因縁と過去、譲れない物

「何してんの?」

「ん? いや、なんか入りにくかったからパンだけ取って来てここであんた待ってた」

「そんなに入りづらかった?」

「うん。サラが、っていうよりも横のお嬢様が。使用人もすっごい感じ悪かった。近付こうとしたら睨まれたし」

「それが貴族よ。貴族足らんとする、民の前に自分達があるべきと考えている、ね」

「ふーん……やっぱわたし、これからも他の貴族の依頼は受けないよーにする」

「それが正解よ。さっ、港行きましょ。決闘よ」

「はいはい」


 パンをそのまま飲み込んだティファと共にホテルを出ると、ハインリッヒ家の使用人が既に待っていた。

 なので、行き先を伝えて港へと向かうと、後ろをセルマが乗ってるらしいヤケに豪華な車が追ってきた。


「わー、豪華ぁ」

「感想がガキ」


 ティファの語彙が死んでいるのは起き抜けなので仕方なし。

 そんな語彙が死んでいるティファと共に港につけばそのまま船に乗り込み、発艦。

 その後を追ってヤケに豪華な装飾が付いた大型船が追ってきた。


「わー、豪華ぁ」

「テイク2。まぁ、子爵家の中でも上の方の船は基本あんなもんよ」

「そーなんだ」


 ちなみにハインリッヒ家も子爵家の中でも上の方ではあったが、ハインリッヒ家の全員がそういうのは嫌いだったため、大型船に華美な装飾は付けなかった。

 コロニーから離れて暫くすると、船に通信が来る。間違いなく後ろの船からだ。

 サラが嫌々それに出ると、あのお嬢様の顔面がドアップ。


『ようやく出ましたわね』

「出てやったわよ。んで、どうやって決闘するわけ?」

『そちらは実戦仕様で良くってよ。こちらは決闘仕様で出しますわ』

「ふーん。じゃ、被弾時の挙動だけは決闘仕様にしておくわ。ご自慢のAI搭載ネメシスが爆散しても泣くんじゃないわよ」


 一見してみれば不公平だが、決闘仕様と実戦仕様の違いは、所詮は武装の火力の違いとペイント弾やセイバーが当たった箇所の稼働停止機能くらいだ。

 それ以外は実戦仕様と大差ない。

 故に、サラはいつも通りの気分で操縦室を出ていった。

 残されるのは通信が繋がったまま、相手と気まずそうに視線を合わせるティファだけ。

 通信切って行けやあのロリ貴族もどき。


『…………ところであなたは? サラ・ハインリッヒの侍女ですの?』

「うげっ…………いや、メカニックよ。傭兵仲間の」

『傭兵でしたか。通りで品のない雰囲気をしてますわね』

「…………あんた嫌い。サラに泣かされたらいいわ」

『無礼な物言いですわね』

「先に無礼な事言ったのはそっちでしょうが」

『何を……!』

「あーもううっさいアンタと喋りたくないマイクもスピーカーもミュート。決闘始まったらまた繋げてやるわ」


 あちらが何か喚き立てようとしてきたが、マイクもスピーカーも言った通りにミュートにする。

 こんなのばかりなのだとしたら、確かにサラが貴族という立場から離れたくなるのも分かる。

 もう『封印解除』までやって本気を見せてやろうか、なんて思ってしまったが、流石にそれは大人気ない。

 一先ずはサラがギャラクシーイグナイターに搭乗するのを待つ。


『よし、接続オーケー。ティファ、こっちは準備できたわよ……ってすっごい不機嫌そうな顔。何かあった?』

「相手のお嬢様と話した」

『あぁ……あーいう手合いとはマトモに会話しちゃ駄目よ。価値観どころか倫理観も違うから』

「肝に銘じとく。それはともかく、サラ。全力で叩きのめしなさい」

『面倒なんだけど……まぁ、わかった。やったるわ』


 ティファの言葉を聞いて苦笑するサラ。

 彼女がキレる事は珍しくはないが、ここまで目に見えて不機嫌なのは珍しい。


「さて、ティファ。カタパルトのコントロール頂戴。出撃するわ」

『りょーかい。ついでにマイクとスピーカーのミュート解除っと』

『──ますの!? 第一、ただの平民がゴールディング家の一員であるこの私と』

「サラ・ハインリッヒ、いっきまーすっ!!」

『うるさっ!?』


 なんかティファが通信を再び繋げた瞬間、とんでもない怒声が聞こえてきたので大声で叫んでから出撃した。

 今回はサラ・カサヴェデスとしてではなく、サラ・ハインリッヒとしての出撃だ。


『くっ、サラ・ハインリッヒ……! どこまで私を侮辱すれば!』

「知らないわよ。通信繋げて喚いてたそっちの落ち度でしょ。ほら、とっととそっちのネメシスを出しなさい」

『いいでしょう。行きなさい、ブレイクイーグル!』


 ギャラクシーイグナイターが宇宙を舞ってから暫く、セルマの船のハッチが開き、そこからブレイクイーグルが飛んでくる。

 あの機体のコクピットは普通のコクピットではなく、AIの演算用のCPUやら何やらが詰め込まれている。

 発展しきるにはあと数世紀は必要だと見立てが立てられている代物だ。


『あら、そちらのネメシスはヤケに小さいんですのね。所詮は傭兵のネメシス、装飾も何もかもがこぢんまりとして品が無いこと』


 こいつそろそろ黙らないとシヴァカノンが飛ぶぞ。

 そんな事をサラは思ったのだが、言ったりはしない。だって今も視界の端にはシヴァカノンの発射申請のホロウィンドウが映っているのだから。

 ここで面白半分に許可したらあの天災メカニックは間違いなくやりかねない。

 だから申請を連打するんじゃない。コクピットがホロウィンドウで埋め尽くされる。


「……まぁ、正直そんなもんは弱者の遠吠えよ」


 ホロウィンドウを全部投げ捨ててから改めて操縦桿を握る。


「トウマ……ウチの馬鹿が言うには、小型化は発展の証。大型化を止め小型化することこそが最強に至る道だってね!」

『サラ、あのブリキをブッ壊しなさい!!』

「了解!!」

『あんな小さい木偶人形、打ち壊しなさい、ブレイクイーグル!』


 ギャラクシーイグナイターのブースターに火が入り、ブレイクイーグルへと突っ込んでいく。

 それが開戦の合図だった。

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