バトル・オブ・ネメシス
仲良きことは妬ましきことでもある
トウマは一人、船の中で悩んでいた。
最近、一番戦闘スタイルが近いであろうトウマはミサキのネメシス戦におけるイロハを日々叩き込む仕事をしているのだが、この日は偶々それが早く終わった。
と、言うのも、ミサキはまだ子供。流石にこの歳で働き詰め、勉強詰めはマズいだろうという話になり、ミサキには急遽、その日の午後から翌々日まで休暇が与えられた。
ついでに労働時間やら何やらも見直され、ミサキは午前は勉強、午後は仕事の見習いorネメシスの訓練、夕方に差し掛かる前には退勤という生活リズムを取ることになった。
そういうアレコレがあったため、1日かけてミサキにネメシス戦とは何かを叩き込もうとしていたトウマは急遽暇になったのだ。
ついでに言うと、ティファとサラは別件で出かけており、ギャラクシーイグナイターと船を使って二人で出かけている。
そんな訳で暇なトウマはホロウィンドウを眺めて悩んでいた。
「うーん……ネメシスを使った勝ち抜きトーナメントかぁ」
偶々目に入った広告。それは、メロス国で近々行われるという、ネメシス戦に限定した勝ち抜きトーナメントの開催告知だった。
最近は誰かにネメシス戦のアレコレを教えたり、模擬戦の的になったりと、あまりPvPらしいPvPをしていなかったので、トウマ自身、少し暴れ足りないと思っていた。
その矢先にこれだ。
ただ。
「優勝者には賞金と、使っているネメシスをゲーセンのバトル・オブ・ネメシスに登場させる権利、ねぇ」
このトーナメントの協賛はゲームセンターで一度トウマもやった事がある、ネメシスを使ったゲーム、バトル・オブ・ネメシスの開発会社だった。
それ故の優勝賞品、と言うことだろう。
ただ、ただ、だ。
「興味ねぇんだよなぁ、そーゆーの」
別にゲームで自分が攻略不可能なNPC化するのは吝かでは無いのだが、そのために躍起になる程でもない。
どうしたものか、と悩んでしまう。
しかも。
「どーせ敵弱いんだろうしなぁ……」
そう、これに尽きる。
この世界のネメシス戦のイロハは歩兵の延長線だ。それが長いこと根付いてしまったが故にトウマのような一騎当千を前提とした戦い方は刺さってしまえば相手は蹂躙されるだけになる。
そんな一方的な蹂躙劇を繰り広げたいか、と言われれば否だ。
少しは手に汗握る戦いがしたい。
と、なると。
「うーん……………………あっ、そうだ」
トウマは閃き、通話をかけた。
通話先は。
『どしたのトウマさん』
「ようレイト。いや、なに、遊びの誘いだよ」
『ふーん。で、何するん?』
「メロス国でやるネメシスの勝ち抜きトーナメント、俺らで荒らさね?」
『それはあり寄りのあり』
この男、寄りにも寄ってレイトを誘いやがった。しかもレイトは乗り気。
「まぁ優勝賞品はどうでもいいとして、偶にはこういう場でPvPしようぜ?」
『いいねいいね。乗ったよそれ』
と、いう事でランカーと全一は大会を荒らすことに決めたのであった。
ブレーキは居ない。
****
勝ち抜きトーナメントは翌日開催であったため、レイトは珍しく有給を使い、ライトニングビルスターに乗ってトウマのユニバースイグナイターに牽引してもらう形で開催地へと向かった。
案外ハイパードライブは牽引してもらえれば恩恵に預かれちゃうのである。
ちなみに、もしも勝っちゃったらゲームに機体が参戦するけど問題ないかはティファとミーシャに確認済みである。
寧ろミーシャにはウチの最終兵器はヤバイってところを見せてこい、なんてノリノリで言われた始末。
機密じゃなかったんですかね、ライトニングビルスターって。
『しっかし、便利だよねぇ。ユニバースイグナイターのハイパードライブ』
「だろ? こうやって船で移動するのもなーって時とか結構重宝すんだよ」
『僕もライトニングビルスターに付けてもらいたいよ。ハイパードライブ』
単騎でのハイパードライブの恩恵に預かったレイトは心底羨ましそうだった。
それならスペースイグナイターを貰っておけば、と思ったのだが、それは後の祭りでしかない。
今はもうスペースイグナイターはミサキの機体なのだから。
とりあえずは安全運転で開催地のコロニーへと入らなければ、とトウマは操縦桿を握る。
すると。
『す、凄いねレイト! わたし、ネメシスが単騎でハイパードライブするの初めて見たよ!』
『まぁ、それに関してはあの機体が異常なだけだから……』
通信越しにイチャコラした声が。
「…………おいレイト。通信切っていいか?」
『接触回線で強制的にお裾分け♡』
「撃ち落としてぇ……!!」
『え、えっと……わたし、邪魔でした……?』
「あー、いや、ンな事ないけどさぁ……ただ、そんな可愛い人の心を射止めた同郷の男が妬ましいだけだよ」
『可愛いなんて……ふふ、ありがとね?』
「ドーモ」
そう、今回はライトニングビルスターにカタリナも搭乗している。
