最悪の展開
『え!? 無理!! くっ、こいつらさっきから減らないのよ! 寧ろ増えてる!』
「…………了解。サラ、何かあったらあんただけでも逃げて。その時はこっそり信号を送るから」
『え? あ、は? ちょっ、ティファ!?』
こういう嫌な予感は最近当たりがちだ。特に、トウマが来てからは。
サラからの通信を切り、着信拒否状態。つまり、ギャラクシーイグナイターとの連絡網をこちらから完全に断つ。緊急時の信号こそ送れるが、それ以外の通信は完全に断絶している状態だ。
宙域図からもギャラクシーイグナイターの表示が消える。あちらからは探知できるだろうが、こちらからはこの状態を解除しない限り無理だ。
その間にギャラクシーイグナイターのOSが落とされればギャラクシーイグナイターの再補足はかなり困難だ。それこそ、ギャラクシーイグナイターが自らの意志で戻らない限りは。
ティファがそうやって細工した直後だった。アイゼン公国軍の船からネメシスが発進し、援護を始めた。
ただの火事場泥棒か?
ティファは訝しみながらもアイゼン公国軍の船に通信を繋げる。
「こちら傭兵、ティファニア・ローレンス。そっちの軍から仕事を受けてここの害虫の掃討をしているわ。そっちの用件は?」
『こちらはアイゼン公国宙域戦闘軍、グラーフ少佐だ。君から見て右手の船、シュタイクの艦長をしている』
「艦長が自ら……? それで、用件は?」
『君たちの援護だ。相当数の害虫が居ると報告が来たのでな』
「…………それも目的のようね」
確かにアイゼン公国軍のネメシスはトウマの援護をしている。
軍特有の、並んで盾を構えて弾を撃つ。遊撃のトウマとは違う、歩兵の延長線上にあるような戦い方だ。その戦い方でも武器がしっかりとしているのなら害虫相手でもどうにかなる。
現に害虫はしっかりと落とせている。トウマはその弾幕の中を何とか飛び回ってヘイトを稼いでいるが。
「悪いけど、金ならしっかりと満額貰うわよ?」
『それは当然だ』
「…………解せないわね。本当にただこちらの援護? 善意で? それも船を二隻も出して」
『…………それは』
「まぁ、いいわ。それならこっちも仕事を終わらせてとっとと引き上げる」
もしかして本当に杞憂だったのか?
自分の勘も鈍ったもんだと思いながらも戦闘の成り行きを見守る。
そして、トウマとアイゼン公国軍はいよいよ害虫を全て駆除して見せた。
これなら後は帰るだけだ、と。トウマも武器を下ろして船に帰還しようとした。
『……おいおい、これは何の冗談だ?』
直後。
アイゼン公国軍のネメシス達の銃口はトウマを向いていた。
『おっと、動くなよ? そこのネメシスのパイロット。動かなければこちらからは撃たせん』
その通信はもう一隻の船から聞こえてきた。
恐らく、そちらの艦長か、一番階級が上のお偉いさん。グラーフ少佐は完全に沈黙している。
『おいおい。俺がこの程度でビビると思ってんのか? この場で全員ぶっ殺されたくなけりゃその銃を下ろせ。冗談で済むのは今の内だぞ』
『まぁ落ち着け。少しだけこちらの話を聞くのだな』
通信が映像通信に切り替わる。
声の主はやはり軍人だった。階級章の見方は分からないが、明らかにアレはお偉いさんの階級章だ。
『私はアブファル大佐だ。この場では一番偉い人間という事になるな』
『へぇ、大佐さん。その大佐さんが善良な傭兵を相手に何の用だ? 返答によっちゃここは地獄になるぜ?』
トウマの言葉に嘘偽りはない。
たとえ囲まれているこの現状でも彼の腕ならどうにかなる。戦闘が始まった瞬間、アブファルは10分程度であの世行きだろう。トウマに敵対している時点で彼は選択肢を誤った。
だと言うのに、彼は余裕の表情だ。
ここで囲んでしまえばトウマは動けないと思い込んでいるのか、それとも。
『いや何。私は君たちに次の仕事を斡旋しに来たのだよ。その話を聞く前に逃げられちゃたまったものじゃないと思ってね。私は回りくどい事は好きじゃないんだ』
『へぇ、仕事。言ってみろよ。面白い事言ったら即座にあの世行きだ』
既にトウマもこの世界に馴染んでいる。故に、敵対者に対する容赦は無い。
見知らぬ人間が敵対してきたのなら殺す。それが傭兵として生きる術だから。
『その前に、こちらを見てもらおうか』
だが、それは敵対している人間だけがそこに居る場合だ。
アブファルは態々通信を映像通信に切り替えた理由をそこに見せつけた。
彼の立っているブリッジ。その端だった。
そこには一人の女が居た。軍人とは思えない、線の細い民間人。その女が、横にいる軍人から銃口を頭に突き付けられている。
その女の顔に、2人は見覚えがあった。
知り合い、だった。
「ろ、ロール……!!?」
****
あとがきになります。
今回は質問が来てたので。
Q:この世界の地球人類どうなってんの?
A:とっくに宇宙進出して他の星の人類と混ざってます。
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