貴族の生き方
一方その頃の話
サラ・ハインリッヒに友人と呼べる関係を持つ者は少ない。
そもそも貴族としての生活が性に合っていなかった彼女に貴族の友人ができるわけもなく、幼少期〜学生時代はぼっちだった。
勉強の成績はそこそこ良く、私生活でも問題は起こさない。しかし貴族的なコミュニケーション能力には問題あり。
それがサラ・ハインリッヒに対する貴族的な評価だった。
傭兵になってからは仲間ができたが、正直に言えば幼少期〜学生時代は黒歴史として封じたいくらいには性に合っていなかった。
「そうですか、サラ様が傭兵に……傭兵の方は粗雑で乱暴と聞きますが、大丈夫なのですか?」
「そこは問題ないわ。リアルファイトはしないようにしてるし、仲間のティファとトウマもいいやつだから」
この日、サラはつい1年ほど前にまさかまさかのゴールインを果たした干物の姉、サーニャの元に顔を出す予定が入っていた。
そのためにビアード家の領地である、とあるコロニーへとティファと共に移動していたのだが、その最中にとあるコロニーへと顔を出した。
そこはハインリッヒの領地。
その領地の、コロニーの港からちょっと離れた場所にある一軒家。
そこでサラはとある女性と会っていた。
「なんて言うか……迷惑かけたみたいね。あたしが家出してから、何度もコロニーを離れてあたしを探そうとしてたって聞いたし」
「結局、そこまでの事はできませんでしたが……ですが、無事で何よりです、サラ様」
「ン……その、ごめん」
女性の名はアミリア・カサヴェデス。
サラの幼少期に彼女の世話をした使用人であり、現在は使用人を退職して優雅な老後を過ごしている。
そう、サラが名を借りた(無断で)女性である。
「それにしても、私の名を使うとは……私はサラ様にそこまで好かれていないと思っていたのですが」
「そこは、アレよ。あたし、あんま人に好意伝えるのって得意じゃないから……アミィには凄く世話になったって今も思ってる」
「そこまで思っていただけるなら、ありがたい限りです」
アミリアとは産まれた頃からの付き合いであり、サラがティウス王立学院へと入学する1月ほど前に退職した。
退職理由は老後に十分な資金が集まったから。そして、もう歳だから。
アミリアは今年で93歳。
トウマの感覚では老婆も老婆だが、ナノマシンによる老化止めにより、外見は50代前半程度にしか見えない。
しかし、定年は90歳のこの時代、外見年齢が若くても90過ぎれば老人扱い。
それはアミリアも例外ではなく、定年かつ資金があったが故にミハイルからの提案により、退職を決意した。
あまり長く居すぎてアミリア頼りの職場になるよりも、後任に任せ、後任を育てるほうがいい。そう、ミハイルとアミリアが判断した結果だ。
アミリアの心残りと言えば、貴族らしくなかったサラの事だったのだが。
「…………しかし、傭兵ですか。先程聞いたときはビックリしましたが、確かにその方がサラ様には合っていたのかもしれませんね」
その心残りも、今日消えた。
彼女は穏やかな笑顔を浮かべている。
「……うん。兄様達にはこのまま傭兵を続ける事は伝えてるから、多分あたしはこのまま傭兵をやり続ける。だから、アミィの性、カサヴェデスの名前を騙り続けると思う」
「構いませんよ。そう珍しい苗字でもありませんから。息子や孫も気にしませんから。サラ様の好きになさってください」
「ん、そうする」
あまりにも遅い事後承諾ではあったが、アミリアはサラの言葉に頷いた。
「それにしても、サラ様はいいお仲間に出会えたようですね。私の知る時よりも、今の方が余程楽しそうです」
「うん。ティファはとんでもない事しでかすし、トウマは時代遅れの馬鹿だけど、いい奴らよ。あたしの素性を知ってもいつも通りで居てくれたし。それに、お金にも不自由してないしね」
「羨ましい限りです」
アミリアの言葉に、頷きながら彼女の淹れてくれた紅茶を飲む。
貴族の娘に出すには安すぎる紅茶。
だが、そんな安すぎる紅茶の方が、サラは好きだった。
幼い頃からアミリアがプライベートで飲んでいた安っぽい紅茶。それまでにお高い紅茶は飲んでいたが、どうしてもサラは適当に淹れた安っぽい紅茶の方が好きだった。
それは、今も変わらず。
「……それじゃあ、そろそろ行くわ。姉さんの様子を見に行かないと」
「そうですか。では、サーニャ様にもよろしく伝えておいてください」
「もちろん」
そう言ってサラは立ち上がる。
そのついでに、足元に置いていた荷物をそのままアミリアに渡した。
「あとこれ。この間、ココノエに行ってきたの。そのお土産」
足元に置いていた荷物。つまりは袋の中にはお菓子やら特産品やら。
「これはご親切に………………あの、サラ様? これ、いくらしました?」
それらを軽く見たアミリアだったが、何故か冷や汗をかいている。
確かにお土産にしては高めのものを選んだが。
「え? 合計で50万くらいだけど」
「も、貰えませんよ、そんな高価なお土産!」
「いいのいいの。稼いでるから」
「稼いでると言われましても、流石にこの額は!」
「端金よ。貯金だって2桁億はあるし、使い道も無いんだから」
「お、億……」
アミリアが呆然とする。
ハインリッヒ家の貯蓄で2桁億あるなら分かる。
だが、個人でそれだけ持っているのは。
「…………サラ様」
「ん?」
「お土産はありがたくいただきますが、今度金銭感覚を矯正しましょう」
「えっ、そこまで酷い?」
そこまでです。
それから数ヶ月後、なんとかトウマと同じレベルにまで金銭感覚が戻ったサラが居たが、その目は死んでいたとか。
アミリア・カサヴェデス。彼女は優しい人間だが、怒るときはとことん怒るし怖いのである。
ミーシャ、サーニャ、サラの3人の面倒を見てきた使用人だ。経験値が違う。
****
あとがきになります。
今回もQAをば。
Q:この世界、やろうと思えばプシュッで性転換可能?
A:流石にプシュッでは無理です。じっくり時間をかけてナノマシンと治療装置を使って体の構造をちょっとずつ変えていけば骨格から変わる完全な性転換が可能です。ウン億かかりますが。
骨格気にしなきゃ割と早め安めです。現代の性転換手術の結果と大差ありませんが。
Q:ゲームにライトニングビルスターとユニバースイグナイターを実装しても持て余さない?
A:ゲーマーでも練習したらギリギリ何とかなる程度に調整して出されるので流石に大丈夫です。VSシリーズのブレイヴとかヒルドルブ枠と思っていただければ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます