いつかの未来、瞼の先に添えて

「ガキの頃は漠然と社会人になって嫁さん貰って、子供作って、老人になって……多分、自然と大人になるって思ってた。でも、現実は違った」

「そうね……わたしも、そう」


 漠然とした将来を見据えて、その中で大人になって、なんでも自分でできるようになると思っていた。

 だが、気が付けば人生のゴールも決めず、宛もなく彷徨う人生になっていた。


「傭兵になったのは後悔してない。でも、傭兵しかやってこないと、マトモな恋人だって作れない。マトモなやつはみんなマトモな人を選ぶから。マトモな道を生きてる人を」


 そう言いながら、ティファはトウマの持つ酒に手を伸ばした。

 力は殆ど入っていなかった。だが、トウマは抵抗せず、彼女の手に酒を渡した。


「一生独身上等ってガキの頃は思ってたわ。けど、こうして行く所まで行って、その先に何もない事が分かると、傭兵って間違ってたのかなって。女としてのわたしがそう思っちゃうの」


 そう言いながら彼女は体を起こして酒を飲んだ。

 出てきた弱音は全部酒のせい。そう言いたいから。アルコールが入ってきた順序は、もう知らない。気にしない。


「……間接キスだぞ」

「そんなの気にするほど初心じゃないわよ、わたしも。互いの食べさし食べた事もあるでしょ。勿体無いからって。今更よ、今更」

「それもそうか」


 もうこの付き合いも3年。いや、3年以上だ。

 あっという間だったが、3年間も一緒に居たら距離感だって徐々にバグってくる。

 サラが混ざった頃からとっくに距離感は身内のソレだ。

 間接キスだー、なんて言ってふざけあった事もあるが、間接キスなんて普通に日常的にしていた。同性の友人とのソレを気にしないようなノリで。


「……わたし達さ、どこまでの付き合いになるのかしらね」

「どこまでって……」

「3人の中の誰かが家庭持たないとも限らないでしょ? 誰かが恋人作って、このチームから離れて……そうしたら、疎遠になるのかなって。みんなで命懸けで戦った事も、ただの思い出になるのかなって。知らない人の横でそれを笑って語るだけになって」


 そうして、あの時の戦いを若気の至りだと思うようになって。

 将来設計なんてない。ないからこそ、考えてしまう。いつか、今を若気の至りと一蹴してしまう未来を。

 今が未来へと繋がらない可能性を。


「……まぁ、それがいいって言うんなら、ありなんじゃないか? 金ならあるしな。見知らぬ誰かと結婚して、スローライフ。いいじゃないか」

「…………そう、よね」

「でも俺は、正直に言えばこのメンツでまだ馬鹿をやってたい。気ぃ済むまでずっとさ」

「気が済むまでって……それで手遅れになったりとか」

「人生なんてそんなもんだろ。何やろうにも手遅ればっかり。手遅れになってから気付くもんだろ? あの時ああすりゃよかったなって」


 でもさ、とトウマは続ける。


「俺は今の生活が好きだ。そりゃ、ホームシックにだってなるし、彼女が欲しいって思った事だって何度もある。こっちに来てからもな。でも、今は今が楽しい。それでいいと思う」


 ポツポツと空の光が消えていく。

 もう寝る時間だ。

 夢を見る時間だ。


「だからさ、先の事なんて考えずに今やりたい事をやってきゃいいと思う。それが傭兵ってやつだろ?」

「……そんなんでいいのかな」

「いいと思う」

「そうやってさ、またシヴァみたいな物を作って面倒事を引き起こしたりしたら……」

「いいんじゃね? 俺もサラも、迷惑だなんて思っちゃいねぇよ。またすげーことしてるって呆れはするけどな?」


 なんとなく、ティファがセンチメンタルな気分な理由がわかった気がする。

 それなら、ハッキリと言う。


「ティファ。俺はお前のそういう面倒な事を引き起こす所含めて、お前の魅力だと思うぞ。それに、お前みたいな美少女の引き起こした問題なら、文句は垂れつつしっかりやれる範囲でやる事やるさ」

「み、魅力って……! て、てか、わたし、そんな可愛くないから。美少女なんて煽てて……」

「お前こういう系の事言われるのホント弱いよな。まぁ、だからさ。ティファの好きにやってくれよ。何があろうと、俺が最後までティファを支えてやっから」


 ティファは顔を赤くして酒を一気に飲み干すと、そのまま軽くはだけていた浴衣を整えた。

 多分、トウマの言葉をきっかけに恥ずかしくなったのだろう。


「う、うっさいばーか。普段は馬鹿なのにたまーにカッコいい事言ってからに……」

「普段はトボけた3枚目、時にはカッコいい2枚目。いい男だと思わねぇか?」

「し、知らないわよばーかばーか」


 いつものように……という割にはちょっとキレがない罵倒。

 チラッとティファの方を見てみると、ティファの顔は薄暗い縁側でも分かる程度には赤かった。

 コイツも照れる事あるんだなぁ、と思いながらもトウマはティファの罵倒をはいはい、と受け流す。


「じゃ、じゃあわたし、もう寝るから。お酒入って眠くなったし」

「ん、おやすみ」

「ふん、ばーか」


 ティファは縁側から出ていき、トウマはもう一度空を眺める。

 ジュースの方を飲み干したら寝るかな、と考えながら。

 一方その頃、部屋の中に入ったティファは。


「ティーファ?」

「さ、サラ……?」


 何故か起きていたサラと鉢合わせして。


「なーんかいい雰囲気だったわねぇ? まぁ、あたしは応援す」

「ふんッ!!」

「ごはぁ!!?」

「だ、誰があんなの好きになるかっての!! ばーかばーか!!」


 ニヤニヤしているサラに揶揄われた瞬間、ティファは真っ赤な顔はそのままにサラの肩を掴んでニーをサラの腹に叩き込み、寝室へと戻っていった。

 サラは腹を抑えたまま蹲ってダウン。

 そしてトウマはなんか結構痛そうな音が聞こえたので部屋の中に様子を見に行って。


「…………何してんの?」

「ちょ、ちょっとヨガの練習……」

「そ、そっか……その、頑張れよ?」

「う、うん……」


 トウマは軽く引きながら自分の寝室へと戻っていき。

 サラは暫くこういう色が付いた話でティファを揶揄わないと決めたのであった。

 ちなみに、サラが復活したのはこれから10分後であった。ティファの小さいニーはサラの鳩尾に綺麗に入っていたのだとさ。



****



 あとがきになります。


Q:やっぱりデレないヒロインはちょっと……

A:今回からそっち方面にも話を膨らませていきます(待たせたな)(舵取りが遅すぎる)(メインヒロインのそういう描写を書くまでに170話使った馬鹿)

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