夜中の会合

 宿に戻ると、サラはまだ変な体勢で呻いていた。

 別に放っておいてもよかったのだが、そろそろ夕食の時間なのでそっと彼女を水性ペンでキン肉マンに仕立て上げようとした。

 しかし、直前にサラは起きてトウマはお仕置きされ、無事顔面がアンパンマンになった。

 やーいお前の友達愛と勇気だけー。

 そうして起きたサラが顔を洗ってから、宿の外でこういう事をした、と軽く伝えて駄弁っていると、いつの間にか食事の時間になっていた。

 なので3人揃って地下の菊の間とやらに向かうと、そこには3人分の席が既に用意されていた。

 

「こう見るとマジで今日は貸し切り状態なのね」

「いいじゃない、得した気分になれて」


 という事で3人でそのまま運ばれてきた食事を食べる。

 ココノエ風、トウマ的には和風な料理は時折外食で食べる物もあるっちゃあるが、やはり本場かつ、高級宿の食事というだけあって質はいい。

 時折トウマでもよく分からないココノエ風独自の食事も運ばれてきたりして四苦八苦こそしたものの、食事そのものは美味しくかなりの満足度だった。

 そして食事が終われば。

 

「そんじゃ、俺もっかい風呂入ってくるから」

「えっ、また?」

「また。さっき外歩いてちょっとだけ汗かいたし」

「あー、ならわたしも」

「ティファも行くの? ならあたしも行こっと」

「んじゃ、着替えも下着だけじゃなくて館内着持ってくか。おっ、やっぱり浴衣だ」

「えっ、何これ。どうやって着るの?」

「そりゃあこう、普通に羽織って前を隠してから帯で縛るんだよ」

「な、なるほど……着る時にちゃんと調べないとマズいかも……」


 という事で、3人は改めて風呂へ。

 浴衣に関しては、下着は着けないのがマナーと教え込むお約束はしなかった。

 そうやって嘘を教え込んでバレたら宇宙を全裸で遊泳させられかねないので。

 という事で、もうひとっ風呂浴びて。

 

「あー、いい湯だった」

「確かに。なんか癖になりそう」

「わかるわー」


 汗も流してさっぱり。全員浴衣を着て部屋に戻ってきた。

 ちなみにトウマは適当だが、ティファとサラはしっかりと脱衣所で帯の結び方などを調べて万が一が無いように浴衣を着ている。

 卓球台でもあれば卓球をやろうかと考えていたトウマだったが、ココノエには温泉宿に卓球台を置く風習は無いらしい。

 というか、リアルで卓球台がある温泉宿って早々ないような気がしてきた。

 

「んじゃ、後は各自の時間って事で。トウマの寝室はあっちで大丈夫だっけ?」

「大丈夫だ。あっちは一人用の布団しかないしな。2人はあっちのダブルベッドで寝てこい」

「そーするわ。あと、寝ている最中に入ってきたら殺すから。絶対浴衣はだけてるから」

「オーケーオーケー。絶対入らん。っつか近づかん。俺だって命は惜しい」


 リゾートコロニーの時みたいに普通の寝間着ならこそっと入っていってどっちかをキン肉マンに、どっちかをテリーマンにしてもよかったのだが、流石に浴衣だとマズい。

 絶対に下着が見える。そしてそれがバレたら確実に宇宙全裸遊泳の刑に処される。

 という事で、寝起きドッキリは無しの方向で行くことにした。

 リゾートコロニーに行ったら絶対にやってやるが。絶対に2人をキン肉マンとテリーマンにする。その後の事は考えない。9割殺しにされるだろうが、今やって10割殺しされるよりはマシだ。

 

「んじゃ、俺はもう布団で横になってるから。お前らもあんまり夜更かしすんなよ」

「わーってるわよ」

「おやすみー」


 という事で3人は男女に分かれてそれぞれの寝室へ。

 トウマは寝室で端末を弄って動画などを見ていたのだが、昼間に半分気絶していたせいか中々眠くならない。

 なので、いつかのリゾートコロニーの時と同じように、ルームサービスのジュース……は無いので、一度部屋を出て自販機でジュースと、それから酒を買ってから縁側へ。

 普段は酒なんて飲まないが、偶にはいいだろう。

 

「わっ、びっくりした。トウマ?」


 縁側に出ると、そこにはティファが居た。これにはトウマも少しびっくりしたが、おう、と返事だけしておいた。


「どうした? 寝れないのか?」

「ん、まーね。移動中に寝落ちして昼間に気絶してたし」

「気絶て。いや、分かるけど。ジュースいるか? いるんならコップ持ってくる」

「あ、いる」


 どうやらティファは寝付けなかったらしい。

 寝付けないとしたらティファじゃなくてサラだと思っていたが、どうやらサラはぐっすり夢の中だそう。まぁ、彼女も彼女で最近色々と頑張っていたし、無理もない。

 コップを持ってきてジュースを分けると、ティファは一言礼を言ってそれに口を付けた。

 

「なんか久しぶりな気がするな。こうやってティファと2人きりで何もしない時間ってのは」

「……確かに、そうかも。そもそも、わたし達って無駄に働きすぎてたしね」

「違いない」


 最近はあっち行ったりこっち行ったり……はしてないが、ハインリッヒ家の客人としてもてなされ、2人だけという事は殆ど無かった。

 それ以前で考えても、やはりティファと2人きりのときは殆ど無く。

 サラが一緒にいるのが当たり前で、気が付いたらそれ以外考えられないようになっていた。

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