友の言葉
「ティファ、あんた……」
「ハインリッヒ家を通してブレイク社に売りましょう。後は時間が経てば勝手に他の会社も真似ていくはずよ。そうしたら、そう遠くない内に荷電粒子砲は銀河中に普及されるはず」
既に特許は出してある。
後は、実際にブレイクイーグルに荷電粒子砲を装備させた状態でハインリッヒ家を通して売り込みをかければブレイク社はすぐさま荷電粒子砲の開発、量産に手を付けるだろう。
「勿論、オリジナルのシヴァからはスペックは下げるし、人にも分かりやすいように設計図も理論も書き直す。火力は精々ネメシスを一機爆散させる程度の威力にしつつ、マガジン式に改造する。そうしたらトリガーを引き続けて強力なセイバーとして振る、なんてこともできなくなるから……」
「ティファ。それでいいのか?」
そこまでスペックを下げても、荷電粒子砲は魅力的だ。
だから、ブレイク社とて放っては置けないはず。
だが。
「確かにそれで害虫問題は抑え込めるかもしれないが、ティファはそれでいいのか? 自分の作ったモンが軍に使われて戦争の道具にされるかもしれないこと。それに、賊だっていつかはお前が作った荷電粒子砲を装備し始めるかもしれないんだぞ? 前みたいに自壊プログラムを組み込もうったって、土台無理な話だ。それでもいいのか?」
荷電粒子砲は間違いなく瞬く間に様々な国、様々な場所、様々な戦争で使われていくことだろう。
そうなった場合、ティファが必死に作り上げた努力の結晶は、誰かの明日を奪い去ることになる。戦争に使われ、賊に使われ、誰かの明日を奪う事になる。
自分たちが使う分にはまだよかった。引き金を引く相手は選んでいたし、無暗に誰かを殺すために撃った事は一度たりとも内。
だが、作り上げたものをどこかに売れば、いつかはそうなる。
もしかしたら、自分達に牙を剥くことだってある。
それでもいいのか、と。
「……嫌よ。嫌だけど、このまま傍観者として誰かが死ぬのを知らぬ存ぜぬで通すのも嫌」
地球において近い話があるとするならば、ダイナマイトだろうか。
アレは元々採掘用の道具として発明され、運用された。
だが、その威力は人を魅了し、殺人の道具に仕立て上げられた。
違いがあるとすれば、それを発明した当人が戦争の道具にされる事を想定していた事だろうか。
ティファの場合は元々敵を排除するための武器として作り上げていたが、それでも身内以外には頑なに譲らなかった。
自分が売った武器が、無辜の誰かを殺す道具に使われたくなかったからだ。
だが、今回の場合は話が違う。
このままあの害虫の事を知らぬ存ぜぬで通せば奴らはいずれ他の星を浸食し、繁殖し、そして誰かを殺すだろう。
それをただ黙って見ておくわけには、いかない。
「例えわたしが新しい兵器を開発した悪魔の発明家、なんて言われたとしても。いつかは誰かの助けになるはずよ。知らない誰かから罵られる覚悟があるのか、なんて言われても、自分でも分からないけど……」
きっと、この力は誰かを救う力になるはずだから。
「……確かに、作り上げたのが武器という関係上、いつかは誰かの未来を奪うに決まっているわ。でも、ネメシスを作った人だって、ネメシスの武器を作った人だって、そこまでの覚悟はできていなかったはずよ」
プログラムを組む手を止め俯くティファの頭に、サラが肘をついた。
重いし痛い、というティファの言葉は無視。
「でも、あたしだって仲間が人殺しだって言われるのは腹立たしいわ。だから、あたし達が肩代わりするわよ」
「え?」
「あんたの名声は届かないでしょうけど、ハインリッヒ家がその全てを受け止める事はできるわ。ハインリッヒ家が作り上げたって宣伝して、ブレイク社に売り出せばいい。勿論裏ではあんたに金を流すけど、あんたに行く罵詈雑言は全部ウチで受け止められるわ。まぁ、そもそも子爵家に罵詈雑言を浴びせるような命知らずが居るとは思えないけど」
「でも……」
「確かにあんたが荷電粒子砲を作ったっていう事実は残る。それは間違いないわ。けど、その真実を知るものは身内以外居なくなる。あんたに直接そういう評価が行くわけじゃないわ」
そもそもティファは名声なんてこだわってはいない。
ただ、身内で笑い合いながら強くなって、その過程でいっぱいお金を稼いでいきたいだけだ。
名声なんていらない。
だが、貴族にとってはそういう名声は喉から手が出るほど欲しい物だ。
己の力の誇示の為、そして爵位を上げるため、外敵へのけん制の為。それはあの優しいハインリッヒ家とて例外ではない。
「ハインリッヒ家としてはそういう名声は常に欲しいわ。だから、選んでいいわよ。あんたが一人で矢面に立つか、ハインリッヒ家が名声も罵詈雑言も含めて受け止めるか」
