害虫駆除開始

 ハイパードライブアンカーを使って、遠く離れた場所から船について行けば、一々敵に囲まれている状況で出撃する事も無いのだが、流石にハイパードライブと言っても移動には時間がかかる。

 パイロットたちを何時間もコクピットの中に閉じ込めておく方がマズいので、ティファ達は多少危険でもこの手法を取っている。

 というか、そもそも過去の時のようにハイパードライブ直後に囲まれる、なんていう事は掃討不運でもない限りあり得ない為、最近はその可能性は捨てている、と言った方が正しいか。もしも敵が確定でそこに居るのなら、ちょっと手前の宙域で止まってからトウマ達を出撃させ、ハイパードライブを再度起動して突っ込んでいる。

 そんなわけでちょっと面倒な手順を踏んでからのハイパードライブは数分もかからずに終了する。

 しかし。

 

「いないわねぇ……トウマ、そっちも同じ?」

『だな。次のポイントに行った方が良さそうだ』

「そうね。んじゃ、次行くわよ。ハイパードライブアンカーの設定はそのままで」

『了解。設定継続完了……っと。いつでも行ける』

「ん。じゃ、また飛ぶわよ」


 そして再びのハイパードライブ。

 小規模のハイパードライブを繰り返し、害虫が居そうなポイントを何度も何度も移動する。

 サラの方も宙域図を見る限りはハイパードライブを繰り返しており、一か所に数分留まってはハイパードライブを繰り返している。

 そうしてハイパードライブを繰り返すこと5度。


「ここもハズレ…………ん?」


 最大望遠のカメラを回しながら、害虫が居ないことを確認し終える直前だった。

 カメラが一瞬、異物を捉えた。

 それを精一杯拡大して確認するが、よく分からない。だが、有機生命体用のレーダーを用いてそこを確認してみると、生命体の反応がうじゃうじゃと確認できた。

 

「ビンゴね……トウマ、10時の方向、カメラギリギリの場所に奴らを発見したわ」

『10時の方向…………ん? あれ、か? よく見えねぇな……』

「でも、レーダーだとうじゃうじゃナニかが居るのよ」

『なら確定だな。んじゃ、行ってくる』

「気を付けてね」

『とーぜん。ユニバースイグナイターには傷一つ付けねぇよ』


 心配したのは機体だけじゃないんだけど、と言う間もなく、トウマはイグナイターを変形させたまま害虫の方へと突っ込んでいった。

 イグナイターの速度ならすぐに奴らの居る場所までたどり着ける。

 現に、イグナイターが移動してから1分ちょっと経った頃には奥の方でエネルギーライフル特有の光が見えた。

 それを確認してから、ティファも船を急いで飛ばし、サラに連絡をする。

 

「サラ、聞こえる? こっちに害虫が居たわ。合流できる?」

『え? そっちにも? こっちでも害虫を見つけて、えぇ!? あっぶな!!? くっそ、ごめん、先手取られた!! そっちに行くのは遅れると思う!!』

「そっちでも……援軍は居る? トウマの方が余裕そうならわたしが行くけど」

『大丈夫! 落とされる事は無いから! ただ、数は多いからそっちに帰るのはちょっと時間かかりそう!』

「分かったわ。何かあったら連絡して。すぐにトウマと一緒に向かうから」

『了解! ってうわキモッ!! こっち来んな!!』


 どうやらサラの方も苦戦はしそうだが、落とされる事はないだろう。サラが必死な時はキモイとか言っている場合じゃなくなるし。

 それに、イグナイターならいざという時にイグナイトシステムを使えば針の直撃をコクピットにでもくらわない限りどうとでもなる。この機体は対害虫もある程度は想定しているのだから。

 そして船はえっちらおっちらと移動して、トウマの元へ。

 トウマは相変わらず、害虫との戦いがこちらに漂流してきてから初めてやった事なのかと疑問に思う程度には戦い方を効率化し、次々と害虫を撃ち抜いていた。

 トウマにはサラのような異常な速度の成長も、レイトのような一撃必中の狙撃の腕も無い。

 だが、一番安定した戦い方ができるのは間違いなくトウマだ。オールマイティーとでも言うべきか。様々な戦場で、どんな相手であろうと己の今までの経験を糧に十全に戦える。それがトウマの強みだ。

 

『グラハムスペシャルッ! っ、か、らの!! オラ落ちやがれ!!』


 グラハムって誰よ、というツッコミは入れない。

 彼がスタンドマニューバと表向きには名付けたテクニックをそう呼んで練習していた頃にもういっぱいツッコミを入れたから。本当に誰なんだろう、グラハムって。

 阿修羅すら凌駕した存在だとか彼は言うのだが、そのテクニックの練習でテンションを上げているのだからティファはもう何も言わないことにした。言うだけ無駄だ。

 ティファ特製のコクピットでもかなりのGを感じる動きをしながら害虫を叩き落としていく。

 才能の暴力2人に対して、確かな努力と経験で堅実な戦いをする。それがトウマの強みだ。他の2人の天才と比べても秀でていると言える、彼の才能。

 決して飛び方は美しくない。泥臭い。だが、代わりに力強い。それがトウマの戦い方。


「さて、そろそろ終わりそうね…………ん?」


 害虫の数も減ってきた。そろそろトウマも敵を片付け終わるだろう。

 そんな時だった。ティファの船の後ろに二隻の船がハイパードライブしてきた。

 その船は民間船ではない。一目でわかる。

 それに、船にペイントされているのはアイゼン公国の国旗。

 

「アイゼン公国軍……? 火事場泥棒しようっての?」


 だが、どこか嫌な予感がする。

 ティファはサラにもう一度通信を繋げた。

 

「サラ、こっち来れる? 急ぎで」


 果たしてサラはこちらに来れるか。こちらで掴んでいる状況を見る限りなら来れそうではあるが。

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