艦載荷電粒子砲

「あぁ、行ってくる!! オーバースプライシング、トウマ・ユウキ! 害虫を駆除する!!」


 カタパルトからオーバースプライシングが射出される。それと同時にバリアが解除され、船が無防備に。

 だが、その隙を相手に取らせないために射出された勢いのまま、トウマは害虫との距離を詰める。

 

「出し惜しみは無しだ! セパレートウィング、展開!! S-V.O.O.S.Tセパレートブースト、発動!!」


 オーバースプライシングからセパレートウィングが展開され、それと同時にトウマは第3のV.O.O.S.T、S-V.O.O.S.Tを発動する。

 S-V.O.O.S.Tは10分ほどしか使用できない上にV.O.O.S.Tの性能としては以前と変わらない。

 その代わりに、V.O.O.S.Tと同じ強化がセパレートウィングにも適応されるため、雑魚の殲滅速度においてはどのV.O.O.S.Tをも上回る。

 

「守り穿て、セパレートウィング!!」


 光の翼の大きさが2割増しになったセパレートウィングがV.O.O.S.Tを使ったオーバースプライシング並の速度で飛び回り、次々と害虫を焼き切っていく。

 だが、それでも。

 害虫の数はあまりにも多く、次々とオーバースプライシングとセパレートウィングの合間を抜けて船を追っていく。


『サラ・カサヴェデス、ラーマナMk-X! 行ってくるわ!!』


 だが、直後にラーマナMk-Xに乗ったサラが出撃して。

 

『ガトリングはパージ済みよ! 行ってきなさい、シールドブーメランッ!!』


 ガトリングをパージした盾を構えてぶん投げる。

 ビームの刃を周囲に展開したシールドブーメラン。それがサラの脳波によりコントロールされ、次々と船に迫ってきていた害虫を斬り刻む。

 更にラーマナMk-X自身もシヴァを放ち、着実に害虫を撃ち落としていく。

 そうして、何とか二機のネメシスで害虫を押しとどめておくこと10秒。

 

『ようやくバリア再展開完了よ、後は好きにやって!』


 船の方にようやくバリアが再展開され、安全が確保された。

 ティファからの後は好きにやれの言葉。

 その言葉はありがたいのだが。

 

「そうは言われても……」

『この数、ちょっとマズいわね……』


 敵の群れの中から離脱し、オーバースプライシングはセパレートウィングを回収してV.O.O.S.TをL-V.O.O.S.Tに切り替え、サラはブーメランとして投げた盾を回収、構える。

 しかし、目の前の光景は中々絶望的だ。

 目算でもその数は優に100を超える、ズヴェーリと害虫の連合軍。先程の10数秒の攻防で少なくない数の害虫を斬り刻んだはずだが、それでも残りの数がそれだけ。

 サラは貴族時代に学んだ敵数の大まかな数え方を使って敵の数を大雑把ではあるが数える。

 その数は。

 

『…………敵数、およそ600。しかも、後ろに控えているのが次々と出てきているから、更に増えるわ』

「冗談キツイぜ……!!」


 敵の巣に突撃した時ですら、ここまでの数は居なかった。

 せめてもの救いはここが宙域であり、更にこちらの残段も気にしなくていいという点だけだが。

 間違いなく言えることは、この数はたった2機のネメシスにどうこうできるような数ではない。トウマとサラ、更にレイト以外の人間ならば相対してから1分もしない内に囲まれて落とされる。

 

『そうは言っても、やるしかないっての!!』

「全くもってその通りの正論どうも!! 散開して少しずつ数を減らすぞ!!」

『了解! 幸運を祈っておくわ!』

「そっちもな!!」


 覚悟を決め、操縦桿を動かす。

 二機のネメシスは流星の如くその場から飛び立ち、それを害虫が追いかけ始める。

 更にはズヴェーリの触手やらが次々とその間を縫うように襲い掛かってくる。

 それを背面飛行で目視しながら回避し、荷電粒子の残弾が無限というアドバンテージを使って次から次へと襲ってくる害虫共を撃ち落としていく。

 

「クソッ、こいつらなんでこんな数の待ち伏せをしてやがった!!」

『というよりも、なんでこの数が今まで隠れられていたのかが不思議ね!! しかもズヴェーリが手を組んでるのすらありえないっての!!』

「色々とおかしいことになってるのは理解できたが、これって特別手当でるんだよな!?」

『クライアント様が出すって言えば出す、出さないって言えば出さないのがこの業界よ!』

「もう二度とこいつらの駆除の仕事は受け付けねぇ!! 絶対にだ!!」


 現時点の情報では分からないことが多い。

 だが、それでもやらねばならない。このまま逃げて誰かにこの群れを擦り付けることも、逃げ切る事も恐らくできないのだから。

 ここから生き残るには、この群れを駆除し尽くすしかない。

 