「サラ……」
「あんたの名前は歴史の裏に消えていくわ。荷電粒子砲を初めて作り上げたのはハインリッヒ家のメカニックの誰か。そう伝わっていって、あんたの名前は出てこない。でも、あんたはその方がいいでしょ? あんたは名声なんて求めていない。ただ1人の傭兵として、気楽にやっていきたい。違う?」
「……そりゃそうだけど」
「それに、荷電粒子砲を売って、誰かがそれで罪なき人を殺したとしても、それはあたし達だって同罪よ。あたし達があんたの作った荷電粒子砲の実用性を証明しちゃったんだから。それを証明したあたし達も同罪」
ティファは名声なんて必要としていない。
今日まで続く中で作り続けてきたものだって、元々は両親の意志を引きつぎ、両親が馬鹿にされた事を撤回させるための意地で始めたものだ。
元々ティファ自身の名声や評価、評判なんて、食うのに困らない程度の仕事ができる程度に残っていれば問題ない。
だから。
「……そうね、お願いしてもいいかしら」
「任せなさい。あんたに降りかかる全ては、あたし達が引き受けるわ。なに、貴族たるもの、それぐらいは義務の範疇よ」
ティファの頭に置いていた肘を掌に変えて、ぽんぽんと叩く。
ティファが少しでも名声を気にするのであれば、きっとこの決断はなかった。他人からしてみれば、ティファの功績をハインリッヒ家が掠め取っただけにみえる。
それは事実だ。
事実だが、それでいいとティファは納得している。サラだって、功績を掠め取った以上、その分の責任が発生すると知っている。それを承知の上で、彼女の功績を掠め取った。
「……さっすが、天才メンタリストさんだこと」
「だーれがメンタリストよ、だれが」
「はいはい、悪かったよ。天才パイロットさん」
トウマからのからかいも特に気にせず。
さて、とサラは口を開いた。
「今ここで帰っても十分な功績にはなるわ。けど、どうせならもっとデッカイ功績が欲しいわね」
「デッカイ功績って……何する気よ?」
「この船ごとあの星の内部に突っ込んで巣の一つ二つ、破壊するのよ。きっと奴らは他の星にも既に魔の手を伸ばしているはず。だから、例え巣が作られてもこの武器さえあれば何とかなるっていう功績にするの」
「それって前回の巣の破壊の功績じゃ駄目なの?」
「アレはアイゼン公国内での機密になってるでしょ? それとは別に一個欲しいのよ」
なるほど、とティファは頷いた。
それならば、功績をあちらに押し付けるためにやるべきか。
「それが終わったら、さっき言ったとおりにシヴァを一般メカニックが理解できるように改良して設計図と理論を用意する。で、ハインリッヒ家でその技術の吸収と理解ができた段階でブレイク社への売り込みをかけるわ」
「中々長い戦いになるわね……?」
「そりゃね。普及するまでも結構時間はかかるだろうけど……それでも、これが一番早いはずよ。それと、ティファ。あんた、確かシヴァの特許は取っていた筈よね?」
「えぇ、そうね。特許費、全く入ってこないけど」
「でしょうね……ハインリッヒ家が開発したという事にする以上、特許関係は結構探られると思うわ。だから、改良したものはなるべく特許申請した技術とは別アプローチの物にしてほしいの」
「それなら簡単よ。あの特許は機体からのエネルギーをマニピュレータから無線送信する技術と、ネメシスの動力炉から送られてきたエネルギーを荷電粒子に変換する技術だけだから、エネルギーマガジン式に変えておけば自然と特許を回避した物が作れるはずよ。後はまぁ、ついでにトリガーを引き続けたらマシンガンみたいに連射できるようにしておくわ。そこまでやったら原型もかなり残らないでしょうしね」
「ならそれでお願い」
こういう、若干経済やら政治やらが関わってくる部分に関してはティファとトウマよりもサラの方が一枚上手だ。
そこら辺はやはり貴族としての教育を受けてきたサラに軍配が上がる。
「一応、この件はすぐに兄様達に連絡しておくから、ティファは作業に取り掛かっておいて。トウマは、出撃準備を」
「わかったわ。念のため、結構簡略化させておくわ」
「了解。一旦シャワー浴びてからすぐ出撃できるように待機しておく」
「お願い。あたしもシャワーを浴びてから、兄様に連絡するから。それが終わったら出撃準備に入るわ」
これからの事を簡単にまとめた3人は各々準備に取り掛かるのだった。
さて、まずはハインリッヒ家へ話を通すことと、目の前の小惑星の内部掌握をしなければ。
ティファは一応、依頼は達成した旨の連絡をしつつ、簡略化したシヴァの設計図作成と荷電粒子砲の理論の纏めには居るのであった。
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