チェック

 ロール・アンブローズの拉致。

 これが今回、トウマとティファがアイゼン公国軍に与する理由だと判明してから、サラは一人で考えた。

 2人を助けるためには、ロールの身柄をどうにかする必要がある。

 そして恐らく、ティファも戦場においては人質として船に軟禁、ないしは監禁されているだろう。

 ならば、やれることはたった一つだった。

 

「戦争が始まったら、あたしが一人でトウマと目立つように戦うわ」


 そう、相手の最大戦力であるトウマの封殺。それがサラにできる唯一の事であった。

 サラは自身の腕がトウマに大分近づいている事は理解している。レイトからも戦闘の記録を見てもらい、サラとトウマの腕はほぼイーブン。実戦経験が足りないが故に1割の勝率を落としているが、腕だけを見ればサラとトウマは横並びになっている事を教えてもらった。

 だからこそ、だった。

 戦場でトウマを相手に、目立ちながら戦って注目を集める。それこそがサラの立てた作戦の一つだった。

 

「……本当に可能かは聞かない。だが、そうしたところでどうなる? そのままトウマ君を落とせなければ、いたちごっこが繰り返されるだけだぞ」


 それを行えば間違いなくトウマによる戦力への被害は抑えられるだろう。

 しかし、それだけだ。

 トウマを落とせなければ被害は出続ける。こちらが後手後手に対応しなければならない状況が続けば、それだけ犠牲になる兵士が増える。

 それはサラとて理解している。だが、あの最大戦力をどうにかするには、後手に回るしかない。

 

「分かってる。そもそもトウマがあっち側に首輪を嵌められている以上、多少のいたちごっこと犠牲はやむを得ないわ」


 無傷でトウマを止めることなど至難の業。夢のまた夢だ。

 故に、多少血を流してでも、あの最大戦力を取り戻す。それがサラの立てた作戦。

 

「あたしが何とかしてトウマを相手に優位に立つわ。殺す気で行く。そうしたら、相手だってこっちに対して接触してくるはずよ」

「接触? ……そうか、アンブローズ氏の身柄か」

「えぇ。あたしもロールとは顔見知りだし、あっちが取れる手札はそれしかないわ。あっちからしてみればカモがネギ背負ってきたようなものだし、きっと少しでも不利になればそうするはず」


 だが、相手はそれでもロールに対しては何もできないはずだ。

 何故なら。

 

「あたしはロールの身柄を関係ないと一蹴する。でも、相手はロールに対して危害を加えられない。ロールは唯一トウマとティファの首輪になる存在だから。それで、ロールが居る船をこっちで逆探知するわ」


 トウマからの通信でそれを忠告されたとしても。特定の周波数で通信を繋げてきたとしても。どちらでも構わない。そのためにこちら側の通信は完全にオープン、誰でも通信を繋げられるようにしている。

 ロールを人質に取っている人間と通信が繋がる事。これがサラの狙いだった。

 故に。

 

「とっとと動きなさいよ、卑怯者ども……!」


 トウマを相手に苛烈なまでに攻め立てながら、サラは通信で聞こえない程度に呟く。

 目の前にはサラに対して強気に攻めようとして、しかしその攻めを根元から切り崩され逃げるしかできないトウマが居る。

 このペースでトウマを相手にすれば、大丈夫だ。

 そのために。

 彼を助けるために。

 

「こちとら何人の兵士を見殺しにしたと思ってんのよ……!!」


 ――サラは、この戦場にトウマが投入されると読んでいた。

 その上で現在の戦域から少し離れた所でエンジンを切って息を潜め。

 そして、トウマがある程度消耗したのを見てから不意打ちを行った。

 トウマに落とされたのは、確か38機。誤射による撃墜も含めれば、43機。

 それだけの数を犠牲にして。それだけの関係のない人間を犠牲にしてここまで来た。ここまで優位に立った。

 知られれば罪だと罵られる行為を行ってでも。それでもサラは仲間を助けたかった。

 自分のつまらない人生に彩りを与えてくれた2人を助けたかった。

 だから。

 

「今更、引けるかあああああああ!!」


 両腕、両足。コクピットすら狙ってエネルギーライフルを撃つ。

 それをトウマは何とか避けるが、避けるだけで精いっぱい。

 チェックは既に取っている。後は、チェックメイト。完全な詰みな状態となるまで、この戦いは止まらない。

 早く。早く。

 急かす様にサラ自身の攻撃も苛烈さを増していく。

 宙域を漂っているエネルギーマシンガンを勝手に拝借して弾幕を張り、トウマをアイゼン公国軍とティウス王国軍の弾幕の中を飛ぶように仕向け。

 推進剤だってもう残りわずかとなるように、無理矢理スタンドマニューバを何度も吐かせて。

 もう、数手。数手あれば、トウマは詰む。

 だから、あと少し。あと少しだけ。

 

『クソッ、セパレートへの推進剤供給カット、同時に推進剤逆供給……』

「貰ったぁ!!」


 トウマの言葉なんて最早聞いていない。

 ただ、一瞬。一瞬だけユニバースイグナイターのスラスターから火が消えた。

 その一瞬を見切ってフェンサーを飛ばす。

 それにより退路を断ち、最後の詰めを己のビームセイバーで行う。

 

『くっ、サラ……!!』

「落ちろぉ!!」


 あと数秒。

 あと数秒もあればユニバースイグナイターは落ちる。

 4割の勝ちを、サラは掴む。

 だけど、求めているのはそれじゃない。だから、早く。早く――

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