰る」
ティファを守るために。
「ティファの事を守る。ティファが守りたい物も、守ってやる」
拾い上げられない物は。
「だから、俺に任せてくれ。もう、負けない」
斬り捨てよう。
「覚悟は、決めたから」
だから。
恨んでくれ。
たった一つの好きのために、他の好きを斬り捨てることを。
「とう、ま?」
その漆黒の覚悟は、ティファにも伝わる。
伝わってしまった。
それでも、ティファは何も言わなかった。
何も言えなかった。
トウマを。誰よりも優しかった彼を、ここまで歪めてしまったのは、紛れもなく。
嗚呼。そうだ。
「……ごめんね」
彼をここまで歪ませてしまったのは。
紛れもなく、彼女なのだから。
――もしもこの世界に、まだ神様が居るのなら――
――お願いだから、彼からこれ以上何も奪わないで――
――甘ったれで、どこか抜けていて、馬鹿で、お調子者で、誰よりも必死で、誰よりも強くて――
――誰よりも、自分の事を見てくれた彼だから、好きになったのだから――
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