煽り耐性皆無
支払われた金額。それを見た少女は目に見えて驚いていた。
「えっ、うそっ、ほんとに!? 冗談だったのに……」
「冗談かよ……まぁ、別に金にゃ困ってないからな。寧ろ余らせてるし。ほら、船の場所も教えてやるから、払った金の分の仕事はしてもらうぞ」
あの馬鹿みたいな金額を冗談と、払われてから言った少女に呆れつつ、自分たちの荷物をどんっと渡す。
少女はそれを両手で抱えるように持った。落としたらぼったくられた分の文句は言ってやろうかと思ったが、どうやら仕事はしっかりとやる気のようだ。
「こいつを……どうするか。流石に格納庫の中に入れるわけにはいかんしな……ネメシスとかあるし」
「こっちですぐに荷運び用のコンテナを一個手配しておくわ。その中に入れて蓋しておいて」
「えー? わざわざー?」
「荷運びに1万も払ったんだし、多少はサービスしなさいよ」
「ぶー。なにさ、同い年くらいのくせに大人ぶっちゃって」
「悪いけどわたしは成人済みよ。もう20超えてるっての」
「えっ、ほんと? あたしと同じくらいちっちゃいのに? あたしまだ12だよ? ごまかしてるでしょ」
「いっけなーい♡ 殺意殺意♡」
ティファが似合わないハートマークと一緒に殺意の波動に目覚めかけた。
その様子を見て思わず少女は距離を取り、トウマが落ち着け、と言わんばかりにティファの肩を掴んで後ろに下がらせた。
「とにかく、船の場所は送っておく。近くにコンテナが用意されるはずだから、そこに荷物を入れておいてくれ。しっかりとコンテナの施錠もしておけよ。万が一、荷物が減っていたら問答無用で警察沙汰にするからな」
「はーい。お兄さんにはちゃんとお金払ってもらったし、ちゃんとやっとく」
「結構。んじゃ、ティファ。そろそろ俺達は戻るぞ。子供にキレてどうすんだよ」
「チッ……しっかりと仕事しなさいよ、ガキンチョ」
「べーだ」
「ころちゅ」
「だーもう落ち着け。君も、こいつを煽るな。それ以上煽ったら仕事はキャンセルで払った金も返してもらうからな」
「はいはーい」
少女はトウマの言う事を聞き、端末から出したホロウィンドウで船の場所を確認すると、荷物を両手に抱えたまま港の方へと去っていった。
ここから港まではそこそこ距離がある。それこそ、10km近くはあるはずだが、彼女はここからそこまで歩いていく気なのだろうか。
まぁ、どっちにしろ今回限りの付き合いだ。これ以上彼女の事を考えるのは野暮だろう。
「ったく……クッソ生意気なガキンチョだったわね」
「おめーが煽り耐性低すぎるんだよ」
少女が去っていった方を見ながらトウマは溜め息を吐く。
相棒の煽り耐性が低すぎるのもちょっと考え物だ。
なんて考えていると、丁度近くの店から一人の女性が出てきた。先ほどその店で買い物したので分かるが、その店の店主である女性だ。
「あんたら、あの子に馬鹿正直にお金払ったんかい?」
「え? あぁ、はい。こう見えても金持ちなんで」
「それにしてもだろう? そこら辺の宅配業者に頼んだ方が安く済んだろうに」
「いいんすよ、ほんとに。使い切れないくらい金はあるんで」
それこそリゾートコロニーのカジノで馬鹿みたいなレートで馬鹿みたいな賭け方をしない限りはそう簡単になくならないくらいの金がある。
女性はそんな事情はよく理解していないが、それならいいんだがねぇ、と続けた。
「あの子、身なりがボロボロだったろ? あの子の父親はちょっとアレな人でね……なんか、あの子に金を稼がせて自分は働いていないとか」
「うえっ、マジでそういう人っているんすね……そんなんで生きていけるんですか?」
「さぁ。借金しているとは聞いてるけど」
「そりゃあの子も災難だ……って、そこまで知ってるって事はあの子、ここら辺じゃ有名な子なんですか?」
「有名っていうか、嫌でも目にする子だね。あんた等みたいな観光客の荷物を運ぶからって小銭稼いでんのさ。最初に馬鹿みたいな金額見せて、そのあとかなり安い金額見せてさ」
「なるほど。ってか、金が稼ぎたいなら傭兵になりゃいいのに」
「トウマ。傭兵にも年齢制限はあるわよ。最低でも13歳から」
「あっ、そうなのか」
「いやいや、お嬢ちゃん。ウチの国だと傭兵は18歳、成人してからしかなれないよ」
「あら」
どうやら傭兵になるにも、国によって条件は違うらしい。
メロス国は13歳から、ココノエ神聖国は18歳からのようだ。
ちなみに、ティウス国では15歳から、アイゼン公国ではメロス国と同じ13歳から傭兵の登録は可能だったりする。ここら辺は実は結構国によって違っていたりする。
「……まぁ、もう会う事も無いし、早めに忘れてとっとと宿に戻るか」
「そうね」
この時代は現代日本よりも人の命が軽い。
犯罪であることは変わらないが、それでも家庭内の暴力で命を落とす子供だって、探せば珍しくはない。親がクズで子供が頑張っているという歪な家庭だってそうだ。
偶々知り合ったから助ける、という事は確かにできるだろう。できるだろうが、そうやって誰でも誰でもと手を差し伸べていたら、いつかパンクしてしまう。だから、こういうのは早く忘れるに限る。
トウマは漂流してからそれを学んだ。
きっと日本に居たままの感性だったら、確実に彼女の事が気になり続けて仕方なかっただろう。
だが、傭兵という仕事をする以上、そればかりでは済まないのだ。
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