「実弾さえ効けばミサイルやらで一網打尽にできるんだが……!」

『効かないモンは効かないんだからしゃーないわよ! くそっ、フェンサー! 数を減らしなさい!!』

「俺も光の翼で突っ込むしかないか!」


 群れの中に突っ込むフェンサーウィングとオーバースプライシング。

 その数はかなりの勢いで減っているものの、やはり相手の数はあまりにも多い。それに、相手の攻撃は体当たりや触手だけではなく、害虫からの針飛ばしもある。

 何とか飛んでくる針に対応してオーバースプライシングは光の翼、ラーマナMk-Xは盾で防いでいるものの、やはり爆発する針というのは着々と機体に負荷を与えていく。

 盾で守っているとはいえ、それで衝撃まで完全に消せたわけではないのだ。それ故に、オーバースプライシングの方は光の翼を放っているバックパックに、ラーマナMk-Xの方は徐々に腕の関節に負荷が溜っていく。

 

「クソッ、じり貧だ!」

『でも、今は数を減らすしか……!』


 戦いは数。その常識は規格外の性能のネメシスと規格外の腕を持つパイロットを徐々に苦しめていく。

 このままでは押し負ける。2人にはそんな嫌な確信があった。

 だが、例えO-V.O.O.S.Tを使ったとしてもこの劣勢は覆せるものではない。

 どうやってこの場を切り抜けるべきか。2人が戦いながらもそれを考えて。

 

『2人とも! 今からそっちのモニターに射線を表示するわ! そこに敵を集めてわたしの合図で撤退しなさい!!』


 ティファからの通信を聞き、即座に2人は頷き動き始めた。

 何をするのか聞いている暇はない。だが、彼女が動いたという事は何かどでかい事をしでかす気だ。ならば、それに合わせない理由はない。

 オーバースプライシングが敵集団の周囲を飛び回り、注意を引き付けて射線上へと誘導する。更に、ラーマナMk-Xも実弾を使って注意を引き、何とか射線上に敵を釘付けにする。

 

『エネルギーチャージ、臨界点突破! 発射5秒前!!』

「サラ、離脱だ!」

『分かってる!』


 もう十分だ。

 2人は即座に射線上から離脱し、ラーマナは盾を構え、その前にスプライシングが光の翼を展開して構える。

 そんな2機に害虫とズヴェーリは殺到しようとするが。

 

『さぁ、ぶちかますわよ! シヴァ・カノンモード! 発射ぁ!!』


 直後、後方に引いていた船がバリアを解除。それと同時につい先日取り付けられた新兵器。

 艦載型のシヴァの銃口に溜っていたエネルギーが火を吹いた。

 銃口を超える大きさの荷電粒子の奔流が放たれ、射線上に居た害虫とズヴェーリを。それに加えて射線上から外れていた筈の害虫とズヴェーリまでもを余波と熱だけで害虫とズヴェーリの体が溶け、四散していく。

 スプライシングとラーマナは光の翼でしっかりと守った事もあり大きな被害は無かったが、光の翼を展開しているスプライシングのバックパックが一気にレッドアラートを上げ始めた。

 

「ちょっ、ちょっ!!? どんな火力だよ!!? ってやべっ、排熱が間に合ってない!? 緊急冷却開始!!」

『戦争屋が見たら卒倒しそうねアレ……』


 シヴァ・カノンモード。

 先日ティファがラーマナを借りて船に取り付けた新兵器の事だ。

 その火力はネメシスが持つシヴァの数倍。通常のシヴァがハンドガンなら、シヴァ・カノンモードはロケットランチャーのようなものだ。

 そんなものを最大チャージしてぶっぱなした故か、敵側への被害は甚大。まさに災害が通ったかのような状態だった。

 害虫はその体が熱により溶けて死亡し、ズヴェーリは体である液体が全て吹き飛んで核までもが蒸発している。

 とてもじゃないが船から放たれた一発の攻撃が原因による物とは思えない。

 少なくとも害虫とズヴェーリはその数が2割ほどにまで減っている。

 

『や、やばっ、流石に火力が高すぎた……ご、ごめんなさい、流石に今回のはちょっとマズかったわ……』

「なんつーもん作ってんだお前はよぉ……ってかあのときの大型荷電粒子砲って冗談じゃなかったんかい……いや、別にいいけどさぁ。死んでたら文句の一つも言ってたけど」

『死ななきゃ安いから。死ななきゃね。ほら、残りはあたし達で片づけちゃいましょ』

「それもそうだな。ありがとな、ティファ。後は任せてくれ」

『え、えぇ、任せたわ…………やばっ、完全に想定の数倍の火力出てた……ちょっとリミッター噛ませておかないと……あと反省も……』


 ティファからちょっと気になる事が聞こえてきたものの、一旦無視。

 2人は残敵の掃討に入るのだった。

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