餅は餅屋

 賊の基地は宙域戦闘を行える戦力が無くなった事で籠城を開始。トウマとサラは逃げるナニかが出てこないようにと見張っていたが、結局そんな勇敢な者は現れず、通報を受けたアイゼン公国軍が到着するまで待つこととなった。

 軍も今回の件はある程度尻尾を掴んでいたようで、通報があってからすぐに動き始めた。

 とはいえ、だ。歩兵隊を準備し、そしてそれを輸送して、となるとかかる時間は1時間や2時間では済まない。そのため、トウマとサラは交代で基地の見張りを行いつつ、ティファが念のため資源惑星周辺で動く機影が無いかを確認することとなった。

 結局、軍が来たのはそれから4時間ほど後。急いできたのだろうが、それでも待たされたトウマ達からしたら遅いと文句を言いたくなるほどの時間が経過してからだった。

 

『なるほど……では、奴らがここ最近、この航路を用いた民間船や傭兵を襲っていた賊であると』

「間違いないと思うわ。で、アイツらの持っているネメシスは全部破壊しておいたから、後は内部の制圧だけ。一応、今から送るデータに記載された人が居たらそれだけは教えて欲しいわ」

『分かった。だが……何故君たちで内部を制圧しなかった? 軍を待てば敵に準備の時間を与え、その後の戦況は膠着状態になると分かっていただろう』

「生憎、わたし達は生身での戦闘は貧弱もいい所なのよ。たった3人で制圧に行っても銃火器持った奴らに撃ち殺されるだけ。そういう所は弁えてるのよ、わたし達は」

『そ、そうか……』


 どうやら軍としては、どうせなら内部も制圧してくれと言いたかったらしい。

 まぁ、その方が軍としても仕事は無くなるし、面倒な事もしなくて済むので助かるのだろうが。

 だが、生身での戦闘に関してはティファ達は貧弱もいい所。

 ウィングのように思考で操作が可能なドローンやらロボットを作っていれば話は別だが、生憎ティファもウィングをそこまで小型化することはまだできない。

 そのため、餅は餅屋。こういうのは軍の歩兵隊に任せるしかなかった。


『…………どうやら内部の制圧が完了したようだ。至急、君たちが探している人物が居ないかを確認しよう』

「助かるわ。それと、奴らの基地内のネットワークとコンピュータはこっちの方で制圧済みよ。ログに名前が無かったからそこに居るか、既に死んでいるかだろうけど……念のため、このデータはそっちに転送するわ。好きに使って」

『助かる。しかし、ここまでできるのなら軍に欲しいくらいだな……流石、以前のテラフォーミングの際に我が軍を置いて活躍した傭兵と言ったところか』

「お褒めにあずかり光栄よ。で、結果は?」

『少し待ってくれ……………………どうやら居たようだ。だが、薬を打たれて無事とは言えない状態らしい』

「結構。じゃあ、その人たちの治療費はわたしが持つから、病院への護送と、速やかな治療。それから、治療が終わった後は家族の元へと帰すための船のチケットの用意をお願い」

『いや、君がくれた賊共のサーバーデータのみで十分だ。これはこちらが依頼を出した事にして、その報酬でこの夫妻は治療し、家に送り届けよう』

「あら、話が分かる柔軟な軍人ね。じゃあ、それでお願い」

『あぁ。例え、他の国の人間であれど、我が国で好き勝手していた賊の被害者なのだからな。丁重に扱おう』


 どうやら、捜索対象はこの賊達に攫われ、そして商品にされかけていたらしい。

 幸いにもまだ売り払われておらず、臓器も無事だとか。

 薬に関しても、この時代であればしっかりと治療すれば後遺症もなく薬は抜けて日常に戻れるだろう。これなら、依頼主に対象は無事であった事、治療を終えれば戻ってくることを伝えれば依頼は完了となるだろう。

 トウマとサラもその通信を後ろで聞いていたため、胸をなでおろしていた。

 とにかく、これで依頼は完了。両親の帰りを待つ子供にはいい報告ができる事だろう。

 ティファもそれは同じようで、ホッとした表情を浮かべて通信を切ろうとしていた。

 が。

 

『すまない、通信を切るのは少し待ってくれないか?』


 通信を切るな、と言われた。

 ティファはその言葉に怪訝な表情を浮かべながらも、言われた通り通信は切らなかった。

 

「なにか?」

『元から君たちには、軍の方から一つ依頼を出すつもりでな。先ほど、この場でそれを伝えてもいいか上に聞いていたのだが、ちょうど伝えても問題ない旨の連絡が来た所だ』

「依頼? 悪いけど、シヴァ……荷電粒子砲関連の話題はお断りよ。設計図をくれだとか、現物をくれだとか、金を返せとか、そういうの含めて全部ね」

『そ、その件は私からはすまないとしか言えないのだが……いや、別の話だ。君たちの力を借りたい』


 どうやらシヴァの返却に関してはあちらとしても思う所があったらしい。

 ちょっとどんな内輪揉めがあったのか詳しく聞きたい野次馬根性が若干顔を覗かせたものの、それは一旦心の奥底にしまい込んで、それで? と相手に続きを話すように促す。


『これはまだ軍内部では機密なのだが……君たちは当事者だからな。特別に、君たちとコンタクトを取れた場合は話してもいい事になっている』


 そう言いながら、彼は1枚の画像を通信で送ってきた。

 軍で使われている強固なプロテクトがかかった画像。それの解除方法を聞き、一時的にプロテクトを解除して画像を覗き見る。

 そして、モニターに表示された物を見てティファは。いや、ティファを含めた3人が目を見開いた。

 

「こ、これって……」

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