ロート・ガイスト

「で、これで品切れ? 品切れならもう帰るけど?」

『…………ならば、あのネメシスを出しなさい!! ここまでゴールディング家の顔に泥を塗られた以上、アレを落とさねばなりませんわ!!』


 うーわ、なんか物騒な雰囲気。

 思わずサラの頬が軽く引きつるが、そんなのお構いなしにゴールディング家の船は一機のネメシスを射出する。

 そのネメシスは見たことがないネメシスだ。

 だが、あのネメシスは。

 あれは。


『2年以上前、突如として隣の国で猛威を奮った賊の事をご存知?』

「っ……あの色、装備…………」


 ──AIはどのようにして作られるか。

 それは、学習による下地の積み重ねだ。

 ゴールディング家が主導で行ったネメシスのパイロットに変わる操縦AIの開発は、正にそれで行われていた。

 様々な国のパイロットの動きを様々な角度で録画し、それを使って学習を重ねる。

 そうして出来上がったAIに更に学習を施す。

 何重にも学習を繰り返す。そうやってAIは進化していく。

 つまり、極論ではあるが、データさえあればトウマやサラの動きを真似たAIすら作ることができるのだ。

 そう。データさえあれば。

 例え、故人だろうと悪人であれど。


『あの動きは今のネメシスの戦い方とは一線を画していましたわ。単騎による戦場の蹂躙。今までの戦術が全く意味を成さない暴力。しかし、それこそが我がゴールディング家の目指す場所ですわ』

「こいつっ……!! まさか!!」


 あの出撃した、赤で塗装されたネメシスは。

 ブレイクイーグルを基にしつつ、胸部にマイクロミサイルの発射口を取り付け。

 両腕にガトリングを持ったあのネメシスは。


『我がゴールディング家ではあのネメシスの動きを研究し、そして遂にAIとして落とし込むことに成功いたしましたわ。その名を、『ロート・ガイスト』。正しくこの世で最強のパイロットですわ』

「マリガン……! 化けて出やがったわね!!」


 その姿は正しくマッドネスパーティ。

 あの時、サラをいとも容易く撃墜したネメシスオンラインのプレイヤー、マリガンが時を超え、AIとしてサラの前に立ち塞がった。

 AIマリガン、ロート・ガイストは正にネメシスオンラインの基礎だと言わんばかりに一切足を止めず、ガトリングの銃口をギャラクシーイグナイターに向けて放ってくる。

 それをサラは盾で防ぐものの、盾から伝わる衝撃に違和感を持ち、即座に変形して離脱し、ティファに呼びかける。


「ティファ!! あれ、本当にペイント弾!? 衝撃が明らかに違ったわ!!」

『実弾よ!! こっちから見てもすぐ分かった!! あの女、とうとう実弾まで持ち込んできやがったわよ!!』

『あら。実弾を先に持ち出したのはそちらではなくって? こちらはただの正当防衛ですわよ』

『このっ……!! サラ!! 許可を出しなさい!! わたしが直々に引導を渡すわ!! ここまでされちゃあ決闘どころじゃすまない、殺し合いよ!!』


 やはり実弾か。

 ギャラクシーイグナイターを追い回しながらガトリングを放つロート・ガイストの動きは確かに2年以上前に戦い、負けた、あのマリガンの動きにそっくりだ。

 ──だが、マリガンだ。

 サラは視界の端に映るシヴァカノンの認証用ホロウィンドウを押し退け、気持ちを切り替える。


「──悪いわね、ティファ。このままあたしにやらせて」

『サラ…………でも、相手はマリガンの亡霊なのよ……?』

「だからこそ、よ」


 そう。

 マリガンはかつてサラが負け、トウマが勝った相手。

 まだサラは、マリガンを相手に勝ったことはない。負けっぱなしなのだ。


「あの現実をゲームと思い込んだ腐れゲーマーに、今度はあたしが引導を渡す!!」

『…………』

「だからティファ。万が一のためにの準備だけはしておいて」

『……わかった。でも、極力あの子は出さないようにしなさい。そんなにすぐには出せないんだから』

「わかってる」


 ティファの不服そうな声を聞きつつも、サラは息を大きく吸って吐く。

 相手はかつて負けた宿敵。

 現実をゲームとしか見ていなかった腐れゲーマーの亡霊だ。


「まさかあたし直々にリベンジする機会が来るなんてね」


 既にマイクロミサイルは弾切れ。レールキャノンだって、あと1、2回しか使えない。

 だが、構わない。

 ライフルとセイバー。武器はあの時と同じだ。


「力を貸して、イグナイター。あたしが一歩成長するために!!」


 白色の流星が宇宙を舞う。

 まるで、あの時と同じよう。

 だが、もう落ちやしない。

 赤き凶星を、今日こそは叩き落とす。


「臨戦機能開放!!」


 白色の流星が青き光を纏う。

 あの時の凶星では知ることのできない、新たなる力を。


「イグナイトシステム、アクティブ!!」


 イグナイターの力の象徴、イグナイトシステムが発動する。

 青色の光を纏い、ギャラクシーイグナイターが一気に加速。一度大きく迂回した後、ガトリングの弾幕に向かって突っ込む。

 通常なら蜂の巣になる愚かな突貫だ。

 だが、イグナイトシステムを発動中なら話は変わる。

 身に纏う光は伊達ではない。その光はガトリングの弾を弾き飛ばし、強く光り輝く。


『なっ、なんなんですのあの光は!!?』

「ウチのメカニックの意地の光よ!! 人を見下す事が常になったお貴族様には真似出来ない、天才が叩き上げた最強の一角!!」


 もしもあのガトリングが、エネルギーマシンガンだったら話は違った。

 あのガトリングが、もしもエネルギー弾を放ってくるのならこんな事はできなかった。

 だが、実弾を撃ってくるだけのガトリングなら、最早敵ではない。


「あの時のマリガンがゴールの時点で、こちとら負ける気がしないのよ!!」


 そう。マリガンは確かに強かったが、それだけだ。

 マリガンはネメシスオンライン的には上位プレイヤーではあったが、ランカーではない。

 最早その腕はランカー並みの力を身に付けたサラに劣っている。


「敗北は勝利の美酒で上書きさせてもらうわ!!」



****



 あとがきになります。

 今回の話で実は200話目となります。200日連続で投稿できるとは、我ながら驚きです。

 実は今作もそろそろ完結を目指して書き続けてます。

 今回の話が終わったら、ガッツリとデカい話を1本。最後に完結に向けた話を1本で完結の予定です。

 完結後は1本番外編を書けるかなー、と言ったところ。

 なんとか毎日投稿は頑張るので、最後までお付き合いいただけると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る