最後の幕を開ける準備は
アイゼン公国軍侵攻部隊とティウス王国防衛部隊の戦闘は、痛み分けのように見えるアイゼン公国軍の勝利に終わった。
初手でトウマによって招かれた混乱と、それに乗じたアイゼン公国軍の攻撃が一番の痛手だった。
陣営中央で起こった混乱及び、そこから乗じた同士討ち及び、一斉攻撃によって中央の部隊がほぼ壊滅。さらにティウス王国軍の陣営付近で行われたドッグファイトに巻き込まれた者、意識をそちらに吸われた者が少なからず居た事により、ティウス王国軍は早めの撤退を選んだ。
ティウス王国軍が消耗したネメシスの数は約150機。約15%もの機体とパイロットが今回の戦闘で失われた。
対してアイゼン公国軍の消耗は約30機。約5%が今回の消耗だった。
これ以上は全滅する、と判断したティウス王国軍が防衛ラインを一度下げるため撤退したことで、戦場はアイゼン公国軍の勝利となったのだ。
たった一機によるかく乱と、それにより招かれた混乱。これがティウス王国軍の敗因だった。
だが、次こそは。次こそは確実にトウマを初手で止め、そして取り戻す。
そのための作戦は、既にハインリッヒ伯爵家で進行中だった。
「という事で、作戦の足掛かりは完了したわ」
ハインリッヒ伯爵家に戻ってきたサラは手に持っていた端末からホロウィンドウを表示しながらそう告げた。
「改めて、ありがとう、兄様。あたしの我儘に付き合ってもらって」
「いや、いいんだ。救うための足掻きすらせず、敵に回ったからと殺してしまうのはいささか気分が悪いからな。それに、我が領地は彼の尽力があって救われた。その恩を返す時だ。貴族とは時に私情を優先してしまう物さ」
今回の作戦は、サラの我儘が発端だった。
トウマとティファを助け出したい。そんな我儘が。
一度。立てた作戦を一度行ってみて、駄目なら諦める。そんな条件の元行われたこの作戦は、見事足掛かりを成功させた。
あとは、あと一度。あと一度彼と接触し、そして全てを救い出す。そうすればトウマにかけられた首輪は消滅し、2人を取り戻すことができる。
「そうね。と、言う事で。これが今回の作戦に必要不可欠なもの、ロールが監禁されている敵の船の艦内図よ」
そのために必要な物。それは、艦内図だった。
ホロウィンドウに表示されているのは、あの通信を行った1分の間で取得した、アブファルの船の艦内図だ。
ネットワークが繋がっている部屋ならば、かなり詳細に情報が記載されている。
「まさかティファ嬢から買ったあのプログラムが、彼女を救うための足掛かりになるとはな……」
この艦内図を得るには、いくつかの手順が必要だった。
まず、ロールとティファが居る船がどれなのかを探り当てる事。そして、通信を繋げる事。その通信越しにプログラムを走らせ、一定時間通信を繋げたままとする事。
2人が捕らえられた事を知ってからはどこに彼女たちが居るのかが分からなかったため迂闊な事はできなかったが、それさえ分かってしまえばやりようはある。
この通信を繋げた船にティファの船が牽引されているのは確認したし、ユニバースイグナイターを整備できるのはティファだけ。間違いなく、ティファもこの船に軟禁されている。
違ったとしたら、その時は奪還作戦をちょっと延長して何とかするしかない。
「全くね。まぁ、そこは後でティファから100万払わせてトントンにしましょ」
「いや、裏で結構使っているからそんな事はしなくてもいいのだが……」
「そう? ならいっか。で、この艦内図を見てみると……」
艦内図には艦内ネットワークに繋がっていた船が詳細に記載されている。
だが、二ヵ所だけ詳細が存在しない部屋がある。
大きさ的に、数人が住むための部屋と、一人用の部屋。
「露骨ね。この二ヵ所だけ艦内ネットワークに繋がっていない。この部屋同士がローカルのネットワークか何かで繋げられている」
「と、いう事は……」
「こっちの広い方にティファ、狭い方にロールが軟禁されているに違いないわ」
「外れていたら?」
「ジエンド。もう船に手当たり次第穴をあけてティファを見つけて拾い上げるしかないわ」
「そうならないようにはしたいが……」
そこまで分かれば、2人の救出を最短で行える。
敵の艦内に潜り込み、そしてティファとロールを救出。そのまま脱出すればトウマは自由の身。
大型船の方はどうしようもないかもしれないが、既にもう一つの船はサラの権限で動かしている。
そちらの船が無事であれば、どうにでもなる。
「さて……これはビアード家にデカい貸しを作る事になるな」
「そうね。まぁ、元々あっちには借りがあるわけだし、少しは割引してくれるでしょ」
「そうしてくれるといいが……」
そして、肝心の救出作戦。
これを行うのはハインリッヒ家の人間だけではない。
「……サラ、ミサキ嬢の訓練の様子は」
「行きと帰りは問題なし。やっぱり天才ね、あの子は」
「そうか。だが……辛い事をさせるな、彼女にも」
「……そう、ね。終わったらいっぱいの報酬と、そこそこの休日をあげましょう」
「だな。そうするしか、俺達にはできない」
役者はそろった。
あとは、時を待つだけだ。
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