干物宅訪問

 アミリアと別れたサラは船で待っていたティファと合流。

 そのままサーニャの待つコロニーへと向かった。


「にしても、悪いわねティファ。付き合ってもらっちゃって」

「いいわよ。わたしも暇だったし、偶にはこういうのも悪くないでしょ?」

「それもそうね。所でトウマは?」

「置いてきた。わたしはサーニャ様とちょくちょく話してたけど、トウマはあんまりだったでしょ? それに、サーニャ様の夫も急に男が訪ねてきたら変な勘ぐりするかもだし」

「ルーク義兄さんの事ね。いや、そんな事するようなのじゃないって聞いてたけど……まぁ、いいか」


 トウマがハインリッヒ家でよく話していたのはレイトやランドマンといった、貴族に仕える者達。

 対してティファは騎兵団のメカニックの他に、仕事の関係で貴族の面子ともよく話していた。

 あまり世話になった記憶はないが、そこそこ話したんだから、とティファはサラの用事に付き合った。トウマはまぁいいだろう、と置いてきた。

 そんな感じだ。

 ちなみにトウマは丁度この頃に勝ち抜きトーナメントに参加していたりする。


「まぁ、一人で移動すんのも寂しいし、ティファが居てくれるだけありがたいわ」

「でしょ? それに、イグナイターのハイパードライブで移動するったって、あんな狭いコクピットにずっと居たら気が滅入るしね」


 なお、トウマさんはそんな事はなく、普通に移動していた。

 確かに普通のネメシスのコクピットならそうなっていただろうが、2人でもゆったり広々使えるコクピットはトウマ的にはバス移動よりも快適だった。

 サラからしたら、まぁ窮屈で気が滅入るだろうが。


「しっかし、サーニャ様ったら羨ましいわよねぇ。イケメンで貴族の男なんて捕まえて」

「でもニートよ」

「そういやそうだった……前言撤回」


 ティファがサーニャの結婚相手であるルークの事を思い出して白ける。

 一応2人もサーニャの結婚式には出たのだが、相手であるルークは確かにイケメンであるのは目にした。

 だがゲーマーのニートだ。

 きっと学院に通っていた時代はさぞモテていただろう。

 だがニートだ。性根が腐っている。

 別にニートの一匹や二匹飼える適度の貯金は持っているが、流石にニートは飼いたくない。そんなの飼うくらいならまだトウマの方が万倍マシだ。


「ってかティファ。仮にイケメンで金持ちで性格がいい男が寄ってきてもあんた断るでしょ」

「うっ……まぁ、多分ね……」


 実際、今の所は今の生活がとても充実しているため、誰から求婚されても多分それを受ける事はないだろう。

 少しだけ、今の生き方を続けられるという前提ではあるが、トウマとなら、と考える。

 しかしすぐにティファは顔を振ってその考えを捨てた。

 流石にありえない。無いったら無い。


「ま、まぁ、わたし達の事はいいのよ。ほら、もう港に入れるわよ。準備して」

「それはいいけど……何一人で勝手に焦ってんの? 更年期はまだ先でしょ?」

「誰が更年期じゃ!! まだ20代だしアンタも1個下でしょうが!! イグナイターに遠隔自爆装置付けられたくなかったらとっとと準備!!」

「はいはーい」


 このメカニック、やると言ったら本当にやりそうで怖い。

 流石に洒落にならないので素直に従って準備に入る。

 とは言っても、格納庫に行ってお土産を両手に抱えるだけだが。

 両手にいっぱいお土産を抱えた所で船がどうやら港に入ったようで、そこそこの振動。ハッチの方へ向かえば、ティファが待っていた。


「うわ、やっぱ凄い量」

「そりゃね。ほら、ティファも持って」

「はいはい」


 ティファもお土産を持ち、互いに船から港へ。そして港を出る。

 港を出てすぐ、燕尾服を着た男性がこちらを見つけ、頭を下げてきた。


「お待ちしておりました、サラお嬢様」


 頭を下げてきた男は、ハインリッヒ家の使用人だった。それも、比較的長年勤めている使用人。

 彼を見て、週の何日かはサーニャの元へと向かってお世話をする使用人を選抜した、とミーシャが言っていたのを思い出した。


「あら、あんた。どうしてここに?」

「サーニャ様からサラ様の迎えに行くように、と」

「なるほどね。姉さんにしては気が利くじゃない。そんじゃ、お言葉に甘えるわ。ティファもいいわよね?」

「勿論ですとも」


 干物にしては気が利くな、とぶっちゃけながら、2人で用意されたリムジンに乗ろうとする。

 しかし、その前に男がササッとお土産を回収してトランクに詰めた。

 なんともまぁ無駄のない動きだ。これができる男か。


「それでは、お乗りください」

「さんきゅ」

「あ、ありがとうございます」


 ティファも流石に1年以上、貴族の客をしてたので流石にこういう扱いも慣れたもの。

 多少緊張はしてるものの、特にサラの手伝いなくリムジンに乗った。

 あとは男が運転席に座るので、自動運転でサーニャの元へ向かうだけ。


「しっかし、ティファもリムジンに慣れたわね。最初はガッチガチだったのに」

「そりゃ、何度も乗ってりゃね……」

「それもそっか。で、何飲む?」

「なにある?」

「色々」

「じゃあルートビア」

「はい」

「ホントにあるんだ…………いや、普通に飲めるし言った以上飲むけど……」


 どうして貴族のリムジンにルートビアが積まれてるんだろう、とか細かい事は考えない。

 リムジンに備え付けの小型冷蔵庫から飲み物を取り出して飲みながら移動すること十数分。2人は一軒家……という割にはかなり大きい。

 豪邸と指すのが正しい家にやってきた。


「うわでっか。サーニャ様、いいとこ住んでるわね」

「ここ、ウチの別荘だったのよ。それをちょっとリフォームして2人の監禁場にしたってわけ」

「監禁て」

「間違っちゃいないでしょ。2人が自分から監禁されてるってだけで」


 そりゃそうだけど、とティファはなんともいえない顔。

 家の中に入ると、サーニャが出迎えた。

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