貴族としての振る舞い
翌日。サラはホテルのベッドで目を覚ました。
「ふぁ…………朝か……よく寝た……」
昨日はそこそこ歩いたので疲れたためかよく眠れた。
横を見れば、サラに抱きついたまま、まだ夢の中の住人をやっているティファが。
いつもの事だが、こうして2人で同じベッドで寝ると、ティファは結構な確率でサラに抱きついてくる。
トウマは知る由もないが、リゾートコロニーで一緒のベッドで寝た際は軽くビックリしたものだ。
そのため、こういう日の朝は抱きついているティファの手を外す所から始まる。
「んー…………よし、着替えよ……」
ノビをしたらある程度目が覚めるので、そのまま着替え。着替えは昨日の内に使用人を使って元別荘から持ってきたのでしっかりとした物がある。
ティファにも自分のお古を着せることにはなるが……まぁ、体型が似たり寄ったりなので、極端にサイズが合わない事はないだろう。
顔を洗って最低限の化粧をしつつ、髪を整えてから服を脱いで持ってきてもらった服を着る。
数年前の服がほぼ問題無く着れることにちょっと悲しさを覚えつつ、貴族してた時の中では一番質素な服に身を包んでもう一度ティファの方を見る。
「まだ寝てるわね」
昨日は特別夜更しした記憶は無いが、今日のティファはガッツリ熟睡する日らしい。
ティファの端末を借りてホロウィンドウを表示し、そこに1階で朝食を食べてくる、とだけ書き残してから部屋を出る。
すると、丁度タイミングを見計らったかのように端末に通知が。
「…………ふーん?」
そこに表示された内容を見て、声を漏らしてから1階に降り、朝食を摂る。
朝食はホテルにありがちなバイキング形式。適当に自分で好きなだけ食べたい物を取るタイプだ。
起き抜けの自分でも食べれる程度の量を皿に盛り付け、適当な席へ。
そして、水を一口飲んで食事に手を付けようとした時だった。
「失礼、相席よろしくって?」
第三者の声が聞こえてきた。
よろしくって? と言っておきながら、目の前には既に相手が座っている。
朝食は、取って来ていない。
当然だ。相手はこのホテルに滞在していないのだから。
「……まぁ、構わないわ。セルマ・ゴールディングさん?」
目の前に座った女。
彼女の名前はセルマ・ゴールディング。
サラに因縁を付けた貴族の子女だ。
「あら、私の事を覚えてくださってたのね? 光栄ですわ、サラ・ハインリッヒ伯爵令嬢さん?」
「あたしがそういうの嫌いって分かって言ってる?」
「えぇ、存じておりますわ」
「へーへー。あんたはそういう貴族的な性格だったわね、そういや」
「…………相も変わらず、他人を馬鹿にした態度を取っているのですね?」
「馬鹿にしてないわよ。どうでもいいことはどうでもいい。ただそんだけ」
言いながら、とっとと朝食を口の中に押し込む。
そこそこ値が張るホテルの朝食だからか、味はそこそこいい。
その味を楽しみながらチラッとセルマの方を見ると、彼女はかなーり嫌そうな顔をしている。その後ろには無表情の使用人。
そんなに嫌なら絡んでこなきゃいいのに。
「所で、このホテルは貴族が来たというのに何もしてくださらないんですの?」
「そういうのがお望みならそういう店に行きなさい。ここは庶民向けよ」
「庶民向けであれど、貴族が来たのであればそれを光栄に思い、最大限の尽力をするのが通りではなくって?」
「そうされたいなら名乗ってきなさい、そこの従業員に」
「…………やはりあなたと私は相容れませんわね」
「トーゼン。ウチとあんたの家じゃそもそもの考えが違うわ」
「あなたの方が貴族として異端。故にその振る舞いは正さねばならないと何故分かりませんの?」
「異端で結構。あたしのやり方はあたしが決めるわ。例え異端でもね」
サラの涼しい顔での反論にセルマの顔色はみるみる内に面白くない物を見る物に変化していく。
そりゃ面白くないだろう。貴族としての立ち振る舞いが嫌になった人間の言動は。その立ち振る舞いを常にして当たり前としてきた人間にとっては。
「で、何のよう?」
「相変わらず忌々しいですわね……当然、あの時の借りを返しに来たまでですわ」
「あの時……? あぁ、学生時代の決闘? 馬鹿らしい。あんなのはあそこで決着が着いたでしょうに」
「私にとってあの屈辱は未だ続いていることですわ。特に、我がゴールディング家の誇るAIパイロットが、一般の出のパイロットに負けたなど」
「一般の出って……パイロットなんて基本そんなもんでしょ。ってか今だから言わせてもらうけど、あんたの所のAIはお粗末なのよ。ゲームのAIよりは断然性能がいいでしょうけど、そもそもの機体の動きが雑。そりゃ当時のランドマンでも倒せるわよ」
「…………パイロットでもないあなたに何がわかりますの?」
「今はパイロットよ。貴族としての籍は残してるけど、傭兵やってる」
そう告げると、セルマは一回硬直した。
直後、高笑い。正直耳がキンキンして非常にうるさい。
だが、もう慣れたもの。こういうのって貴族的な場所だとそこそこ聞くことあるし。
なので、今の内に朝食を口の中に詰め込んで飲み込む。傭兵になってすぐの頃に身に付けた早食い芸だ。
「おっと、失礼?」
「別に。何かおかしいことあった?」
「いえいえ。とうとう貴族としての誇りも捨てて野蛮な傭兵などに身をやつしたのかと。それほどまでハインリッヒ伯爵家は困窮しておりますのね?」
「…………別にあたしの事は笑うなり何なりすればいいわ。けど、あたしの家族まで侮辱しようったぁいい度胸ね? こう見えても家族に対するアレコレは持ち合わせてんのよ」
「おやおや。そんな人間らしい事も言えましたのね?」
「えぇ、言えるわよ。そんでもって、傭兵らしい荒事だって数こなしてきてんのよ、こちとら」
本当に、貴族ってやつは肌に合わない。
口を開ければ品性やら家の格やら敵対者への悪口やら。
本当に気に入らない。
まだ貴族をやれている兄やカタリナの事を尊敬する程度には気に入らない。
「で、なんだっけ? 決闘? いいわよ、受けて立とうじゃないの。丁度今腹いせがしたくなった気分」
「あら、急にどうしましたの? 先程まであまり乗り気ではありませんでしたのに」
「腹いせ。とっとと港行くわよ」
「それは構いませんが、ランドマンとやらを呼ばなくてもいいんですの?」
「あぁ、あたし、ランドマンよりも強いから。ハインリッヒ家の中じゃナンバー2よ」
「…………馬鹿にしてますの?」
「至極本気よ。ちなみに、ナンバー1は数年前に来たウチの使用人。ぶっちぎりの強さね」
騒ぐセルマを尻目に、サラは立ち上がってそのまま食事場を出る。
すると、食事場を出てすぐの所でティファが立ったままパンを齧っているのを見つけた。どうやらサラが食事に向かってからすぐ起きたらしい。
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