ワンセコンド可能

「トウマ・ユウキ、ユニバースイグナイター! 出撃する!!」


 コロニーの港から、巡航形態のユニバースイグナイターが飛び出す。

 その航宙戦闘機のようなフォルムに配信のコメントも、実況解説も驚いているようだ。


『と、トウマ選手の機体は、戦闘機!? これネメシスの大会ですよ!?』

『先程の声からして、機体名はユニバースイグナイター……あれ? どこの会社のネメシスなのかヒットしないんですが…………』

『いや、ネメシスじゃないでしょうアレは。全長も、普通のネメシスより2周りは小さいですよ?』


 どうやらいい反応をしてくれているらしい。

 少し楽しげに笑いながら操縦桿を動かしていると、モニターの先から光が。

 それを確認した瞬間、バレルロール。ユニバースイグナイターがいた場所をマシンガンの弾が通っていった。

 どうやら相手はペイント弾ではなく、演習用に出力を抑えたエネルギーマシンガンを使っているらしい。


『おっとトウマ選手、視界外からのエネルギー弾を避けた!』

『ゲームならあの距離で撃たれても余裕で避けれますが、リアルだとどうなんでしょう? 自分はちょっと反応しきれるか怪しいですね……』


 だが、これで相手の大凡の場所は理解した。

 更にフットペダルを踏み込み、加速。ユニバースイグナイターの最大速度で敵へと突っ込む。


『速い!? 流石戦闘機! 速度だけならネメシス以上か!?』

『いや、あの、これネメシスを使った大会なんですけど……?』


 ごもっともで。

 敵もこちらをしっかりと目視で捉えてマシンガンをばら撒いてきた。

 ならば、こちらも少し本気を出そう。

 操縦桿を動かし、巡航形態からネメシス形態へ変形する。


『へ、変形したぁ!!? あの機体、可変機だぁ!!?』

『うおおおおおお!!? 運営、運営! アレ実装しよう!! 賞品関係なしにアレ実装しよう!! 俺アレゲームで使いてぇよ!!』


 うーんいい反応。ティファが作った愛機への賞賛に思わず口角が上がる。


『クソッ、ただ変形するだけでいい気に……!!』


 しかしそれは相手からしたら面白くない反応だ。

 故に相手は銃弾に妬みを込めて先程よりも更に鋭くトウマを狙う。

 なるほど、トーナメントに出るだけあって射撃の腕に自身はあるらしい。

 だが、トウマはその上を行く。

 敢えて敵の弾幕の中を突っ切るように動き、必要最低限の防御で弾幕を突破。

 そのままこちらへ吸い付く銃口とそれに伴って放たれるエネルギー弾の中を曲芸士の如く、上下逆さまに動いたり、変形で一気に距離を取ったり、急にその場で停止して切り替えしたり。

 高機動機体という特性を存分に活かした回避行動を行う。

 俗に言う魅せプレイだ。


『あんな無茶苦茶な回避しておいて当たらないのか!? バトル・オブ・ネメシスなら確実にダメージを受けているのに!?』

『当たる瞬間だけ盾を構えて防いでいるみたいですね……バトル・オブ・ネメシスでもできない事は無いですが、そんな頻繁に盾を構え直していたら操作が追いつきませんよ』


 実況解説の一人がトウマの動きをゲームに落とし込んだらどうなるか、を語っている。

 バトル・オブ・ネメシスはトウマも一度遊んだことはあるが、感覚としてはネメシスオンラインに近かった。

 しかし、ネメシスオンラインはフルダイブVRゲームだったのに対し、バトル・オブ・ネメシスはアーケードゲーム。

 多少なりともバトル・オブ・ネメシスの方はネメシスオンラインよりも動作に制限がある。

 民間人でも取っ付きやすいように、敢えて動作に制限をかけ、その代わりにゲームらしくモーションパターンを多数実装する事でその不自由さをカバーしているからだ。

 その経験があるからこそ、この動きはバトル・オブ・ネメシスでは難しいとトウマはハッキリ言える。

 故に、魅せる。

 実際のネメシスの動きを。狂ったように対人戦を繰り広げ身につけた、己の最強の動きを。


『くそっ、なんでだ!? 当たっているはずだ!?』

「交錯は1秒もかからない……魅せてみるか……!!」

『おっと、トウマ選手、決める気か!?』


 巡航形態へ変形し、バレルロールを行いながら敵ネメシスへと接近する。

 どうしても当たる弾は瞬時に変形して盾で防ぎ、即座に射線から離脱。

 その動きは正に理想的な可変機の動き。

 実はトウマ自身、結構頑張って練習した動きだ。具体的にはサラを相手に100時間程。


『く、来る!? だが、この距離なら!!』

「ワンセコンド可能……ってね!!」


 そのまま、ほぼ零距離の密着状態へ。

 その状態で相手は的確にコクピットへ照準を合わせてきた。

 中々いい反応をしている。鍛えればいいパイロットになるだろう、と確信する。

 だが、トウマには届かない。


「イグナイトシステム、ブーストアップ!」


 銃口を突き付けられた瞬間、ユニバースイグナイターが一瞬青色の光を纏い、残像を残しながら敵機の前から消え、きっかり1秒で敵の真後ろへと回り込んだ。


『なっ……!!?』

「あばよ」


 そして、背中に銃口を突きつけ、引き金を引いた。

 エネルギーライフルの銃口からネメシスを破壊しない程度の一撃が放たれ、敵ネメシスの背中に直撃する。

 更に2撃、3撃と叩き込み、実戦なら確実に相手のコクピットを貫通するダメージを与える。

 勿論今は訓練用出力なので実際にそんな事にはならないが、相手も実戦なら死んでいると認識したのか、そのまま動きを止めた。


『け、決着ぅぅぅ!! な、何だ最後の動きは!!?』


 最後の動き。

 アレはトウマが練習した、ワンセコンドトランザムの真似事だ。

 1秒だけイグナイトシステムを使い、零距離で相手の背中に回り込み、致命の一撃を叩き込む。

 ワンセコンドイグナイト、とトウマが呼ぶそれは飽くまでも魅せるための動き故に実戦ではそう簡単に決められないが、こういう場ではピッタリだろう。


『1回戦第1試合、制したのはトウマ選手とユニバースイグナイター! その機体ゲームで使わせてくれマジでぇ!!』

「ふぅ。決まったか」


 失敗したらそのままイグナイトシステムで逃亡する、という情けない予定は実行せずに済んだ。

 実況解説からの賞賛を聞いていると、どうやらこちらの通信の音声はもう会場には聞こえないようになったらしく、自由に話していいしそのままコロニーに戻ってくれ、と連絡が来た。


『……次は負けねぇ』


 ならば、とコロニーに帰ろうとすると、相手のネメシスから通信が来た。

 なるほど、いい気概だ。


「楽しみにしてるぜ。それと、もうちょっと足動かしな。あの距離から正確にマシンガンで狙えるんなら、もっと足動かして盾を使えばもっと強くなれる」

『なんだ、上から目線のアドバイスか?』

「だな。けど、力量の差はわかってるだろ?」

『………………悔しいが、認めてやる。俺にアドバイスした事、次戦った時に後悔するんだな』

「させてみせてくれよ。そうしたら俺ももっと強くなって再戦するからさ」


 ユニバースイグナイターの手を差し出すと、相手も渋々ではあるが手を差し出してきた。

 ナイスファイト、と最後に告げて、トウマはコロニーへと戻った。

 さて、次はレイトの番だ。

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