ティファの決意

 残り2割の敵は何とか2人でも対応できる数だったため、何とか敵を掃討。2人は船に帰還し、パイロットスーツのヘルメットを外した。

 今回ばかりは久しぶりにヤバかった。

 単騎の相手が強かったという訳ではなく、単純に相手の数が規格外だった。

 下手な軍を相手にした時よりも数が多かったに違いない。

 

「いやー、今回はヤバかったな……ティファの援護がなきゃどうなってたか」

「そうね……しっかし、ハイパードライブ先に奴らの軍団が居たなんてツイてないわね」

「……ってか、あいつ、いつの間にあんなやべーの取り付けてたんだ……?」

「賊の基地に攻めてた時にはなんか船にくっついてたわね……なんだろうと思ってたけど、まさかシヴァだったなんて……」


 あの群れに急に襲われた真相。

 それは、偶々ハイパードライブを終えた際、直近にあの害虫とズヴェーリの連合軍が存在しており、ハイパードライブ終了と同時に襲われたのだ。

 なんともツイていない場所にハイパードライブしてしまった。


「まぁそれは置いといて。奴等ってあんな大群でどこに行こうとしていたんだ?」

「それは分かんないけど、放って置いたらロクな事にはならなかったでしょうね」


 そう言いながらサラは頭の中に宙域図を思い浮かべる。

 自分たちが戦った場所と、資源惑星とコロニー。その位置関係を頭の中で結び合わせる。

 奴らが居た場所。そこから直進した先で一番近い場所。それを考えると、自然とそれは思い浮かんだ。

 資源惑星だ。

 もしかして奴らは、資源惑星を襲いに行っていたのではないか。そのための軍勢を作ったのではないか。

 そんな考えがサラの頭の中を過っていた。

 だが、それも今やただの勘だ。確証を裏付けるものは何一つとしてない。

 

「さて、じゃあティファの所に行きましょうか」


 パイロットスーツを着たまま、かいた汗をタオルで拭きつつ操縦室へと向かう。

 操縦室では急いで何かプログラムを組んでいるティファの姿があった。どうやら先程のシヴァ・カノンモードの反省を踏まえてリアルタイムで改良を進めているらしい。

 

「ティファ、ただいま。状況は?」

「あぁ、おかえり。一応周囲をカメラで確認しているけど、気になる敵影は無しね。ただ、それはあくまでも今見えている範囲だけ。ここから星の裏にでも行ったらまた同じ目に合うかも」

「そう言われると行きたくねぇな……所で、あの星の地表はどんな様子だ?」

「見ているけど、やっぱり分からないわ。擬態しているのか、それとも星の中身が丸ごと奴らの巣になっているのかは分からないけど……今モニターに表示したけど、ほら、そこ。大きな穴があるのが分かる? そこから星内部にアクセスできそうなの」


 表示された映像を見ると、ティファが指をさしたところに確かに大きな穴が見える。

 大きさはよく分からないが、恐らくこの船も楽々と中に入れる程度には大きい穴のように見える。

 確かにこの穴が星の内部にまで続いているのなら、この穴の入って星内部へとアクセスはできることだろう。

 だが。

 

「……行くのか? 俺達の仕事は、奴らの巣を殲滅することじゃないはずだぞ」


 これ以上はこちらの仕事ではない。

 

「俺達の仕事は調査と奴らが出現したらしい場所の周辺宙域に奴らが居たら、それを駆除する事だけのはずだ。ここまでするのは流石に割に合ってないぞ。しかも、報告にはなかったズヴェーリまで奴らの味方に付いてるんだ。慈善事業でやる領域は超えているぞ」


 トウマの言葉にティファもサラも頷く。

 それは理解している事だ。

 3人の仕事に巣の駆除は含まれていない。そこまでやるにしても、今回の依頼は危険すぎる上に、巣の駆除はとてもじゃないが現実的ではない。

 星の内部に大量の巣を作り、大量に繁殖するこの害虫たちへの対抗策を持っているのは確かにトウマ達だけだ。

 だが、トウマ達は知っている。奴等を駆除しきるのはたった3人では不可能であることを。

 

「……トウマの言う通りよ。でも、このまま放っておけば、どうなると思う?」

「ンなモン……言われなくても分かってる。けど、俺達が奴等を駆除しきるなんて不可能だ。例え仕事で大量の金を貰ってもやりたかない。一生かかっても終わらねぇぞ」

「やっぱり、軍が仕事できていないのがキツイわね。こういう時、軍からの援軍があればいいんだけど、援軍が来たとしても所詮は肉壁にしかならないわ。ウチの騎兵団並みの練度があれば話は別だけど……」


 この問題の根本は、軍が奴らに対して無力であることが挙げられる。

 奴らに既存の兵器はビームセイバーしか通用しない。だと言うのにも関わらず、奴等にビームセイバーを当てるには、今の軍の戦い方はどうしても合わない。

 それに、ビームセイバーを当てるのだって、普通は至難の業だ。

 宙域で360度飛び回る相手に的確にビームセイバーを振って当てる。トウマのようなネメシスオンライン組やサラのような天才、ハインリッヒ騎兵団のような練度が異常なパイロット達がバカスカ当てるため感覚が麻痺しているかもしれないが、ロックオン機能もないのに宙域で剣を振って当てる方が難しい。

 それを全てのパイロットに求めるのは酷だ。

 

「…………やっぱり、やるしかないか」


 トウマとサラの言葉を聞いて、ティファは天井を見上げた。

 今回の問題は明らかに自分たちの手が回り切らない。

 だから、軍に動いてもらう必要がある。

 そのために必要なのは、武器だ。

 

「しゃーない。シヴァの設計図と理論、全部纏めてネメシスを作ってる会社に売るわよ」


 故に、こうするしかない。

 シヴァ。つまり、荷電粒子砲の設計図の売り込みを。

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