というのも、この日は休日。つまり学校も休み。
そんな時にレイトがトーナメントに出る、なんて言ったものだから、カタリナもそれを見学したいとおねだりし、婚約者に強く出れないレイトはそれを了承。
結果、ライトニングビルスターのコクピットはそこそこ手狭な状態だった。
ついでに言うと。
『それにしても、ネメシスのコクピットとは結構快適なのですね。まさかリクライニングもできるとは』
『あの、メルさん? なんかさっきからすっごいリラックスしてません?』
『いいじゃないですか。偶には』
『いいですけど……』
カタリナの護衛としてメルもついて来ている。
ライトニングビルスターはコクピット周りを改造した際にメインシートの左右にサブシートを取り付けており、案外快適なのである。
なんで3人が乗れる想定なのかは……ティファさんのその時の心情による。
ちなみに、ユニバースイグナイターも3人乗りは可能だ。こっちは機体が小さいのでマジで3人で乗るとギッチギチになるが。
「はーーーー、モテモテなこって、レイトさんよぉ」
『モテモテって……メルさんはアレだよ。元同僚』
『イエス元カノ』
『誰もそんな事言ってないが????』
『メルってこんな性格だっけ……最近なんだかメルのキャラ崩壊が凄い気がする……』
真顔でとんでもない事を言うメルと、そんなメルの様子に思わず頭を抑えるカタリナ。
どうやらこの主従、従の方が主を困らせる手合らしい。
初対面の頃のエキスパートメイドみたいな雰囲気はどこへ行ったのやら。
「しっかし、まさかレイトに婚約者なんてなぁ。俺はこうやって話す機会あんま無かったからぶっちゃけて聞くけど、カタリナ様。どうよこいつ。ちゃんと婚約者してるか?」
『うーん、ちょっとヘタレてるかなぁって。偶に凄いことしてくるけど』
「だってよ、ヘタレ」
『僕だって頑張ってんだよ……! それに偶にゃ頑張ってるよ偶にゃ!』
『まぁでも、そういうトコ含めて好きになったからいいんだけどね?』
「あーはい、ごっそさんです。レイト、カタリナ様に愛想尽かれるなよ?」
『努力はしてるよ』
もうどの角度で突っついても甘い話題が返ってくる。思わずコーヒーが飲みたくなるほどだ。
「…………ちなみに、ふと思ったんだけど、カタリナ様って学校で求婚とかされないのか? 可愛いしそういう話ありそうだけど」
『わたしと言うよりも、わたしの家目的でそういう話振ってきた人は居たよ? ハインリッヒ伯爵家と懇意にしてる家だから、その恩恵に預かりたいって』
「なーるほど? そういうのってどうするんです?」
『言って聞かないなら決闘かな。それに、そういう時はいつもレイトが来てくれるから心配した事はないかな』
『あ、ちょっ、それ秘密!』
「ふーん? ほーん? なるほどねぇ? 婚約者は自分の手でねぇ? よーやってんねぇ?」
『い、いや、その』
「自分の婚約者は自分の手で守りたいと。いやー、愛されてんねぇカタリナ様?」
『うん、愛されちゃってます』
『っ〜〜〜〜〜〜!!』
『声にならない悲鳴とはこの事ですか』
あまり色のついた話は得意ではないレイトは婚約者からの惚気と婚約者にバラされた自分のそこそこやり過ぎな行動を同郷の人間にぶちまけられ、声にならない声を上げた。
思わず一暴れしたくなってしまうが、流石に横に婚約者とそのメイドがいる以上そんな事もできない。
「ちなみに、メルさんでしたっけ? メルさんはカタリナ様がレイトと結婚して貴族やめたらどうするんです?」
『ビアード家のメイドのままですよ。まぁ、カタリナお嬢様の家事の腕が不安なので様子は見に行きますが』
『さ、最近は頑張ってるもん!!』
『洗濯も一人でできない甘ったれが何か言ってますね』
『ねぇそれ本当に従者としての態度!!?』
とうとうカタリナ半ギレ。
むきゃー、とメルに掴みかかるカタリナとそれを涼しい顔で貴族らしくないですよ、と物理的にも言葉的にも受け流すメル。
そしてカタリナがメルに掴みかかるせいでカタリナの体が押し付けられ全てを理解した表情をしているレイト。そこのお嬢様の体にゲッター線は無いぞ。
牽引のワイヤーロープパージしてやろうかなと思うトウマであった。
「はぁ……独り身にゃ辛いなぁ…………ん?」
ボヤきながら操縦桿を動かしていると、目の前が急に光り始めた。
この光はハイパードライブが完了する際の光だ。つまり、誰かが丁度ハイパードライブしてくるのだろう。
少しだけ距離を取ると、すぐそこに中型の船がハイパードライブしてきた。
「やっぱここらへんからは普通に移動するんだな。ちょっとハイパードライブ先の距離を離しすぎたか?」
目の前には開催地となるコロニーが見えているが、やはりハイパードライブはちょっとコツがいるなぁ、と思ってしまう。
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