姉と義兄

「あっ、いらっさーい。どしたの急に?」

「兄様から様子見てこいって。はいこれ、ココノエのお土産。ルーク義兄さんの分もあるから」

「ありがとー。あの人、外出ないくせにこういうの好きだからさ、嬉しいと思うよ」


 お土産は使用人が抱えているので、サーニャがそのまま適当な所に置いておいて、と言うと使用人達はそれに頷いてお土産を置きに行った。

 そのまま、いつまでも玄関で話すわけにも行かないので客間へ向かおうとすると、途中でサーニャが好きそうなイケメンが欠伸をしながら顔を出した。


「ふわぁぁぁ……おっ、サラちゃん。来てたのか」


 イケメンの名はルーク。

 顔は整っているがニート根性全開の男である。


「結婚式以来ですね、ルーク義兄さん。寝てたんですか?」

「いや、今寝ようとしたとこ」

「えぇ……?」

「で、そっちの子は…………えっと、ごめん、誰だっけ? 貴族の子?」

「あ、いえ。ティファニア・ローレンス、ハインリッヒ家に雇われてたメカニックです。サラと一緒に顔見せただけなので、覚えてなくても仕方ないと思いますが」

「…………あー、はいはい! いたいた、思い出したよ。サラちゃんの横に子供がいるなーって思ってた記憶あるよ」

「こ、子供……」

「ルーク義兄さん……ティファ、あたしより歳上よ……姉さんの3つ下」

「えっ、マジ? あちゃー、ごめんね?」

「い、いえ。もう言われ慣れてるので……」


 結婚式の時は互いに外行き用のお面を被って話しただけだったので、良くも悪くも当時とは話した印象が違う。


「あれ? そういえば君達、男の子と一緒だったよね。その子は? 別れたの?」

「別れたって……別行動してるだけです」

「ふーん。で、どっちがあの子と付き合ってんの?」

「どっちも付き合ってないですから。早く客間行きますよ。いつまで廊下で話すんですか」

「それもそだね」


 という事で客間へ。

 客間は使用人が居るだけあって綺麗にされており、埃一つもない。


「よっと。で、えっと、何の用だっけ?」

「ココノエのお土産を渡しに来たのと、あとは様子を見に。夫婦仲とか大丈夫かなと思ったんですが……」

「まぁ、可もなく不可もなく?」

「互いに過干渉しないからね。気が楽だよ、ほんと」

「この枯れてる感じよ」


 我が姉ながら新婚のくせしてなんか枯れてるような気がする。

 なんとも言い難いが、それでも互いに変に干渉しまくるよりかはマシなのだろう。長続きする夫婦って大胆にイチャつくイメージはあまり無いし。


「それと、姉さん。兄様が心配してたわよ。あまりにも連絡が無いから何かあったんじゃって」

「えー? だって一々連絡するの面倒じゃない。あのシスコン、偶に連絡すると大抵話長引くし嫌なのよ」

「心配してるからでしょ……姉さんは特に干物なんだし、いつルーク義兄さんから捨てられてもおかしくないし」

「ん? いやいや、俺からサーニャを捨てるのはまず無いよ。美人で過干渉してこないし、干渉を求めてこないからね」


 時折イチャつきたい時があったら勝手に触って勝手にどっか行くので、互いに互いの事が重荷になっていないとのこと。

 なんか熟年夫婦みたい、とはティファの言葉。


「サラも恋人探したら? 案外こうやって過ごすのも悪くないと思うケド」

「あたしはいいのよ。貴族って言っても半分やめてるようなもんだし」

「それもそっか。そもそもサラの体じゃ恋人作ろうと思っても、ロリコンしか寄ってこないもんね。だからサラ、いい笑顔でこっち来ないでもらってもいい? 何する気? ねぇちょっと無言で寄ってこないで何なのねぇ怖い怖い!!」


 サラの言いたいことやりたい事はよーくわかるティファは何も言わなかった。

 ルークも流石に体型の事で義妹に何か言うのは一人の男としてどうかと思ったので、サーニャの事は見捨てた。


「え、えっと…………ろ、ローレンスちゃんだっけ? 今日は態々来てくれてありがとね」

「あ、いえ。ミーシャ様からお願いされてたのもありますし、ビアード家とはもう知らない仲じゃありませんから」

「そうなの?」

「はい。カタリナとはよく話しますし、ビアード家領の仕事も受けてましたから」

「…………あー、はいはい、そう言えばウチの兄さんが言ってたよ。腕のいい傭兵をハインリッヒ家の紹介で雇うことができたって。なるほど、ローレンスちゃん達の事だったのか」


 どうやらルークも多少は家の事を聞いてはいるらしい。

 ティファ達もビアード家の人間と直接的にやり取りする事は多くないが、ミーシャ経由で仕事を受ける事はそこそこあったため、もうビアード家とも知らない仲ではない。

 特に今代のビアード家の当主からは直接会って礼を言われた事もある。


「兄さん、よく言ってるよ。ハインリッヒ家との繋がりができたおかげで領地の治安も良くなったし、貴族的な立場もよくなったって」


 当初は干物とニートの結婚による繋がりだったが、気が付けばレイトとカタリナ、ビアード家の長女とハインリッヒ家の最終防衛ラインの婚約という繋がりも出てきたため、貴族的な視点ではビアード家とハインリッヒ家はズブズブ。

 そんなズブズブな関係先の力が付けば、ビアード家に手を付けようとする者も居なくなる。

 故に貴族的な立場もよくなる。


「しかし、カタリナも婚約者を見つけて、俺も結婚して…………カタリナも、かぁ………………」

「ま、まぁ、相手は金持ちでネメシスに乗りさえすれば最強ですから、ね?」

「それはそうだけど…………でも、あの可愛いカタリナを嫁にやるのはやっぱり心がまだ許せないというか……!!」


 忘れているかもしれないが、ビアード家はシスコンばかりである。

 箱入り娘ができた原因はルークにも勿論あるし、それはティファにも分かっている。

 つまりルークは結構なシスコン。

 ということで、この話題にはティファの方からはあまり燃料を投下しない。これがこの話題を避けるためのコツだ。


「そ、それじゃあわたし達も新婚さんの邪魔はしたくないし、そろそろ帰りましょうか。ね、サラ?」

「え? あー、うん、そうね」


 実の姉にチョークを仕掛け、タップされているのに一切ソレを緩めないサラにお暇を提案する。

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