切り開いた未来
「と、いう事で、ミサキを連れ出すことに成功したわ」
「うーんこの手慣れた人身売買」
「失礼ね。手慣れてはないわよ」
「否定するのそこだけでいいの……?」
その後、ミサキ含めた4人は船で再集合。人身売買の結果を伝えた。
あの父親なら何も言わずにミサキを拉致っても気にしなかっただろうが、まぁ念には念を。もしも拉致った事がバレたらそこそこ面倒な事になっていただろうし。
なので、相手には金を握らせ契約で縛ってこれ以上動けないようにした。
「と、いう訳で、ミサキ。あなたには選択肢があるわ」
「選択肢?」
さて、これで自由になったミサキだが、彼女に提示できる選択肢は2つ。
「そう。まず1つはこの船で生活すること。金は凄く貯まるけど、命の危険が凄いことになるわ」
「命の危険が凄いことに」
「えぇ。具体的には宙族相手に1対20したり、キングズヴェーリと戦ったり」
「む、無理無理!!」
まず1つは傭兵となること。
とは言っても、こちらはいつ死んでもおかしくないのでオススメはしない。
こう見えても割と綱渡りな人生をしているのは3人とも理解している。
「まぁ、そうよね。で、もう一個の選択肢は……」
「あたしの家。貴族の家なんだけど、そこの騎兵団に入隊する、ね」
「え? 貴族……騎兵団…………え?」
「ティウス国のハインリッヒ伯爵家って所よ。そこでメイドとかやりながら騎兵団の一員として働いてほしいの」
「あ、あたしが? 騎兵団? む、無理だよ!!」
「できるわ。だってあなた、トウマとあたしから逃げたじゃない」
「逃げたけど……」
「あのね、トウマとあたしはこう見えても腕が立つのよ? 宙賊を20機纏めて倒したりしてるし」
えー、という顔をミサキはしているが、まぁ無理もない。
無理もないが事実だ。
「で、ウチに来てメイドやりながら騎兵団の一員……まずは見習いで訓練からだけど、そうやって働くかね。もちろん、給料は出るわよ?」
「…………あ、安全、だよね?」
「安全よ、暫くは。騎兵団に入ってからは戦うことがあるかもしれないけど……まぁ、逃げてりゃ後は周りが何とかしてくれるわ」
「そ、それなら……そっちの方がいい、かな……」
「よし、決まり」
という事で、ミサキはハインリッヒ家の方で面倒を見ることに決まったのであった。
「な、なんかもう……いっぱいいっぱい……」
「あぁ、うん……まぁ、よくわかるよ、うん」
そして、今日1日で色々とありすぎたミサキは呆けてしまい、そんな彼女の肩をトウマがぽん、と叩いて頷くのであった。
その気持ち、本当によーく分かる。
「……でも、本当にいいの? あたし、人の物を盗んで、ネメシスまで……」
「まぁ、普通なら許されないわよ。でもわたし達は許す。そんだけ」
「どうして?」
「金ならある。使い切れないほど。あんたの出した損害がガキの小遣い程度にしか見えない程度には」
と、言いながらティファは自身の預金をホロウィンドウに表示した。
ミサキからしてみれば天文学的な数字にしか見えない。
「ヒェッ……」
「だから気にしないの。所詮は子供のやったこと。金もあって余裕もあるし、人命に被害が出たわけじゃないんだから。わたしが許すと言ったら許す。この決断を他の誰にも邪魔なんてさせないわ」
そう言いながら、あまり背の変わらないミサキの頭を乱雑に撫で回すティファ。
そして気付く。
「…………とりあえず、まずは風呂入ってきなさい。なんか髪の毛がベタベタする……」
「あっ、そういえばお風呂全然入ってなかった……」
お忘れかもしれないがこの子は数日間コンテナの中で住んでいた。
水こそ飲みに行っていたが、それが終わればすぐにコンテナの中に戻ってきた。
つまりはまぁ、そういう事だ。外で水浴びなんてできないわけだし。
「はいじゃあお風呂に連行。女の子なんだから身嗜みはしっかりとしなさい」
そしてミサキはサラの手で風呂に連行されていった。
このままあれやこれやと構っておけばミサキも被害総額の事は忘れるだろう。
ああいう天才は金を積んでも手に入らないのが普通だ。なら、金で解決できたらのなら十分。故にティファは許した。
「あー、ティファ?」
「なーに?」
そして、手を洗いに洗面台へ向かったティファにトウマは声をかけた。
「やっぱこうして見てると思うわ。ティファってやっぱいい女だなって」
「ふふーん、でしょ?」
ドヤ顔と笑顔が混ざったような表情に、トウマは笑う。
ティファの顔が少し赤いのは気のせいかな、なんて思いながら。
****
それからの話。
まず、ミサキはハインリッヒ家の方で雇われる事となった。
流石に人身売買した結果とは言えないので、人身売買の件は秘密。ただ、ミサキには才能があったのでスカウトした、という事にした。
「ミサキ・フジサキちゃんだね? 多分君は僕と同じ立場になると思うから、よろしくね?」
「は、はい……!」
ミサキはレイト直属の部下となった。
とは言っても、まだミサキは子供。暫くはハインリッヒ家の屋敷を仮住まいとして、メイドとしての勉強と、最低限の学力を身につけるための勉強をする事となった。
そして、レイトの直属という事はもちろん。
「ほ、本当に模擬戦やるんですか……?」
『だね。君はティファさん達にネメシスで戦う才能を見出されたから拾われたんだ。そこはちゃんとしないと』
「うぅ…………はい、頑張ります……!」
『よし。なら、まずはハインリッヒ騎兵団20人から逃げてみようか』
「鬼!! 悪魔!!」
こういう模擬戦をやらされる。
ハインリッヒ騎兵団20人から逃げろの訓練だ。
機体はスペースイグナイター。ハインリッヒ騎兵団の扱うブレイクイーグルとは性能の差は歴然。
ということは。
『速いというか上手いぞ、あの子!!』
『全力でかかれ!! また例の単騎でヤバいやつだ!!』
『例のアレか畜生!!』
『どうしてサラお嬢様といいとんでもないのがこう湧いてくるんだ!!』
「あ、これをこうして……で、ここ抜けて…………なんだ、結構簡単だ」
『なんだあの才能バケモン。回避力だけならランカーの中でも飛び抜けてるレベルなんだけど?』
ミサキさん、まさかの余裕。
ハインリッヒ騎兵団というこの時代で見れば化物集団と称される手練を相手に変形したスペースイグナイターで逃げきってみせた。
まだ攻撃には移れないようだが、逃げるだけなら間違いなくトップクラスの才能だ。
『いやほんと、トウマさんって天才の発掘が上手いなぁ……』
宇宙を舞うスペースイグナイターを眺めながら、レイトは一人呟いたのであった。
****
「あのー、レイトお兄さん?」
「ん?」
「あそこで凄い目であたしの事見てる綺麗な人は一体……?」
「あぁ、僕の婚約者。多分、ミサキちゃんと2人で仕事してることが多いから、嫉妬してるんじゃない?」
「えぇ……」
「だからちょっと耳元で愛囁いてくる」
「えっ、あっ、ちょっ…………ほんとに行っちゃった……あの、仕事中なんだけど…………うわ、あと人顔真っ赤になって固まっちゃった……あっ、ミーシャ様が出てきて鬼ごっこ始まった……」
「仕事サボってイチャついてんじゃないぞレイトォ!!」
「自分の分の仕事はしてるからいいだろぉ!!?」
「うるせぇ俺の前でイチャつくな!! 腹が立つ!!」
「うるせー!! 知らねー!!」
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