とある男の末路

 とある男は2000万という大金を後先考えずに使いまくった。

 1つ数万の酒は買い、ギャンブルに金を突っ込んで。

 今まで金がなかったからできなかったんだと言わんばかりに金を突っ込みまくった。

 借金が元々300万程あったのでそれを全額返済し、ボロボロだった家もリフォームした。この時点で既に1000万は使っていたが、男はまだ金はあると思いこんでいた。

 そしてギャンブルに金を突っ込みまくり、高い酒を買いまくって。

 残った1000万という金は3ヶ月もしない内に消えていた。


「クソッ、2000万もあったんだぞ……! だってのにどうして……!!」


 もうミサキという、子供の小遣い程度の金を渡してくる体のいい働き蟻はいない。

 自分で働いて稼ぐという思考は元より無い。

 ならば、どうするか。


「…………そうだ、あのガキ。2000万をポンと払えるだけの貯蓄はあるって事だよな」


 奪うしかない。


「あ、あいつだって人身売買の証拠で強請られれば大人しく金を出すはずだ……! 後はあのガキの身元さえ掴んじまえば……!!」


 まずは借金でもして、港に行って職員に袖の下を渡し、あの日出ていった船とその乗員の情報を掴めば。

 そうしたら、あとは人身売買の証拠を元に強請って金を落とさせれば。


「ふーん、やっぱクズってホントどこまで行ってもクズだよね。まぁ、アタシが言えたことじゃないけどさ」


 あの日、投げ渡された端末を手に家を出ようとした時だった。

 女の声が聞こえると共に背中に何かが突きつけられた。


「おっと、動かない方がいいよ? 動いたら風穴か、このナイフが首に突き刺さるか。まぁ、少なくともどっちかが起こるよ?」


 そう言われ、視界の端をナイフがチラつく。


「悪いけど、こっちも仕事なんだよね。1月くらい前かな? どっかの馬鹿は絶対に行動するだろうから見張っててくれって結構なお金渡されてさ」


 ナイフを首筋に突きつけたまま、後ろにいた女が目の前に現れる。

 メイド服を着た女だ。


「人身売買とは名ばかりの口封じだったけどさ。破った時の誓約、忘れたとは言わないよね? あの子、しっかりと声に出したって言ってたし」


 言っていた。

 もしも口外したら殺すと。


「アタシ、こう見えてもプロでさ。人殺して痕跡隠すくらいの事はしっかりと学んでるんだよね。特に、お前みたいな独り身で、親しい人もいない、周りからクズと思われてる男なんて一番消すのが楽だよ」


 手に持っているのは拳銃とナイフ。

 もしもこれを奪えたら、と男は思うが、目の前の女の圧で動けない。

 少しでも動けば問答無用で刺してくるし撃ってくる。そう思わせる殺気。


「わ、わかった、お、俺と手を組まないか? か、金さえ強請れば、あとは山分けだ」

「うーん、悪いけどいらないかなぁ。あ、そっか。あの時レイトが言ってた言葉の意味ってこういう事か。お金よりも恩義が大事って」

「か、金だぞ!? た、大金なんだぞ!? 1000万や2000万の!」

「だーかーらー、いらないって。まにあってまーす」


 軽い口調の裏にある殺気。

 それは紛れもなく本物で。


「こ、このアマ……!! ど、退きやがれ!! テメェにゃ関係ねぇだろうが!!」

「もしかして頭悪い? 酔ってる? さっきから言ってんじゃん。仕事だって。あんたが契約破るのを見張ってるっていう」

「そ、それがなんたって……」


 直後、小さい音を立てて女の持つ拳銃が硝煙を上げた。

 弾は男の顔のすぐ横を通過し、後ろの壁にめり込んだ。


「もういい、我慢の限界。あんたの手に持ってる端末をこっちに渡してとっとと後ろ向いてベッドに潜り込め。そうしたら命は取らない」

「お、俺を殺したらお、お前だって……」

「こちとらプロだよ? 元、だけど」


 言いながら、女は男の首へナイフを突き付け、刺す。

 少しだけ。少し血が出る程度に。


「このナイフをあと数センチ刺して頭陀袋に入れて夜の港から出れば全て解決だ。お前は行方不明って扱いになって誰にも死んだことを悟られず忘れられていくんだ」

「ヒッ…………!?」

「10秒やる。このまま底辺這いつくばりながら生きていくか、ここで死んで宇宙遊泳するか選べ」


 男は震えながら端末を差し出した。

 それを女は乱暴に受け取り、ナイフで刺し破壊した。

 その後、先程脅しで撃った弾丸の空薬莢と弾頭を回収すると、ナイフと銃をメイド服の内側にしまった。


「じゃ、あとはご勝手に。証拠も無いのに人身売買したんです娘を助けてくださいって警察に言いに行く? 証拠も無いのに出港記録を金で買って強請る? 殺されかけましたって警察に泣きつく? アタシを探して復讐する? どーぞどーぞ、ご自由に。ただ、次に馬鹿な事をしたら、その代償はお前の命だ。お前が大好きな金の力で雇われた人間に殺されるんだ。わかったらとっとと寝てろ、クズ人間」


 そう言うと、メイドの女は去っていった。

 男は女が去ったのを確認すると、これは夢だと呟きながらベッドに潜り込むのであった。


「…………ったく、恩人からの依頼だからやったけど、もーやんないからね。確かに殺っちゃった後の始末は教えてもらったけど暗殺までは流石に専門外なんだから。こっちは生身での潜入と戦闘が専門なのに」


 そして男の家を去り、夜闇へと消えたメイド服の女。

 ビアード家の元メイド、セレス・ブランシュはあの日、船と鉄屑を運んでくれた恩人達へと依頼達成の連絡をして、家族の元へと帰るのであった。

 ──後日、とある男が窃盗の現行犯で逮捕された。その男には一人の娘がいるはずだが、娘は行方不明。男はたった一人、豚箱に叩き込まれたのであった。

 そして行方不明の娘の捜索も早々に打ち切られ、行方不明の娘……ミサキ・フジサキがこのコロニーで生きていたという痕跡は、綺麗に消えたのであった。



****



 零れ話


トウマ「なぁティファ。大マゼラン雲のイスカンダルって星とM78星雲に行ってみたいんだけど」

ティファ「権利的にNGよ」

トウマ「じゃあ銀河の中心に殴り込みかけたい」

ティファ「でっかいブラックホールがあるから死ぬわよ」

トウマ「えっそうなの……? あと、さっきはスルーしたけど権利的にNGってどういうこと?」

ティファ「トウマ? この世には思い付いても触れちゃいけない事があるのよ? さもないと消されるわよ?」

トウマ「あっはい……二度と言いません……」

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