お約束の強奪
ティファの呆れたような、責めるような視線を受け、ミサキは一瞬言葉を詰まらせた。
『ぬ、盗む気はなかったの! ただ、隠れて違うコロニーまで行けたらって考えただけで……』
「過程はどうあれ、結果的にはいつでもネメシスを出せる状態になってる。ネメシスを盗まれそうってわたしが通報したらどうにもならないわよ? しかも、生体確認も回避するっていう徹底ぶり」
『ち、ちがっ』
「状況はそうとしか思えないわよ。まぁ、生体確認をネメシスの中までやらなかったこっちも悪いか。今度はセキュリティも強化しないと。被害ほぼ無しでセキュリティの穴に気付けた事に喜ぶべきかしらね」
ティファは溜め息を吐きながら通信越しにミサキと視線を合わせた。
「んじゃ、トウマ。あのガキンチョをコクピットから引っ張り出してきなさい。引っ張り出したらあのコロニーに強制送還して警察にしょっぴいてもらうわよ」
「お、おう……」
トウマはちょっとくらい話を聞いてやっても、と言おうとしたが、ティファの眼力に黙らされる。
こういう所でなぁなぁにしたらいつか自分達の足をすくわれる。
故に締めるところは締めなければならない。
トウマはティファの言外のソレを理解し、立ち上がる。
「と、言うわけで待ってなさい。大人しくしてたら丁重に扱って──」
『……送り返されるくらいなら』
黙っていたミサキは俯き、呟きながら操縦桿を握った。
マズい。
「ば、馬鹿! 動かし方も知らないのに何を!!」
『あんな所に送り返されるくらいなら!! 最後に暴れて死んでやる!!』
「やけっぱち!? 格納庫ハッチ展開、エアーロック解除、第3ハンガーパージ!!」
ヤケを起こしたミサキは操縦桿をデタラメに動かし、機体を好き勝手に動かし始める。
その結果、腕を固定していたハンガーは無理矢理引き千切られ、異音が船の中に響き渡る。
それを聞いた瞬間、ティファは即座に格納庫のハッチを開き、機体を繋げられているハンガー毎パージ。そのまま機体を宇宙に放流した。
「くそっ、トウマ! すぐに格納庫に空気を送るから少しだけ待って! サラ、あんたも行ってきて、イグナイター達であれをとっ捕まえて!」
「はいはい。ったく、とんでもない事やらかしたわね、あの子……」
モニターにパージした機体を映すと、どうやらハンガーは完全に引き千切られ自由の身になったらしい。
だが、宇宙での操縦方法が分からず、まるで宇宙で溺れているような動作をしている。
まさか機体が強奪されるとは思っていなかったが、これなら大丈夫だ。2人なら間違いなくとっ捕まえられる。
そうこうしている間にどうやらトウマとサラは格納庫に入り、持ち機のコクピットに座った。
『なーんでこんなことになったかなぁ……ユニバースイグナイター、トウマ・ユウキ、出る!』
『こういう事もあるわよ、偶にはね。サラ・カサヴェデス、ギャラクシーイグナイター、出るわ!』
そして2人はイグナイターで発進。
宇宙で溺れている、第3のイグナイターの元へと向かった。
『ど、どうしよ!? どうやったら動くの!?』
『あーもう落ち着け。あんま動くな。悪いようにはしないからさ』
『そうそう。強制送還はするけど、それだけよ』
『いやだ! もうあんな所、戻りたくない! もう殴られたくない!!』
『とは言ってもだなぁ……』
『そうねぇ……』
『なんで、なんであたしだけこんな…………って、わああああああああ!!?』
宇宙で溺れる第3のイグナイター。
それを見てどうするべきか、と視線を合わせるトウマとサラ。
とりあえず押さえつけて船に運ぶしかないか、と思った矢先だった。
イグナイターのブースターが急に勢い良く吹かされ、そのままイグナイターがとんでもない軌道を描いてすっ飛んでいった。
『あっ、ちょっ!? おい馬鹿止まれ!!?』
『や、やだあああああああ!! おうちかえらないいいいい!!』
『あーもうわかったからまずはペダルから足離しなさい!! どこまですっ飛んでく気よ!!』
『どうにかなれえええええええ!!』
『どうにもするな!?』
すっ飛んでいく第3のイグナイターを追うユニバースイグナイターとギャラクシーイグナイター。
どうやって止めようか、と思った矢先、ガチャガチャ操縦桿を動かしていたせいか、機体が変形する。
イグナイター特有の巡航形態だ。
その形態に変形すると、先程までとは段違いの速度ですっ飛んでいく。
『やべっ、変形した!?』
『追うわよ!!』
第3のイグナイターは変形したままコロニーとは反対方向に飛んでいく。
それをユニバースイグナイターとギャラクシーイグナイターが追うが、やはり同型機というだけあり、中々距離が縮まらない。
いや、離されていく。
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