害虫駆除、再び

原生生物の再来

 モニターに映されたのは、黄色と黒の甲殻を持った生き物。

 それが、宙域と思わしき場所を移動している姿。

 そう、あのテラフォーミング中に戦闘した原生生物だ。それが、宙域を飛んでいる。

 

『実は、この生物は近年、民間や傭兵の間で噂にはなっていたのだ。宙域を移動している生命体が存在している、と』

「その調査もロクにしていなかったわけ?」

『あぁ。だが、無理もないだろう? 宙域をこんな生き物が飛んでいるなど……真空の宙を透明な羽根で羽ばたいて飛ぶ生命体がいると言われたところで、信じろと言う方が無理だ。それに、こうして写真を撮られたこともあったが、こいつらは蜂に似ている。故に、合成写真だろうという結論で済ませられていたのだ』


 そう言われればティファも口をつぐむしかなかった。

 こればっかりは軍の男の言う通り。こんなのが宙域を羽ばたいて移動しているなんて言われたところで信じられるわけもない。合成写真だろ、と決めつけて終わるだけだ。

 宙域生命体はズヴェーリしかいない。それが常識なのだから。

 

「……って事は、マジでこいつ等は宇宙からあの星にやってきたってこと? 確かに奴らの甲殻はそれができるけれども」

『あの星に居た原生生物が宇宙に進出したのか。それとも、宇宙のどこかに奴らの本拠地があるのか。それはまだ分からない。が、少なくとも奴らはこうして宙域に存在している。それは確かだ』


 ティファが一人の時にぼそっと呟いた、宇宙怪獣という言葉が割と洒落にならなくなってきた。

 だが、こいつらは間違いなく、その名前に相応しいスペックと、現実を持ってきてしまった。

 そして、駆除はティファ達にしかできない。

 厳密には軍でも可能だが、手を出そうものなら相当数の軍人が犠牲となる事だろう。

 それならまだ金で動く上にしっかりと奴らへの対抗策を持っている傭兵を使った方がいい、という事か。

 

「なるほどね……で、幾ら出すの? それと、正式な依頼内容は?」

『噂通り金でしか動かんか……一応、軍からはこれだけ出すつもりだ。依頼内容としては、この原生生物が現れた周辺宙域の調査及び、原生生物の駆除だ。我等には奴らに対抗できる武器がないからな』

「言っとくけど、わたし達はこの国の人間でもないから、金を積まれない限り動く義理は無いわ。で、依頼内容も金額も確認したけど、特に問題は無し。いいわ、受けましょう」

『助かる。それと、周辺宙域の調査の際は気を付けてくれ。奴らは巣を作るんだろう? もしかしたら周辺の小惑星帯に巣を作っていてもおかしくはない』

「忠告ありがと。死なないように精一杯気を付けるわ」


 連続での仕事となってしまったが、元々奴らには実弾は通用しないし、補給だってこの依頼の前に済ませたばかりだ。連続での仕事でも問題は無い。

 とにかく、今の依頼は依頼者への連絡を持って完了とし、すぐに次の仕事に移らねばならない。

 

「それじゃ、早速こいつらが目撃された宙域へと向かうわ。ここの後始末はよろしく」

『任せてくれ。そちらも頼んだぞ』


 ティファはその言葉に適当な返事を返し、通信を切ってから後ろにいるトウマとサラの方を見る。

 

「さて……とんでもないことになったわね」

「まさかアレが宇宙に居るなんてな……」

「大気圏突入も可能で冷気にも耐性があるとは聞いていたけど……本当にアレって生き物なの?」

「どうなんでしょうね。わたしはふざけて宇宙怪獣、なんて心の中で呼称してたけど」


 宇宙怪獣。その言葉を聞き、サラはなるほど。と頷く。

 ただ、トウマだけはげーっ、という顔をしている。

 

「どうしたのよその顔」

「いや、宇宙怪獣って聞くとどうもな……銀河の中心近くを埋め尽くすレベルでうじゃうじゃいる上に大きさがキロ超えている化け物共が頭の中に……」

「あんたの時代、マージで想像力豊かね」

「うん、俺もそう思う」


 物量と質量だけで日本が生み出した最強ロボット軍団相手に互角以上の戦いができるとすら認識される、某作品の宇宙怪獣の事を思い浮かべたトウマだったが、流石にあの蜂はそこまで共謀ではないだろう。

 そんなのが居たらこの時代はとっくにこれ以上の開拓は諦めて自分たちが居る銀河の専守防衛のため、軍備を強化しているだろう。

 したところで勝てないと思うが。

 

「……さて、トウマから現実になってほしくないことを聞いたことだし、とっとと行きましょうか」

「そうね。精々数匹程度ならいいんだけど……」

「その程度で済むかしらね」

「まぁ、でも最悪の場合は一体だけのメスを潰せばよくね? 働き蜂なんてオスだし、それで繁殖ルート潰れるだろ」

「あー、それなんだけどトウマ。なんか蜂って虫を調べてたら、働き蜂ってのはメスしかいないって見たんだけど」

「…………うっせぇ俺は虫ニワカだから間違えることだってあるに決まってんだろ!? 一々あんな害虫の生体なんざ覚えてられるか!!」

「わー顔真っ赤」

「ドヤ顔で語ってたもんね。そりゃ恥ずかしいわ」

「黙らっしゃい!!」


 なんか最後に空気がギャグ化したが、それはともかく受けた仕事はしっかりとこなさねばならない。

 ハイパードライブを起動したティファは、とりあえず機体の整備をしてくると言って格納庫へと向かっていった。

 だが、トウマとサラはパイロットの勘故か、この依頼は一筋縄では終わらないという予想をしていたのであった。



****



 あとがきになります。

 蜂のアレコレは誤植とかじゃなくてトウマくんが間違えた事にしました。

 虫興味ない人の知識なんてこんなもんって言いたいけど、蜂を使うんなら最低限調べなさいよ、と過去の自分に言いたいです。

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