思わぬ再会

 翌日。

 そのまま宿でゴロゴロする一番無駄で一番贅沢な時間を過ごしても良かったのだが、流石に移動してきた翌日をそれをやるのもどうか、という事で、3人は宿の近くにある繁華街。

 分かりやすく言うならば昨日来た場所と同じ場所に来ていた。

 理由としては至極単純。ロール以外へのお土産を買うためだ。

 ハインリッヒ家へのお土産と、それからレイト、カタリナへのお土産を買うのが主目的だった。


「やっぱ貴族向けの商品は扱ってないのね。まぁ、リゾートコロニーの品揃えが異常なだけか」

「そりゃ、あそこはそういう場所だからね。流石にココノエの1コロニーにそれを求めるのは酷よ」

「へぇ、そんなもんなのか。っていうか、ふと疑問に思ったんだが、ココノエにもリゾートコロニーってあるのか?」

「無いわよ? アレはコロニー国家のメロスだからできた、メロス特有の文化みたいなものだから。普通、コロニーは人を押し込むための土地にしか使われないのよ」

「ふーん。やっぱまだそこら辺、俺はわからんなぁ」


 身内へのお土産とはいえ、相手は貴族。流石にそこら辺で売っているお菓子などをお土産として用意するわけにもいかない。

 それに、量だってそこそこの量を用意せねばならない。それこそ、ハインリッヒ家への土産だけで他の人の10倍近くは渡さねばならない。

 下手に土産の量を少なくするとナメられている、とか変な因縁が付きかねない。

 流石に身内からの土産なら変な因縁も付かないが、変な噂は流れかねない。

 なので、土産の量も値段もしっかりと吟味せねばならない。

 そうして買ったお土産なのだが。


「…………なぁ、重いんだけど」

「同上」

「いや、ほんとごめんて……貴族ってそういうの大事だから……特にカタリナの方は違う家だし、お土産渡すならキッチリやらないといけないのよ……」


 トウマ、ティファ、サラは両手に大量の土産を持つ羽目になった。

 9.5割はハインリッヒ家とカタリナへの土産で、0.5割はレイトへの土産だ。

 重い、というよりも多くて邪魔、の方が正しいか。

 トウマが自分一人で持つか、とも思ったが、量が多いためそれも難しい。持てないこともないが、ちょっと歩きづらくなる。

 困ったものだ。


「まぁ、アレだな。1回宿に戻ってこれ置いてくるか?」

「でもお昼ご飯は外で食べないといけないじゃない? わざわざまた外に出るのも……」

「面倒よねぇ。これならお昼食べたあとに買っとけばよかったかも。失敗したわー」


 サラの言葉にティファとトウマは頷く。

 はてさて、どうするべきか。

 そう思っていると。


「ね、ね。お兄さん、お兄さん」


 トウマの服の裾がちょいちょい、と引っ張られた。

 それにこの声は。

 振り返ると、そこには。


「ん? あぁ、君は昨日の?」


 昨日、トウマの服の裾を同じように引っ張り、荷物を運んでくれた少女がいた。

 1万、と荷運びにしてはそこそこ法外な額を取られたのは一旦置いておく。


「うん、お兄さん」

「おいおい、今日は平日でまだ真っ昼間だぞ? 学校はどうした?」

「行ってないよ。お父さんから行くなって。行くぐらいならお金稼いでこいって」

「マジかよ……」


 少女は何でもないかのように笑っている。

 その表情を見てトウマは絶句する。まるで、そんな不幸は当たり前だと言わんばかりの表情に。

 だが、分かってたことだ。昨日、その程度は考えられていた。

 だから、すぐに言葉を継ぐ。


「あー…………で、なんだ? 今日も荷物運びで小銭稼ぎか?」

「うん。でも今日はあんまりいい人いないの」

「そりゃ今日は平日の真っ昼間だしな?」


 こういう時間にここに居るのはトウマ達みたいな金はある暇人くらいだ。

 そんな暇人がそう何人もいるとは思えない。


「だからお兄さん。またあたしが荷物運んであげるから、お金頂戴?」

「俺は金蔓かよ……で、いくらだ?」

「お兄さんは特別価格」


 と、言いながらホロウィンドウに表示されたのは1万の数字。

 うん、まぁ、知ってた。

 完全に金蔓認定されている。

 別にその程度なら痛くはないのだが、何となくナメられてる気がしてちょっとムカつく。


「あのなぁ。流石に俺も2回目はないぞ?」

「えー。ケチだなぁ」

「ケチじゃねぇよボッタクリ。相場考えやがれ」


 トウマの正論に少女はぶー、ぶー、とブーイング。

 ナメられてるなぁ、と思わず感じる。


「…………ってか、なーんでそんなに金が欲しいんだよ。親父に働けって言わねぇのか?」

「言えないよ。口答えしたら叩かれるし」

「っ…………そ、そうか」


 初手で地雷を踏んだ。横ではロリ2人があちゃー、という顔をしている。


「…………だ、だったら、どうしてこんなに金がいるんだ? 1万もあったらしばらくは食うのに困らないだろ? その間に誰かに助けてもらうとか」

「お金は全部お父さんに渡してるよ? 渡さないと叩かれるから。それに、誰に言っても助けてなんてくれないから」

「ねぇ2人とも助けてよ。俺の感性だと地雷しか踏まないからさぁ」

「あーもうはいはい。情けないわねぇ」


 ちょっと現代日本人、というよりもタダの学生にはこの子の家庭事情はちょっと重すぎる。

 ティファとサラに助けを求めると、ティファは呆れた顔をしてトウマを一歩下がらせた。


「とは言っても、わたしは何もできないわよ。精々、その額を何も言わずに払うだけ」


 と、言いながらティファは何の抵抗もなく1万を払った。


「わっ。ほんとに? 今度こそ冗談だって思ってくれるようにしたのに」

「こちとら金はたんまりあんのよ。さっ、払うもん払ったから仕事してもらうわよ。サラ、それこの子に渡して」

「別にいいけど…………この子が荷物をパクってく可能性は?」

「パクられたら万倍で請求するわよ。盗まれた分ね」

「し、しないよ。あたしは、少なくとも。お父さんにこれ見せたら何言われるか分かんないけど…………」


 まぁ、それに関しては同感、というよりも何も言わない。


「そんじゃ、それ運んでおいてね。運ぶ先は昨日のコンテナ」

「うん。ちゃんと鍵をかけておくね」

「それでよし。じゃ、あとはよろしくね」


 そうして少女は両手いっぱいに荷物を持ってよたよたと港の方へと歩いていった。

 多少なりとも手伝っていいんじゃないか、と思われるかもしれないが、こちらは金を。たかが配達に対して割の合わない額の金を払ったのだ。

 これくらいなら文句言わずにやってもらわないと困る。


「…………まぁ、できることなんてこんなもんよ。ああいうのを見る度に他所様の家に顔突っ込んでたら金なんていくらあっても足りないわ」

「そうだな……はー、胸糞悪いったらありゃしない」

「そればっかりは同感よ」


 せめて、この2日で渡した金で彼女の境遇が少しでも変わればいいのだが。

 そう思いながら、3人は次の店へと足を運ぶのであった。

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